出前すき焼き、使い捨て文化
猛暑の中、TV朝日「ちい散歩」で宣伝していた「ひえひえジェルマット」を注文しようとしたら、電話が殺到しているのか、つながらず、注文できませんでした。
ムカっと思っていたところへ、「百味」8月号が届きました。
「百味」には、向笠千恵子先生の新連載『続すき焼き ものがたり』が連載されています。この新連載は5月号より始まったもので、今回は8月号ですので、第四回です。
早速拝読しますと、「すきや連」で旧知の、F社長の御店「今朝」さんの、創業期から発展期の話しが書かれておりました。
面白いのは、かつて、すき焼きの出前をしていた、という部分です。
「今朝」さんのある場所は新橋で、花柳界がありますから、その花柳界の待合に、すき焼きの出前をしていたそうで、鍋も貸し出しており、配達専門の小僧さんまでいた、というから驚きます。
「待合」という言葉は、昨今ほぼ使われなくなったので、念のため説明しておきますが、客と芸者さんが会うための貸席のことです。料理を作る設備はありません。
料理を作る設備がある方は「料亭」と言いますね。待合とは、料理を作れない料亭と思っていただいてもまあ、良いでしょう。
そういうわけで、待合は、料理を作れませんから、近所の料理屋から仕出しをとります。「今朝」さんのすき焼きも仕出しの1種だったわけです。
料理屋の発展ものがたりを読んでいると、なぜか途中で出前を始めている例が多いですね。
私も、かつて自分の店の商売のことを思案していて、すき焼きの一通りの具材に割下も揃えて、バイク便を使って出前をすれば喜ばれるのかなあ、と思ったことがありました。
でも、問題は鍋です。
「今朝」さんが出前をしていた頃も、店に戻ってきた鍋が、焼け焦げていたり、傷ついていたりで難儀した、と書かれています。慣れない人が、鍋を使ってオジヤを作ろうとすると、焦げさせてしまうことがあり、後で始末が大変面倒です。
そう言えば、鰻業界は、今でも出前をするのがお約束ですが、名門「竹葉亭」の七代目B社長が、出前の件で、ボヤいていたことがありました。平成のある日、職人の技が光る、立派な、塗りの重箱に、蒲焼を入れて出前したら、使い捨ての箱と勘違いされて、捨てられかかったのだそうです。
昭和のはじめから塗り直しを繰り返してきた、この重箱をゴミ箱に放り込んだのは、大手銀行の重役秘書のお嬢さんだったそうです。使い捨て文化が、いかにこの国に定着しているのがわかります。
使い捨て文化の世の中だと、鍋の貸し出しは難しいよなあ、やっぱり。
鍋はむしろ、売るしかないのかな、骨董品として。
古物商の免許でも獲るか。考えてみれば、元美術部員なワケだし。
え? クソ暑い日には、あんまりものを考えない方がいいぞ! って? そうでした、ハイ。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。
*『続すき焼き ものがたり』については、このブログの5/2号をご覧下さい。
*新連載『続すき焼き ものがたり』が掲載されている、月刊「百味」については、こちらです。
*「今朝」さんについては、こちらです。
*「竹葉亭」の重箱ポイ捨て事件については、「三田評論」2009年10月号をご覧下さい。