特産松阪牛

今、肉の世界ではブランドというものが揺らいでいます。

「○○牛」と言った場合に、それがブランドつまり品質を表現しているのか、産地証明であるのか、判然としないことがあるからです。

天下の「松阪牛」すらそうです。

キッカケは2001年のBSE問題でした。この問題は業界に大きいショックを与え、それを境に品質よりも安全性が重視されるようになりました。産地証明がキチンと出来ていることが安全ということだ、という発想です。

それで2002年に松阪牛の定義が変わりました。現在の定義は・・・

「松阪牛とは「黒毛和種」の「未経産(子を産んでいない)雌牛」で、(中略)三重県・中勢地方を中心とした旧22市町村、および、旧松阪肉牛生産者の会会員の元で肥育され、松阪牛個体識別管理システムに登録している牛をいう。」

このように現在は、産地と、牛の品種それから「未経産」ということだけを定義しています。

それ以前には、その他にも項目があったのですが、定義から外されました。

規約から外れた項目は:

1格付け⇒格付けが最低のC-1であっても現在は「松阪」。

2肥育日数⇒松阪に1年いなくても現在は「松阪」と言える場合がある。

3素牛(=子牛)⇒かつては最高品質とされる但馬や淡路で生育した素牛のみであったが、現在は九州産の但馬系の牛(=純粋な但馬牛ではないことがある)が多い。

かつての「松阪牛」に相当するのは、現在の「特産松阪牛」ですが、その頭数は全体の6%でしかありません。しかも東京に出荷されることが大変少なく「幻」の存在と言っても大げさではないです。

残りの94%を、規約改訂前の基準では「松阪牛」と名乗ることが許されなかった牛肉が占めています。

但馬系の血統の牛は、脂肪の融け出す温度(=融点)が世界で一番低い為、甘く上品な風味がありますが、その特徴的な風味のない松阪牛が、どんどん登場してしまっているのが実態です。

まあ、その中にも旨い牛はおり、「ちんや」が買う場合もありますが、上記のような次第ですから、94%の全てが素晴らしいとは言えないのが現状です。その中から選ぶ、ということが必要になるのです。

そう、これこそ「木曽路」問題の、真の原因です。

木曽路の社長さんが、松阪でも、それ例外の産地でも差はあまりない、と言ってしまった原因は、これです。94%の方の残念な方を、イメージして言ったのでしょう。

私の見るところでも、他の産地と逆転しているケースがあると思います。

ここに書いたことは決して悪口ではなく、BSE問題を境に考えた方が変わった、ということです。地元の方向性を変えて欲しい、ということを言っているわけではありません。

「ちんや」が、独自の視点で欲しい牛を仕入れれば良いだけですからね。

ついでに申せば、ここに書いた話しは既に色々な所に書かれている話しで、新着話しではありません。

さて、この10月、「ちんや」では縁あって「特産松阪牛」を販売します。

「特産」であれば、おそらくほぼ全頭が素晴らしいと言って良いと思います。これぞ、Theブランドです。

「特産」の肥育日数は「松阪地区で30ヵ月以上」と厳格に規定されていて、それ以前に子牛の時期が8~10ヵ月ありますから、相当の長期肥育です。

今回の牛は、なんと44ヶ月。普段「ちんや」が使うのは30カ月以上ですから、滅法長く、スーパーの牛と比べたら、20カ月近く長いです。

ここまで飼えば、味も濃くなりますし、脂は良く融けて甘いです。「特産」の名称だけはブランドとして立派に機能していると言えると思います。

しかも、かつて日本畜産史上最高価格の牛を輩出したことのある生産者の方です。

ですから目利きなどせずに仕入れてOKな位ですが、問題はあって、それはお値段です。

なにしろ長期間飼ってますからねえ、原価がかかっているんです。

「ちんや」の、たしかな舌をお持ちのお客様が、このお高い肉を買って下さることだけが頼りです。

よろしくです。

 

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.686日連続更新を達成しました。

毎度のご愛読に感謝いたします。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

Filed under: すき焼きフル・トーク — F.Sumiyoshi 12:00 AM  Comments (0)