訃報と抱負

訃報というものは大抵FAXで送られてくるものです。

当会会員の○○様、かねて療養中のところ薬石効なく、×月×日逝去されました。享年△歳でした。通夜・告別式は・・・というアレです。

形式が整っている分だけ、くわしい経緯は良く分からないことがほとんどです。

一方、数は少ないですが、私の場合店でお客様と接していて、口頭でご遺族から直接訃報を聞くことがあります。

今年ももう1件・・・

ある日曜に、いつもご夫婦で見える方~お医者様だったのですが~の奥様とご子息が見えました。見えるのは決まって病院が休診の日曜・祝日でしたが、その日は日曜なのに御主人がお見えでないので、おや?と思っていると、なんと、

ご主人は昨年の暮れに亡くなったと言います。

ええ?!

12月にもたしか一度見えましたよね。

ああ、その4~5日くらい後でしたかね。死ぬ前日まで診察してたんですよ。それが次の朝気づいたら、亡くなってましてね。まあ、最後まで仕事が出来て、好きなものが食べられて良かったと思ってますよ、と息子さん。

そうでしたか。お悔み申し上げます。永いこと在り難うございました・・・

このブログを続けて読んでいる方は、

お客様が亡くなった、という記事がたまに出て来ることにお気づきになったと思います。

それは、私が実は疫病神だから、では勿論なく、ハッキリとした理由があります。

お年寄りが食べ易い肉を提供しているからです。

人間胃腸が衰えるとタンパク質を消化しにくくなりますが、熟成させることでタンパクが減ってアミノ酸が多く成っている肉なら消化し易いです。また肝臓・胆嚢が衰えると脂肪を消化しにくくなりますが、元々融点の低い(=融け易い)脂なら消化しやすいです。

アミノ酸が多く+脂の融点が低い肉=消化し易い肉=それこそが「ちんや」の肉です。

・消化力が落ちても肉はやはり食べたい

・しかし世の中に高齢者が食べ易い肉は少なく、食べると気持ち悪くなってしまうのが辛い

・この先長くないのだから、貴重な食事の機会には美味しいものを食べたい

だから、

ウチのお爺ちゃんは「ちんや」さんの肉しか食べないのよ!

ということになります。その状態で長生きして下さり、「ちんや」に通い続けて下されば良いのですが、絶対に死なないという人は存在しないので、やがて悲しい報せに接することになります。

それで、お客様が亡くなったという記事がこのブログにたまに出て来るのです。

ここで突然に、私の今年の抱負ですが、

今年はますます、お年寄りが食べやすい肉を提供して参りたいと思います!

うーん、それってビジネスとしては将来性がないよね。気持ちは分かるけど、商売人なら冷徹に、将来有望な若い人をメイン客層にした方が良いのでは?と思った方に申し上げます、

Non, Non, Non! (時節柄、急にフランス語)

それは正しいようで正しくありません。

何故って、「客」というものは一代限りではありませんから。

ある方の個体が亡くなっても、お子さんに継承されるのです。

別のお客様のことですが、去年のある日、私は一組の若いカップルを玄関から個室へ案内しようとしました。そのエレベーターの中で、カレシがカノジョに話しかけていたことは・・・

この店はねえ、死んだ爺さんに連れて来られた店なんだ!

嬉しい話しですね。

「死んだ爺さんと来た」店に連れてくる女性なのだから、おそらく本命のカノジョなのでしょう。

上手く行けば「ゴールイン」して、お子さんが出来、いつかそのお子さんと一緒に来て下さるかも。

上手く行って欲しい。是非。

その子が来れば、「ちんや」の客としては「死んだ爺さん」から数えて四代目になります。このように「客」という立場は継承されるのです。

少し話しは反れますが、私は自分がこの店の六代目だということを、さして自慢に思っていません。何の努力もせずにそう成ったからです。

しかし、この店で「客の四代目」「五代目」「六代目」が誕生するなら、それは誇るべきことです。

いや、この世でこれ以上に誇らしいことは無いと思います。

「主の六代目より客の六代目」です。

だからますます今年は、お年寄りが食べやすい肉を提供して参りたいと思います。

今日1月26日は、1872年に明治天皇が初めて牛肉を召し上がった日ですので、だいぶ遅れた、今年の抱負を申し上げました。

お後がよろしいようで。

追伸

一冊丸ごと「すき焼き大全」とも申すべき本が出ました。

タイトルは『日本のごちそう すき焼き』、平凡社より刊行されました。

この本は、

食文化研究家の向笠千恵子先生が、すき焼きという面白き食べ物について語り尽くした7章と、

全国の、有志のすき焼き店主31人が、自店のすき焼き自慢を3ページずつ書いた部分の二部で構成された本で、

この十年の「すきや連」活動の集大成とも言える本です。私も勿論執筆に加わっています。

是非是非お求めください。

弊店の店頭でも販売しますし、こちらからネットでも購入できます。

是非。

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.790日連続更新を達成しました。

Filed under: すき焼きフル・トーク,今日のお客様 — F.Sumiyoshi 12:00 AM  Comments (0)