お目出度い絵

 先日、ある御客様から「なんで、毎回同じ絵がかかっているの?」というご質問がありました。通される部屋は違うのに、かかっている絵が毎回、楊洲周延(ようしゅう・ちかのぶ)の「上野不忍大競馬之図」だとおっしゃるのです。

 ん? そんなことあるかなあ? と思いましたが、偶然ではありませんでした。そのご家族は、お子さんのお誕生日とか、ご両親の結婚記念日とか、そういうお目出度い場合に「ちんや」をご利用いただいていたのですが、それが、絵が同じになった理由です。

  実は、「ちんや」では、予約の段階で、その日の御用向きがお目出度いとわかると、かける絵もなるべく、お目出度い絵にしているのです。「上野不忍大競馬之図」は、絵柄が一番に賑やかで、お目出度い感じなので、それで、そのお客様の場合毎回「競馬之図」になったという次第です。

  ちなみに、カリスマ受け売り師の住吉史彦先生によりますと、この絵は、明治17年に上野不忍池(しのばずのいけ)畔で開催された、天覧競馬会の模様を描いた作品です。明治政府は軍馬改良の為に、競馬を奨励しており、またご自身も乗馬がお好きだった明治天皇は好んで競馬会に行幸されました。優秀馬には「帝室御章典」が授与されましたが、その金額は当時としては、大変高額なものでした。

 「競馬之図」の画面の、天皇陛下が座す楼閣には、日ノ丸の旗がはためき、空には気球も打ち上げられて、盛大な競馬会の様子がわかります。
 なお絵師の楊洲周延(1838〜1912年)は、歌川国周の門人で、美人画に優れ、洋装貴婦人や女学生など、開化期の女性の風俗を描いた作品が多い絵師です。

  「ちんや」が所蔵する、開化絵はネットでごも覧いただけますので、こちらで是非どうぞ。

Filed under: 今日のお客様,困った質問,憧れの明治時代 — F.Sumiyoshi 9:58 AM  Comments (0)