すき焼きの歴史と現在~若き料理屋さん達のために⑥

全国料理業組合「芽生会」関東甲信ブロック会議で、すき焼きについて講演することになりました。

「芽生会」と申しますのは、各料理屋さんの若手後継者の集まりです。講演場所が同業の名店「太田なわのれん」さんなので、正直かなり話しづらいですが、若い料理屋さん達の参考になりますよう、頑張って原稿を準備しました。

ここでも公開してまいりますので、ご覧下さい。長いので5/12から5/21まで10回に分けて公開いたしますね。

<以下本文>

では次に、ここで<食べ物としてのすき焼き>を別の観点で考えてみましょう。

まず、すき焼きは、そもそも動物性のタンパク質、タンパク質から出来る旨み成分のアミノ酸、それから脂肪を食べる料理ですね。その味付けは甘味が強く、牛肉をここまで甘く食べる料理は世界的にも珍しいと思います。

しかも、その調理を、熱源を客席に置くことによって客の目の前で行うのが特徴です。

すき焼きをする時、鍋の中でおきる化学反応をアミノカルボニル反応あるいはメイラード反応と言います。

アミノカルボニル反応と申しますのは、還元糖とアミノ酸を加熱したときなどに見られる反応で、この反応によりまして、褐色の物質が生成され、特有の香気成分が生成されます。加熱しなくても起きる反応ですが、加熱によって短時間で反応を進行させることができます。何しろ、砂糖と熟成させた肉を一緒にして加熱すると、素晴らしい香りがたつ、ということです。

カラメル様、チョコレート様、ナッツ様、時にスミレ様であったりと様々な香りを生じますが、この香りは、まともな生き物であれば、一気に食欲が増進される香りです。

しかも、それをバックヤードではなく、客席で行うのがミソでありまして、今思い出しただけでも胃液が出ませんか、胃液をさんざん出していただいてから、食べていただくのが、すき焼きの特徴です。

それから、客席に熱源があるという利点を、今後「未来のすき焼き屋」を創造するに当たっては是非活かそうと私は思っておりまして、例えばガス台に土鍋を載せて、徳利を湯煎して燗をつけると素晴らしく楽しく、美味しいですね。まだ試験段階で普通の御客様には出せていないんですが、たまに蔵元さん達と実験的に楽しんでおります。

また御飯も炊けるかなあ、とか夢想したりしておりますが、まあ、この話しは何分思いつき段階ですので、この辺にしておきます。

もう一つのすき焼きの特徴は香辛料~特に葱の硫化アリルを食べる料理だ、という点です。

初期の牛は肉用に育てられていませんから硬くて臭い肉でしたね。それでスパイスとして葱を加えたわけですが、葱は加熱すると今度は甘くなって野菜としても食えますから、実に便利です。すき焼きの第二の主役は葱だ!という理由は、そこです。

ですので、「未来のすき焼き」では、その他の色々な香辛料にトライしてみるのも楽しいのかな、と思っています。

実は私も去年初めて食べまして、ちょっと驚いたんですが、茅ヶ崎に「茅ヶ崎館」さんという、映画の小津安二郎監督が定宿にした旅館さんが在るんですが、この旅館さんが名物メニューにしている、小津風「カレーすき焼き」がなかなか旨いんです。旨いのが勿論一つの発見ですが、湘南の別荘文化・保養地文化の中にすき焼きを存在させるとこうなるんだ!というのも発見でした。

森さんという五代目の若旦那がいらして、別荘文化の再興運動も頑張っておられます。神奈川のすき焼きは横浜だけじゃないんだ!多様なんだ!ということをですね、是非、神奈川芽生会の皆さんに御承知おきいただければ、嬉しく思います。

すき焼きは、うーむ、まだまだ発見があるぞ、未来もあるぞ、とここで申し上げておきます。

もう1点、ここですき焼きの食文化史上の特殊性も指摘しておきたいと思います。

たいていの料理が、時間をかけてだんだんに日本人の間に定着して来たのに対し、すき焼きは幕末から明治初期の、ごく短期間に国民食になりました。すき焼きは明治時代という特定の時代と結びついています。日本人が近代化へのチャレンジを始めた時代つまり現代へと続く道を歩み始めた時代の、民族的な強烈な記憶とすき焼きはつながっています。このことが、今日すき焼きを商売にする人間にとっては非常に大事な点ですので、ここであらためて指摘させていただきます。

さて<食べ物としてのすき焼き>を整理しましたので<商品としてのすき焼き>も見ておきましょう。

<本日分は終わり>

この話しは長いので5/12から5/21まで10回に分けて公開いたします。明日もよろしくお願い申し上げます。

追伸①

昨夜放送された、TV東京『和風総本家』に「ちんや」が登場しました。

「ちんや」に豆腐を納めて下さっている「市川食品」さんを密着取材する特集の中で登場しました。

ご覧いただいた皆さん、ありがとうございました。

http://www.tv-osaka.co.jp/ip4/wafu/

追伸②

「日本国復興元年~1千人の笑顔計画」を実行中です。

この「計画」では、まず「ちんや」で東北・北関東の牛を食べていただきます。そして食後の飛びっきりの笑顔を撮影させていただきます。

その笑顔画像をこちらのサイトにUPして、北の産地の方に見ていただきます。

現在の笑顔数は351人です。笑顔数が1千人に達するまで継続してまいります。

皆様も、是非御参加下さい!

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.170日連続更新を達成しました。

毎度のご愛読に感謝いたします。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

 

 

Filed under: すき焼きフル・トーク,飲食業界交遊録 — F.Sumiyoshi 12:01 AM