気楽な稼業

 今日はボヤキです。

 「ちんや」は、すき焼き専門店でして、ファミレスのように、いろんな料理は無く、また、すき焼きと申しますのは、何人かで鍋を囲んで食べるものです。「ちんや」の場合は、原則4名様で鍋1台をつついていただきます。

 そういう食べ方でOK!是非食べたい!というお客様ばかりが来て下されば良いのですが、大勢様の場合、中にはそれを内心「イヤだなあ」と思っている方が混ざっていたりします。

 ご法事などの場合で、たまにあるのですが、ご主人様(=つまり喪主様)は「是非ちんやですき焼きを」と思っておいでなのに、奥様が「イヤ!」ということがあります。

 最初の予約の電話がご主人様からあり、有り難くお請けして喜んでいると、何日か経って、奥様から電話が架かってきます・・・

 「鍋は1人に1台ずつ用意してちょうだい!」

 「4名様で鍋1台」の原則を絶対譲らない、というつもりは無く、多少の融通は利きますが、「一人に1台ずつ」は流石にムリです。鍋が4倍必要で、ガスの配線も4倍に分けないといけません。

 その位イメージできないのかねえ、ムカムカ。と思いますが、そうは言わず、ご説明すると、奥様お気に召さないらしく、今度は、

 「なんで、客が自分の食べ方を選べないの? おかしいじゃない!(ブチ!)」とキレてきます。

 こっちも譲らずお断りすると、1時間くらいして、ご主人様から、申し訳なさそうな声で、キャンセルの電話が架かってきます。

 そんなに親戚と鍋をつつきたくないんですかねえ。

 逆のケースもありますよ。もともとはあまり親交のなかった御一族が、法事のすき焼きがキッカケで仲良くなり、以来法事で「ちんや」へ行くのが楽しみになった、という例も実際にあります。

 他の店で、せいぜい、御一族一同冷ややかにお過ごし下さい。

 もっと往生するのは、肉を食べられない人がいる、という電話です。しかも予約からだいぶ時間が経ってから。

 「肉が・・・召し上がれ・・・ないんですか・・・」

 そういう場合は、肉の代わりにザクを増量して、さらに変わりザクも入れ、鍋もその方だけ別に用意したりはできるのですが、奥様お気に召さないらしく、

 「もっと他の料理は無いの?」

 「手前どもは、すき焼き専門でして・・・」

 「わかってるわよ!」 (ブチ!=再び脳がキレる音)

 またまた1時間くらいして、ご主人様から、申し訳なさそうな声で、キャンセルの電話が架かってきます。ご丁重なる、お詫びをいただき恐縮です。

「自分はザクだけでも良いと思うんですけどね。結構美味いですよね、ザクだけでも。知ってますけどね、なにしろ、そういうのは親戚の手前、カッコ悪いって、ヨメがイヤがるんですよ。」

 今の1時間で夫婦がイガミあっていたことは明らかです。余計なことながら、夫婦仲が心配になります。

 つくづく思いまするに、

 「すき焼きは、気楽な稼業と来たもんだ!」

 末筆ながら、谷啓様に、心より哀悼の気持ちを捧げます。

  本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

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Filed under: すき焼きフル・トーク,ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 12:01 AM  Comments (0)