貿易摩擦から「適サシ」へ
昨日の弊ブログでは、弊店が「適サシ肉宣言」をしたことを申し上げました。
今日は、そこまでの経緯つまり、この国で「霜降り」が行き過ぎてしまった経緯をお話しします。
・消費者に調査しても、肉の専門家に聞いても「おいしい」と感じる肉は、
脂肪(サシ)の割合が、肉全体の30%くらいになっている肉です。
ところが現代の「霜降り」は、それをはるかに超える割合になっています。ロースの平均は50%、最高では75%にまで達するものもあるとか。
どうして、こんなに行き過ぎてしまったのでしょう?
・そもそもは「貿易摩擦」でした。
1985年にアメリカの対日貿易赤字が500億ドルに達したことをきっかけに、アメリカは日本市場の閉鎖性を批判するようになりました。アメリカは日本から自動車を買っているのだから、日本はアメリカから農産物(米・牛肉・オレンジ)を買え!と言ってきました。これが「日米貿易摩擦」です。日本政府は、米だけは守りたかったので、牛肉・オレンジを受け入れることを決定、こうしてカウボーイの国アメリカから肉が入ってくることになりました。
この大変な状況で、日本の畜産農家が身を守るために「霜降り」重視の発想が強まりました。サシが多い肉=高級な肉、という格付けを創ってしまえば、霜降に成る牛が多い日本側に有利です。そういう次第で現行の格付けが導入されたのは1988年でした。
それから、おおよそ30年。日本の畜産業界は「霜降り」一直線で走ってきました。そして行き過ぎてしまいました。
・「霜降り化」の為の技術
「霜降り」を推進した技術はDNA鑑定と「ビタミンコントロール」でした。
まずDNA鑑定でサシの入り易い血統を選抜します。昔は交配という悠長な方法で血統を選んでいましたが、今は違うのです。
それから「ビタミンコントロール」つまり牛の体のビタミンAを欠乏させることで、霜降を創るのです。この手法を「コントロール」と称するのは、後ろめたい気分を誤魔化すためです。実際、この方法をやり過ぎると牛の健康を損ねてしまい、サシは入っても不健康な=まずい肉が出来てしまいました。
・今度は逆の極端へ
やがて日本人も行き過ぎた「霜降り」が美味しくなく、それ以前にモタレて仕方ないことに気づきました。それが近年の「赤身ブーム」です。つまり逆の極端に振れたわけです。どうも日本人とは極端に振れる国民です。
・私は「適サシ」主義。
しかし私は純粋に美味しさを基準にした場合、適度なサシつまり30%程度が良いと考え、「適サシ」宣言をさせていただきました。詳細は昨日の弊ブログの通りです。
両極端を止めて、塩梅を大事にすると思っていただいても結構です。
・懐かしい!
「適サシ」主義で牛を選び、それが盛られた皿を見た時、私を、ある感情が動かしました。
懐かしい!
お爺ちゃん(ちんや四代目・住吉清)が生きていた頃の肉みたい。
あの頃は、これでも「霜降り」と言っていたっけ。
そう、「適サシ」を求めることは、昭和50年(1975年)当時の「霜降り肉」に回帰することでもあったのです。
・「霜降り」の名称を放棄することは勇気が要りました。
しかし日本人の極度の「霜降り志向」は、たかだか30年程度のことです。しかも、そもそもは美味しさとは別次元で、政治が創り出した事態です。戻ることは出来るはずです。
そして、戻るべき以前の美味しい肉を、私はまだ覚えていました。在り難い。
今後、多くの方々に、この肉を召し上がっていただきたいと熱望します。
追伸①
CSフジテレビONEの
『寺門ジモンの肉専門チャンネル』に出演させていただきます。
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1/21(土) 9:00~9:30 です。
追伸②
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追伸③
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株式会社晶文社 刊行
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.515日連続更新を達成しました。