最後の正月
正月になりますと思い出しますのは、とある会社のOB会のことです。
毎年正月3日の昼11時半から「ちんや」で開かれていました。
しかし、です。そのOB会の予約が弊店に入ったことはありませんでした。そう、毎回予約無しで「フリーで」集合して見えるのです。人数は12~13人ほどでした。
この方式は店側としては、実に困る方式でした。何故って、正月の浅草で13人ものまとまった席を確保するなんて至難の業だからです。
え? 人数? 集まってみないと分からないけど、そうねえ、たぶん12~3人じゃないのかあ。
と簡単におっしゃるので、私は、
予約無しで、そんなに簡単に13人の席なんか造れませんよ!
とキレないよう堪えるのに必死でした。
しかし年を経るにしたがい、席を確保するのは楽に成っていきました。
13人⇒10人⇒7人⇒5人⇒3人と人数が減っていったからです。
そして、ある年ついに、お一人に成ってしまいました。
最後のお一人様は、「ちんや」の前の路上で、11時半から1時間ほど立ち尽くしておいででしたが、やがて諦め、
誰も来ないから帰るね・・・
とおっしゃいました。私は、
お一人でも結構ですから、召し上がったらいかがですか?
と申しましたが、
いやあ、悪いから帰るよ。
と言って帰っていかれました。こんな忙しい日に一人で席を使っては悪い、という意味でしょう。「お一人様ブーム」が起こるだいぶ前のことでしたから。
だんだん人数が減っていたのは、こちらも分かっていました。事前に出欠を採らなかったのは、御病気とかお互いの事情を知るのが辛かったからでしょう。
だから、あの時もっと強くお勧めすれば良かった、強引にでも店の中へ入れてしまえば良かった、そう思います。
結局、その方との御縁は、その日が最後でした。毎年正月が来ると思い出します。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.411日連続更新を達成しました。
毎度のご愛読に感謝いたします。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。