形あるものをなくしても(ドナルド・キーン博士)

 89歳のドナルド・キーン博士が来日されました。大震災を機に日本国籍を取得して、日本に永住するためです。

 博士は、あまりにも有名な、日本文学研究の大家なので、その業績をここにコピペーすることは略させていただきまして、私個人がかつて有り難く読んだ本を、2冊だけ紹介します。1冊は・・・

 『能・文楽・歌舞伎』(吉田健一・松宮史朗訳)(講談社学術文庫)

 当時お能関係の知人が出来たのに、能のことをあまり理解しておらず、専門家による本を読んでも、いまいちピンと来なかった私に、能の観所をかいつまんで教えてくれたのが、この本でした。

 同時に、博士が日米戦争の最中から日本研究を志しておられた事を知り、その意志の強さに感銘を受けました。もう1冊は・・・

 『明治天皇』(角地幸男訳)(新潮社、上下巻)

 この本には、偉大な統治を行った陛下のプライベートな情景が鮮明に描かれています。陛下と同様、世襲で父の跡を継ぎ、どう振舞ってよいのやら、悩んでいた当時の私には、とても参考になる本でした。

 その博士が「私から日本をとったら何も残らない。日本人として残りの人生を生きたい」と決意して来日されました。

 しかし、その事を報じる新聞の紙面は、とても小さい扱いと感じました。

 それは政界のドタバタ劇と台風の時期に重なっていたからです。

 ノダ総理は「どぜう演説」で人気を獲得したようですが、その選ばれ方は、派閥本位の、呆れた陣取り合戦そのものでした。また、その後の人事劇でも、派閥に配慮した結果、「?!」という人事がいくつもありました。

 防衛相には「自分は安保に詳しくない。そういう人物が防衛相になることが文民統制だ」という御高説をお持ちの方が就任されたようです。

 また経産相には、農水関係が御専門の方が就任されたようです。経産相と言ったら、エネルギー政策の責任者ですよね。この点を、早速自民党が攻撃する考えだとか。

 こういう記事が紙面を占領していますが、それを読んだら、日本が復興できるのか、ものスゴク不安になりませんか。

 でも、そんな日本が「必ず復興する」とキーン博士は言っておいでです。

「自然の無慈悲を嘆いて廃墟のまま放っておかないで、何度でもそれまで以上のものを立て直してきた。それが日本人です。」

「これほど生活の中で美を重んじる文化は他国に見当たらない。美意識さえ心にあれば、形あるものをなくしても必ず再建できる。」(9/3の読売新聞)

 震災以来、これほど私たちを勇気づける発言が他にあったでしょうか。

 報道の扱いが小さいことが、私には、悔しくてなりません。

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて551連続更新を達成しました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

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Filed under: ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 12:01 AM  Comments (0)