第3回⑨

国際観光日本レストラン協会の「第3回青年後継者の集い」が開催され、不肖の私がセミナー講師を務めさせていただきました。

「適サシ肉」の話しを聞きたいということでしたので、以下のような内容になりました。長いので、4/21から8回に分けて公開していますが、本日が最終回です。さて、

<以下本文>

そして、ついでにもう一つだけ申し上げますと、世間の皆さんが内心やって欲しくて仕方なかったのに、誰もやってくれる業者がないことをパっとやってあげると、こんなにもウケるということです。

リアルな私の身の回りの体験でも、適サシ宣言、良かったです! 私も以前から、絶対そうだと思ってたんです!俺も同じこと思ってたんだけど、自分の年のせいだと思ってたんだよね。でも、違ったんだね。原因が分かって良かったよ!

皆さん、目を輝かせてそう言います。皆さん、内心、今の霜降りは行き過ぎて美味しくないと思っていたのに、言えなくて黙っていたのです。自分が少数派ではなく、多数派だと分かったことが嬉しくて仕方ないのです。そう、多数派に属していることはやたらと嬉しいことなのです。日本的ですけどね。

そして話しはまたまた膨らみますが、商いの歴史を調べてみましても、皆(多数派)が内心そう思っていたのに、言えなくて黙っていたこと、それを実現した人が結局成功しています。

最近「100年経営研究機構」という学者さんのグループと仕事をしているのですけど、そこで学んだことに、例えば「正札販売」というのがあります。

商品に、値段を書いた札(=正札と言う)を付けて販売することを正札販売と言い、今日では当たり前ですが、それが始まったのは1876年。アメリカ・フィラデルフィアの商人ジョン・ワナメーカーによって始められたそうです。それまでは客の様子を見て、値段を変動させていたのです。

現代でも「ぼったくり寿司屋」に行けば同じ目に遭います。またイスラム圏では正札販売が普及していないので、客は店員と駆け引きして買います。駆け引きは面倒だし、それに不公正ですよね。

そういう「ぼったくり」はイヤだと、それまで庶民は皆思っていたのに、言えなくて黙っていました。それが多数派でした。

そして、言えなくて黙っていたことを、アメリカ人より先に実現した日本人がいました。三越さんの前身の越後屋が1673年(延宝1)に実施しているのです。スゴいことです。

やや遅れて1726 (享保11)、大丸さんの前身も大阪心斎橋筋で現金正札販売を始めます。どんな人間にも現金正札販売する、この店の姿勢は支持されまして、どの位支持されたかと申しますと、1837 (天保8)に大塩平八郎の乱が起きた時に「大丸は義商なり、犯すなかれ」と、焼き討ちを免れたのです。

これはドラマティックです。他の商人は幕府と結託していたので、「義商」ではないと見做され焼き討ちされましたが、大丸さんだけが免れたのです。現金正札販売が、どれだけ人々に革命的なことで、支持されたか、良く分かります。今日でも通用する教訓だと思います。

さてさて、もう時間ですので、最後に「適サシ肉」に戻りますが、この大ブームを観て、嬉しい言葉を贈ってくれた方がおいででしたので、ご紹介します。

私は2008年から食文化研究家の向笠千恵子先生と一緒に「すきや連」という会を年に3回催しています。すき焼き屋とすき焼き関係者、すき焼き愛好家が全国から集う、美味しくも楽しい会で、レス協の、今日おいでの、藤森さんや荒井さん、藤本さんも参加してくれています。尾川会長にも参加していただいたことがあります。

その向笠先生も、今回の「適サシ肉宣言」に大変共感して下さいまして、こうおっしゃいました。先生の流石の文才を感じさせる言葉です。

「適サシ肉」は「素敵サシ肉」。

お後がよろしいようで。本日はご清聴誠に在り難うございました。(終わり)

追伸

拙著は好評(?)販売中です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

題名:『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』

浅草の九人の旦那衆と私が、九軒のバーで語り合った対談集でして、「浅草ならではの商人論」を目指しています。

東京23区の、全ての区立図書館に収蔵されています。

四六判240頁

価格:本体1600円+税

978-4-7949-6920-0 C0095

2016年2月25日発売

株式会社晶文社 刊行

 

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.617日連続更新を達成しました。

Filed under: すき焼きフル・トーク,飲食業界交遊録 — F.Sumiyoshi 12:00 AM  Comments (0)