対話
お客様、消費者の方と個別に対話するのは、実は気が重い仕事です。
時折、肉について変な知識をお持ちの方がおいでだからです。
そして、そういう方に限って、何故だか自信満々。自分は堂々たるグルマンだと信じておいでです。その、高い御プライドを傷つけずに、誤った知識を修正するのが難しいのです。
それはかなり難しいです。極めて難しいと言っても良いでしょう。だから気が重いのです。
ベターなのは最初に私が一方的に肉の味について、30分とか基礎知識をお話しさせていただいて、それから個別対話に入ることです。先月も人形町の「つくし」の五代目が大勢さんを連れて来て下さり、私の話しをご所望だったので、喜んで致しましたら、一人の方が質問コーナーで手を上げました。
「今教えていただいたことは初めて聞くことが多く、自分は肉に詳しいつもりでいたので、少しショックでした。なぜ我々一般人は、そういうことを知らないんでしょうか?!肉業界のPRが足りないんではないでしょうか?!」
はい、PRが「足りない」というよりは「味とあまり関係ない点を、売り手サイドがPRしている」というのが正確だと思います。
美味しい牛さんを育てるのも、美味しい肉を流通させるのも、やろうとするとコストばかりがかかります。 業界としては、それは困るので、コスト削減=美味しくなくなる方式を採用します。
しかし、それでもなんとか高く売りたいので、どこか他をPRしたくなります。 で、いきおい、味とあまり関係ない点をPRしてしまうのです。
それを真に受けた人が、変な知識を蓄えてしまうのです。例えば、
いやあ、住吉さん、この年になって、つくづく思うんですけどねえ。やっぱり水ですよね、水。肉も、米も、酒も結局水だって気づいたんですよ!そうでしょう、住吉さん?!
(実際の対話)な、なるほど、そ、そんな感じだと思いますよ、私も。
(心の声)ほとんど水分の酒と肉を同列に語れるわけないでしょう。水が関係ないとは申しませんけど、水が良くても短期肥育であれば、脂の融点が高くて、その肉を食べればモタレますよ。
こういうことに成ってしまうので、その牛さんの県の県庁が、そういうPRを展開しているからなのです。
それを真に受けて、水が良い→肉が美味いと短絡に信じておいでなのですが、高い御プライドを傷つけずに、その誤った知識を修正するのが難しいのです。
部位の件もそうです。 どこか特定の部位がとびきり美味いと信じ込んでいる方が結構おいでですが、美味しく育てられていない牛さんの、特定の部位だけ取り出しても美味しくはないですよ。
その部位を「激推し」する店の、売り文句を真に受けて、短絡に信じておいでなのですが、高い御プライドを傷つけずに、その誤った知識を修正するのが難しいのです。 お客様、消費者の方と個別に対話するのは、実は大変気が重い仕事です。
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