お母さまの思い出

GW連休のある日、久しぶりに「すき焼き思い出ストーリーの本」のお買い上げがありました。

本が売れたのはGWだから。

GWには、老人ホームなどの福祉施設が人的体制を縮小するので、元気なお年寄りは一時帰宅を勧められます。

で、とある高齢のお婆さまが息子さんの家に行くことになり、どうせだから、ついでに浅草観光にでも出かけようか、ということになった模様です。

お婆さまは、在り難いことに、その昔何度も「ちんや」に見えたことがあり、この店に思い出があるそうなのですが、息子さんはその日が初来店だったとか。

本を購入なさったのは、お母さまの思い出を自分も共有してみたいと思ったからでしょうか。

嬉しいですね。誠にありがとうございました。

 

追伸

拙著は好評(?)販売中です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

題名:『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』

浅草の九人の旦那衆と私が、九軒のバーで語り合った対談集でして、「浅草ならではの商人論」を目指しています。

東京23区の、全ての区立図書館に収蔵されています。

四六判240頁

価格:本体1600円+税

978-4-7949-6920-0 C0095

2016年2月25日発売

株式会社晶文社 刊行

 

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.630日連続更新を達成しました。

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いせカレー

あれれ、それは地元・呉の業者の方にとってはショックでしょうねえ。

これまで海上自衛隊・呉基地を母港としていた護衛艦「いせ」が佐世保基地に配置がえになってしまいました。

せっかく苦労して海軍伝承「いせカレー」を商品化してきたというのに、その「いせ」がいないのでは、カレーを売れないではないですか・・・辛いところですねえ。

「いせカレー」の商品化に取り組んできたのは、地元のクレイトンベイホテルさんです。調理長が「いせ」を訪ねて料理法を伝授してもらったり、ホテルでの試食会に艦長を招いたりして、交流を重ねてきました。ついには平成27年、味が忠実に再現されている証として、艦長より認定証が授与されました。

翌年にも再度試食を行って、認定を更新したと言いますから真面目です。

ホテルのFBぺージに、

「クレイトンベイホテルの海側の客室より呉湾の艦船がご覧いただけます。また、運が良ければ潜水艦をご覧いただけます。客室からの潜水艦動画はこちらより」

と動画をあげておいでなのは、安全保障上「大丈夫なの?」と思ってしまいますが、それはさて置きまして、「いせ」の転籍はカレー的には残念でした。呉の皆さんの再起に期待します。

あ、そもそも、すき焼きブログの筈のこのブログに最近カレー・ネタが多いのは、去年から、カレーオイル入りの溶き卵を売っております関係です。

その件くわしくは、こちらをご覧ください。

追伸

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B級グルメ

グルメは「B級」と、それ以外の2種類に分かれています。「A級」という表現はあまりしないようですから、「B級」と「非B級」ですね。

では、すき焼きはどっちですか?

Bの典型は、ラーメン・蕎麦・カレー・とんかつ・焼鳥・居酒屋。

すき焼きをBに入れることは少ないようですが、では非Bなのでしょうか?

それ以前に、Bと非Bの2種だけって、単純過ぎませんか?

歴史を振り返りますると、明治時代の牛鍋は完全にBでした。「鳥鍋は旦那の食い物、牛鍋は書生の食い物」と言われていて、高いものではありませんでした。

その状況を変えたのはトラクターです。

田圃の作業をトラクターがやるようになりましたから、それまで作業に使っていた牛が要らなくなりました。で、トラクターの登場以降、牛は最初から食べるためだけに飼うことになったのです。

トラクター以前には、牛を飼うための経費は、全て米作の原価となり、米を売った時点で回収されていたのですが、その後は違います。牛の経費は、牛肉の売価に反映させて回収する他なく、また牛が順調に育たなかった場合のリスクも算段しなければならず、結局薬局、牛肉の値段は騰がりました。

この変化は、実はわりと最近起きたことです。

トラクターの数は1961年(昭和36年)の7000台から、10年後の1971年(昭和46年)には267200台、1977年(昭和52年)には832200台と増えていますから、牛が田圃で要らなくなったのは、この時期だと分かります。40年前=わりと最近です。

牛肉の値段が騰がったので、すき焼き屋も高級化する他なく、Bだったものが、Bとは言いがたく成って行きました。

そういう経緯の食べ物も在るわけですから、

Bと非Bの2種だけって、どうも単純過ぎると私は思います。

すき焼きは「Ⅴ(ヴィー)級グルメ」。

そう私は命名したいと思います。

追伸

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3か月

このブログを開設してから7年強、私は、経営者たるものデフレと戦うべきだと言い続けてきました。商品価格の値下がりが、経済の諸悪の根源だと思ったからです。

しかし残念なことに、そう言う本人が、その戦いに勝って来たとは断言できませんでした。弊社に関する限り状況は一進一退という感じでした。

が、この3か月に限っては、自分からは言いにくいですが「大勝利」と言っても言い過ぎではないと思います。

「適サシ肉宣言」を敢行しましたのが115日、ブレークしたのが28日ですから、今日でちょうど3か月ですが、お客様からのご注文は、「適サシ」つまりメニュー表の一番上に集中しています。安いメニューより多く出る位です。大勝利です。

以前メニューの一番上には「霜降肉」が在りました。

下は「赤身肉」。真ん中は、霜降と赤身の「盛り合わせ」。

その一番上の「霜降肉」について、店側としては、

当店の霜降肉の脂は、融け方の良い肉ですから、モタレません。他の霜降と違うんです!

と言い続けて来ましたが、ご理解をいただけませんでした。ご理解いただくどころか、世間はアンチ霜降へ一直線。

一番高いメニューが拒否られているのだから、由々しきことでした。それで「霜降」という言葉を止めるしかないと思って→今回造語したのが「適サシ肉」でした。

それが、こんなにもウケたのは、世間が本当は美味しい肉を食べたいと思っていたからでしょう。売り手側・メデイア側の押しつけのブランドではなくて、本当に自分が美味しいと思える肉を、実は世間はものすごく欲していたのだと思います。

不覚ながら、私はそこに気づけておらず、世間の無理解を嘆く日々を過ごしていました。

しかし実はこちらに落ち度があったのです。価値の伝え方を工夫すれば、伝えることも出来たはずなのに工夫していなかったのです。思い返しますと、本当に残念な日々でした。

でも今の状況は違います。ご注文は「適サシ」に集中していて、さらに肉のお替わりをなさる方が多数。

実に在り難いことだと思っています。観音様・三社様に感謝あるのみです。

そして思いまするに、どの業界にも、こういう事例はあるのではないでしょうか。

ウチの業界はねえ、前からこうなのよー、仕方ないのよーと言わずに、一度原点に戻ってみませんか、社長の皆さん。

追伸

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イベント屋

世間にイベント屋という職業が在ります。

イベントを企画し、そのチケットを自社で売りさばいて、必要経費をペイすることがお出来になるなら、それは立派な職業だと私も思います。

ところが、です、それがお出来にならないイベント屋さんが、どうも多いように見えます。

イベントはやりたし、されども

券は売れず、

なので頼る先は、行政の補助金か商店街の予算になります。

その合わせ技もありますね。商店街から予算を引き出し、さらに商店街から区役所へ補助金を申請させるように仕向けるのです。

ここで必要なのは、弁舌です。

これは、浅草にこれまで来なかったような、新しい客層を呼び寄せられるイベントです♡

浅草の中で、こちらの商店街が先駆者になるのです♡

これから、どんどん伸びる市場です♡♡♡

いやいや、いやいや。

甘い言葉を信じてはいけません。

仮に、彼らの言う通り、その「新しい客層」とやらを呼び寄せられたとしても、そのお客様が買いたい商品が浅草になければ、何も買わずにお帰りになるでしょう。そのお客様が飲みたいような雰囲気の飲食店がなければ、他の街に移動してから飲むでしょう。

おそらく、そんなことはイベント屋さんは分かっているのです。

しかし、イベントやりたし・券売れず、

なので商店街を頼るしかないのです。

ここは商店街の側がしっかりマーケティングを考えないといけません。「新しい客層」を本気で自分の店のお客様にしたいのか、そうするには、どういう対応をしなければいけないのか。

区役所へネゴりに行くより、それを考えるのが先だと私は思いますよ。

追伸

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カレーライスの起源

去年から、カレーオイル入りの溶き卵を売っております関係で、カレーのことが、どうも気になります。

だいたい、何故こんなにも日本人はカレーライスが好きなのか。

辻調グループによる2013年の調査では、国民の23%がカレーライスを「和食」と認知しているとか。

現在の日本のカレーは、インド人が「何これ、この日本料理ウマすぎィ!!」とビックリするほど独自の進化を遂げています。

しかし!

インド人は、「アナン」のバラッツさんによれば、カレーのことを「カレー」とは言わないそうです。

そして、日本人にカレーを伝えたのは、インド人ではないそうです。びっくりですね。

では、誰が伝えたのか?

弊ブログの2/3に書きました通り、カレーは福沢諭吉先生によって日本に紹介されました。

先生最初の単行本である『増訂華英通語』(1860年、万延元年)に「Curry コルリ」という表記があるそうです。アメリカに渡って買ってきた単語短文集に簡単な意味や片仮名の発音を付記した本だとか。

もっとも先生がアメリカ滞在中にカレーを召し上がった証拠は無いらしく、単に色々な料理名を紹介しただけかもしれません。しかし、少なくともこの本でカレーという語が紹介されていることは事実です。

もう少し本格的にカレーを紹介したのは、牛鍋を紹介した本『安愚楽鍋』を書いた仮名垣魯文による『西洋料理通』(1872年)です。

そう、カレーは西洋料理として日本に伝わったのです。そしてカレーを西洋に伝えたのは、もちろんインドを支配していたイギリスです。

イギリス人の船乗りは航海中にシチューを食べたかったが、当時は牛乳が長持ちしないとの理由で諦めるしかなく、牛乳のかわりに日持ちのする香辛料を使って、カレー味のシチューを考案したのが起源と言われているそうです。

カレーを「カレー」と名付けたのもイギリス人です。

その、イギリス式のカレーが日本に伝わった所までが第一段階。

そして、次の第二段階にはハッキリしない点が多いです。

ライスカレーが、明治20年代に登場したのです。

どこが発祥か分かりませんが、白米にカレーをぶっかける、丼ぶりのような食べ物が登場したのです。

これは急速に普及しましたが、どこが発祥か分かりません。

それまでは別々に器に盛るスタイルだったのが、一つの皿になったわけですから、想像しまするに、

調理時間を短縮したい、

洗い物の時間を短縮したい、

食べるスペースを小さくしたい、

という事情があって成立した食べ方だと思われます。

で、推測されるのは、

まず軍艦の食堂

つづいて洋食屋の賄い場

なんとなく海軍説を支持したい感じはします。

先日テレビで、カレーライスを発明したのは、かの東郷平八郎だと言っていて、その決め込みには驚きましたが、流石に証拠はないようで、下に小さくテロップで「諸説あります」と表示していました。

ともあれ、明治20年代にカレーライスが登場。瞬く間に国民食となりました。

こんなに以前から国民食なので、すき焼き用の溶き卵にカレーを入れた場合も、なんだか懐かしい感じがするのです。

どうぞ、お召し上がりくださいませ。

追伸

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建て替え

このたび浅草のおでんの名店「大多福」さんが店舗を建て替えされることになりました。

現在の、情緒ある店舗での営業は5月31日までだそうです。

「大多福」さんは、大正4年に大阪法善寺から浅草へ移転して、開業。その後、関東大震災・東京大空襲で焼失。カウンターから復活させて、少しずつ建て増して行き、約40年前にほぼ現在の姿になりました。

以来、多くのお客様に愛され続けて来ましたが、このたび次の世代へ繋げていくために、建物の見直しを行い、建て替えを決意されました。今の店舗の材料を取り外して、再利用するとかで、新築よりずっと大変な工事と思われます。

再開は平成31年の秋で、その間は仮店舗で営業なさると聞きます。

つきましては、大規模工事を決意された舩大工家の皆様を応援する気持ちも込めまして、私達・浅草料理飲食業組合では「大多福さんの、情緒あるお店とお別れする会」を開催することになりました。

皆様も、是非31日までにお出かけ下さい。

追伸

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4年目

群馬県庁が推進している「ぐんますき焼きアクション」について、産経新聞さんから意見を求められたので、お答えしましたところ、422日に記事になりました。

群馬県が平成26年9月に「すき焼き応援県」宣言をして今年は4年目です。

県庁では「ぐんまのすき焼き」PV(プロモーションビデオ)の長尺版(約3分)を3月末にインターネット上で公開したり、PRソングを作るなど新たな作戦で浸透を図っています。

PR動画は、バックに「スキスキスキスキ すき焼き グングン ぐんまのすき焼き~」という軽快な歌声が流れるもので、県庁は今後、歌と動画の入ったDVDを県内のスーパーなどに配布する予定だそうな。

まあ、食材が県内で揃うから、すき焼きを推すというのは、基本的に私は賛成です。

また過去に開催したコンテストで新しいすき焼きが出て来たのは、結構なことと思いました。

しかし「スキスキスキスキ」とかは「なんだかなあ」と思ってしまいます。

で、私のコメントは、

「地元産品振興のため行政が動画を作ったり、短期間に結果を出したがるのは理解できるが、まずは地道においしいすき焼きを宣伝すべきだろう」「コンテストですき焼きのおいしさを訴えるなど時間がかかっても続けていくことだ」

・・・なんか口調が自分でないようですが、内容的には、そういうことを申しました。

そもそもですが、ブランドの基礎はお客様への「お約束」であり、その裏返しとしての、お客様からの信用・信頼である筈です。

だからブランドづくりとは地道なものだと私は思うのですが、他県の動画でウケた事例があるためか、自治体が動画に走る例が後をたちません。

仮に動画がウケた事例があったとしても、それは、その動画がウケたのであって、その県がウケたわけではないと思います。その当たり前のことが分からないのは、どうしたことでしょうか。

さらに、何より気がかりなのは、群馬県民自体が肉を食べないことです。

「総務省家計調査(26~28年平均)では、県庁所在地と政令指定都市を合わせた全国52市で、前橋市の牛肉消費は金額で年1万261円の50位、数量で年3582グラムの51位(最下位はいずれも新潟)。すき焼きプロジェクトが牛肉消費につながっているとは思えない。」

自分達が食べないと、商品の本当の魅力がブランド化の過程に反映されず、ブランドづくりが空回りすることがあるから気になります。

産経新聞さんも「すき焼きの主役となる上州和牛のブランド力向上という思惑がある」と「思惑」という言葉を使って、警戒感をにじませています。

一段のご努力をお願いしたいものです。

追伸

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いわき民報

単行本『浅草文芸ハンドブック』については弊ブログの2016919に書きましたが、その著者・能地克宜先生(いわき明星大学准教授)が拙著『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』について、「いわき民報」に書評を書いて下さいました。やや長いですが引用しますと・・・

 「出版時評」

2013年から3年近くもの間、東京・浅草について調査してきた。この間、数多くの浅草にまつわる文献をあさり、何度も浅草に足を運んで歩き続けたのである。いつ浅草を訪れても街は人であふれ、活気に満ちているのだ。

浅草の魅力はどこにあるのか、浅草を歩くということはどのような意味があるのか。このことについて主に文学を通して考察し、筆者も編著者として携わった書物が刊行されることとなった(『浅草文芸ハンドブック』勉誠出版)。この『ハンドブック』は、専ら浅草を訪れて歩く者の視点に立って編んでいるが、その編集過程で出会った住吉史彦『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』(晶文社、20162月)は、浅草に人々を訪れさせ、人々を歩かせる側の視点でその魅力を追求している点で、好対照をなしていると言える。

『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』は、すき焼き「ちんや」六代目の店主である著者が、9人の浅草の老舗店主と対談し、著者のコメントをまとめるという構成をとっている。「まえがき」にも記されているように、浅草はこれまで天災、人災と何度も衰退の時期を経験しながら、それらを乗り越えて現在に至っている。そうした再興に向けてどのようなことをしてきたのか、あるいはどのようなことをしてこなかったのかについて、それぞれの店主が、自らの経験を語っている。

以下、筆者の関心に沿ってその一部を紹介してみたい。

終戦後の闇市で同業者が次々に生活に必要な物資を売る店へと転じる中で、先代が「不器用で融通が利かなかった」と語る木村吉隆氏(江戸趣味小玩具「助六」五代目)は、それによって職人を手放さなかったことが、かえって現在浅草に唯一江戸趣味小玩具店として残っている目的の一つだという(「第一話・世界に唯一の「江戸趣味小玩具」の店」)。

江戸前鮨「弁天山美家古寿司」五代目内田正氏もまた、先代の「時流に逆らって忍の一字で凌ぐ」という選択が老舗の維持につながったと言う。1960年代に冷蔵庫が普及し生鮮食品の流通が広がる中、「うちは仕事をした鮨ネタを売る店だから、よその店のようにする必要はないという姿勢」を貫いてきたのだ(「第二話・江戸前鮨に徹した仕事」)。

著者は洋食「ヨシカミ」二代目熊澤永行氏に「六区の興行街が寂れた最悪の70年代に、なぜ浅草にとどまろうとされたんでしょうか」と質問する。熊澤氏は以下のように答える~外食産業がばーっと広がった時期だったので、「一緒になってほかの店と同じことをやったら、資本力でうちは絶対負ける。対抗するには、平行線で頑張ってやろう。あっちが多店舗展開するなら、うちはここ浅草でずっと頑張ってやろう」と性根を変えたんです。「浅草に行けばヨシカミがある」っていうのを特色にしようと。「ヨシカミ」もまた人々が現在浅草を訪れる理由の一つになっていることは周知の通りであろう(「第八話・ごはんにも日本酒にも合うのが洋食」)。

これらの店主の発言は、「被災したりピンチを経験した時に、その場凌ぎをせず、逆にピンチを契機に料理の本質に向かって行った店が、結果として老舗となっている」という著者あとがきに記された言葉に集約される。もちろんこれだけが浅草の街全体の再興に寄与したわけではない。だが、「浅草というところは、昔からいろんなどん底を経験したひとたちがやって来ては、また立ち上がって行った街です」という松倉久幸氏(落語定席「浅草演芸ホール」会長)の指摘に見られるように、何度も危機から立ち上がる力を浅草という街とそこに生きる人々は持っている。

そしてそれが浅草の繁栄の一つの理由であるだけでなく、今も浅草を訪れ、そこを歩く人々にとって一つの魅力になっているのだ。浅草を歩くことは、私たちが学ぶべきものを発見できる機会にもつながるのである。(終わり)

 『浅草文芸ハンドブック』については、こちら↓です。

追伸

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カレー蕎麦

蕎麦屋さんに、何故「カレー蕎麦」や「カレー南蛮」が在ると思いますか?

カレーと混ぜたら、蕎麦の微妙な風味や香りが飛ばされてしまうというのに、いったいなんで、「カレー蕎麦」なんて料理が在るんだろう?

不思議に思ったことはありませんか?

私も不思議に思っていました、ごく最近まで。

最近私は、店の商品として、カレーオイル入りの溶きタマゴを出していますので、遅まきながらカレーについて学ぼう、それも和食化したカレーについて学ぼうと思いまして、カレー蕎麦やカレーうどんを食べ歩いているのですが、そこ過程で分かりました、蕎麦屋さんに「カレー蕎麦」が在る訳が。

実に意外な理由でした。

その理由は、

カレーライスが蕎麦にとって、かつて強力なライバルあるいは、深刻な脅威だったからです。

時は明治時代後半。

それまで蕎麦は東京の庶民が好むファースト・フードの筆頭で、その地位は、政権が徳川家から新政府にかわっても引き続き安泰なように見えました。

しかし!

そこにカレーライスという強力なライバルが現れたのです。カレー人気に押されて、蕎麦屋の客足が遠のき始めたのです。

カレーには軍隊という後ろ盾がありました。特に海軍は水上生活が長いため、兵士を慰めるために美味しい賄いを出そうと努めていました。で、「海軍カレー」です。

やがて兵役を経験してカレーの美味さを知った人達が郷に帰ってからもカレーを食べたがりました。それがカレー人気の背景にあったのです。

同じ市場の奪い合いですから、蕎麦屋さんにとっては深刻な事態です。そういう深刻さを背景として、カレー蕎麦が登場したのだと思えば、蕎麦屋にカレーが登場した理由が納得できると言うものです。

時に明治37年(1904年)のことと伝えられています。

商いの生死にかかわる状況に直面した時は、柔軟に!それも相手方を摂り込むくらい柔軟に!

実に恐れ入った立身術だと思います。

 

追伸①

52日は火曜日ですが、GW連休中なので、「ちんや」は臨時営業いたします。どうぞ、ご利用下さいませ。

追伸②

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