保養地文化

 老舗旅館「茅ヶ崎館」さんを、「すきや連」の有志の皆さんと一緒に再訪し、「登録有形文化財」のお部屋で、小津安二郎監督が愛した「カレーすき焼き」を食べて来ました。

 私が「カレーすき焼き」をいただくのは二度目で、既に弊ブログの7/25号と7/29号、8/3号に書きましたので、詳しくはそちらをお読み願いたいのですが、時に、なんでまた温泉も湧かない茅ヶ崎に老舗の、歴史的建物の旅館があるのでしょう?

 そういう旅館が存在するのは、この土地が別荘・保養地文化の土地柄だったからです。

 湘南地域(=相模湾沿岸一帯)には、明治時代から別荘・保養地が形成され、首都圏の政財界人・文化人らが滞在する土地に成りました。当時は「潮湯治」という言葉があって、潮風に当たることが療養に成ると考えられていたのです。

 有名な例を挙げれば、小田原の元老・山縣有朋、大磯の元老・西園寺公望、やはり大磯の吉田茂首相があります。

 そうした湘南の中にあって、茅ヶ崎はなぜか、政財界人より文化人が多く、小津監督は、その一人だった、というわけです。そうした人々が交流することで、文化的な土地柄が出来上がったようです。

 さらに「!」なことに、その保養地文化は現代まで続いています。

 現代茅ヶ崎を代表する人と言えば「サザンオールスターズ」の桑田佳祐さんだと思いますが、桑田さんの御父上は茅ヶ崎で映画館を経営していたそうです。「茅ヶ崎館」の五代目・森さんに、そう教えて貰いました。

 このことを聞いて私は、へええ!と声を上げてしまいました。

 ここまで知れば、茅ヶ崎を単に「東京のベッドタウン」「海水浴場」と看做すのは失礼だということが分かりますね。

 そうした経緯で、湘南には明治・大正・昭和の邸宅が今でも残っているようです。結構なことです。

 ところが、です。結構とばかりも言っていられないことに、歴史的建物が相続の難しさや維持管理の費用負担などから、次々に失われているそうなのです。

 そうした建物を行政が引き取って保全している事例もありますが、予算が潤沢なわけではなく、そして何より、そうした建物が「文化財然」としてしまうと、活きた文化創造の場ではなくなってしまいます。

 湘南の人達は、そのことに飽き足りなくなったらしく、行政・NPO・民間が大合同して「湘南邸園文化祭連絡協議会」を作り、建物を保全活用⇒さらに新しい湘南文化を創造し発信することを目指しているそうです。

 「茅ヶ崎館」の五代目・森さんも、そのグループの若きリーダーの一人です。9/1に始まった「湘南邸園文化祭」の最初の「キックオフイベント」は「茅ヶ崎館」さんで開催されたそうです。

 こういう文化が亡くなったら、つまらないですよね!

~森さんはそう話しておられました。

  まったく、その通りと思います。

 すき焼きっていうものは、そうした文化的土壌・文化的雰囲気の中で伝えられて来たので面白いんです。

 しかし、そのための経済的御負担は小さくないと拝察します。何しろ修繕を出来る大工さんも少ないのです。

 そうした保全活用を、なんとか経済的に成り立たせるために、皆さま方も是非「カレーすき焼き」をお召し上がり下さい。私からも、切にそうお願い申し上げます。

 追伸①

 藤井恵子さん著の単行本『浅草 老舗旦那のランチ』に登場させていただきました。
 不肖・住吉史彦が、「浅草演芸ホール」の席亭さんや、「音のヨーロー堂」の四代目とランチをしながら、浅草について対談する、という趣向です。

 他にも20人ほどの、浅草の旦那さんたちがリレー対談で形式で登場します。

 是非ご購読を! 平成24年6月3日、小学館発行。
 ご購入はこちらです。 (できればレビューも書いて下さいね!)

追伸②

  「日本国復興元年~1千人の笑顔計画」を実行中です。

 この「計画」では、まず「ちんや」で東北・北関東の牛を食べていただきます。そして食後の飛びっきりの笑顔を撮影させていただきます。

 その笑顔画像をこちらのサイトにUPして、北の産地の方に見ていただきます。

 現在の笑顔数は300人です。笑顔数が1千人に達するまで継続してまいります。

 参加者の方には、特典も! 

 皆様も、是非御参加下さい!

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて931日連続更新を達成しました。毎度のご愛読に感謝いたします。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

 

 

 

Filed under: すきや連,すき焼きフル・トーク — F.Sumiyoshi 12:01 AM  Comments (0)