「三嶋亭」さんの、急な階段

 向笠千恵子先生の新連載『続すき焼き ものがたり』が掲載されている、月刊「百味」6月号が届きました。5月号より連載が始まりましたので、今回は第2回です。

 早速ページを開けますと、今回は京都・三条寺町の「三嶋亭」さん=私も旧知のM社長の御店、についての記事でした。さて読みはじめますと、私としては「うーん」という所からスタートしました。「三嶋亭」さんの、店舗のバリアフリー対応のことから、記事がスタートしているのです。

  向笠先生のお母上様は、俳人でいらして、俳句を作るのが脳に良いせいか、ご高齢でも頭脳は大変明晰でいらっしゃいます。しかし、御み足には不自由なところが少しあって、そういう方には、古くからの店舗は不都合なことが多いのです。

 特に「三嶋亭」さんは、玄関を入ると、2階へ続く急な階段があって、そこにロビーがあるのです。1階にも客席がありますが、1階の客席へ入る客も、いったん2階ロビーを経由して1階へ入る=つまり、まず登って⇒別の階段を降りる、という構造なのです。これが、御み足の不自由な方にはキツイのです。

  記事によれば、結局今回、その2階ロビーを経由せず、バックヤードを通り抜けて、1階の客席へ入られたようです。「裏手の通路に案内され、下足箱の前を通り、配膳室脇を抜け、事務机の傍から表廊下へ出た」という具合だったようです。

  要するに、社会が高齢化しているのに、店舗の構造が合わないのです。先生はこのことを「日本の生活文化のとってはひとつの危機」と書いておられますが、実は「ちんや」にとっても、こうした問題があります。

  「ちんや」の現在の店舗は、昭和50年竣工のビルですので、エレベーターもありますし、「三嶋亭」さんほど、やっかいではありません。しかし、それでも御客様には玄関で下足をお脱ぎいただいた上で、ご入店いただく構造でして、その際に50cm程度の段差があります。その段差さえ突破すれば、あとは平らなのですが、そこだけは何とかしないといけません。

  「少し御み足がご不自由」くらいなら、下足番がお手伝いして、押し上げてしまいますが、困るのは、車椅子のお客様です。

 店外から車椅子にお乗りになったままでは、御入店になれないので、店内には店内用の車椅子を1台用意してあります。玄関でそれに乗り換えていただくのですが、まだ1台しか用意してありません。ついては、お席のご予約と同時に、店内用車椅子もご予約いただかないといけないわけです。(利用料は無料です)

  「ちんや」のもう一つの問題は、お使いいただく部屋自体の構造です。個室が7室ありまして、その内6室は、洋室(=椅子席)または掘り炬燵の個室だから良いのですが、大広間・ご宴会場と、個室の残り1室は、あいかわらず和室です。(小さいお子さんがおいでの場合は、やはり和室が良いので、全部を洋室にはしていません。)

  ご宴会の場合は、椅子でなくて、動き回って歓談できる和室の方が、楽しい宴会になる、と私は思っていて、だから現在の構造を直していないのですが、しかし、そもそも和室に座れなければ、楽しい宴会にもなりえませんね、たしかに。

 だから、洋室の宴会場も増やしつつありまして、20名様までなら、洋室で宴会もできるようにしてあります。

 先日、八王子のすき焼き屋「坂福」さんをお訪ねしたら、D社長が「ウチは今でも、会議室以外は全部和室ですよ!」と自信満々でしたが、「ちんや」はそこまで強気になれません。

  日本の生活文化にとって、残念なことでも、少しずつ、椅子席化が進行するのは避けがたいと思います。

 思いまするに、古いもの全てを残すことはできません。しかし、古いものの中の、エッセンスあるいは本質は残さないといけません。その判別のための眼力が、私やM社長に必要なんだと思います。

  違う眼力なら、あるんですけどねえ。

 え? なんの眼力があるかって? それについては、このブログ5/29号をご覧下さい。ひひひひ。

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

*新連載『続すき焼き ものがたり』が掲載されている、月刊「百味」については、株式会社ビジネス・フォーラムへお問いあわせ下さい。(電話:03-3288-9180)