ユッケ事件続報

 保健所の衛生講習会に行って来ました。「業態別講習」といって、食肉販売業の「衛生責任者」を対象とした講習会です。

 富山のユッケ事件の後ですので、当然その詳報から講習が始まりました。マスコミはその後、この件をすっかり報道しなくなりましたが、皆さんにかかわる重要なことですので、ここで続報をお知らせしておきます。

 結局この食中毒事件の、発症者総数は169人、入院者つまり重症者は17人、死亡者は4人でした。大規模な事件だったことがわかります。

 原因菌は、腸管出血性大腸菌の一種・0-111でした。

 一概に「チェーン店は衛生に無関心」というわけではなく、非常に熱心な会社もあるのですが、今回の焼肉チェーンは、大変残念な会社でした。

 肉の汚染は焼肉チェーンに入ってからのことではなく、それ以前のことのようです。4/13に加工された、ユッケ用もも肉に付着していた菌の遺伝子型と、患者さんから検出された菌の遺伝子型が一致したとのことで、今回は因果関係がハッキリしました。

 もちろん、焼肉チェーンに入る前に汚染されていたからと言って、チェーンの責任がなくなることはありません。0-111はそもそも、牛の腸の中にたまに居る菌であって、肉にそれが付着する可能性は、もともとあるのです。汚染されていても加熱すれば菌は死ぬので問題無いのですが、生食させてはマズいのです。

 菌が居る可能性があることを知りながら、客に生食させた責任はやはり重大です。

 それから「トリミングをしっかりして、肉の表面を削り取れば生食しても安全だ」と思っておいでの方も多いと思います。また保健所も「しっかり」の基準を満たして処理すれば「生食しても良い」という立場です。

 しかしながら、その「しっかり」は、本当にかなりしっかりした厳しいもので、普通の飲食店が簡単にできるものでないことを、ここでお知らせしておきます。

①まずトリミング専用の、独立した部屋が必要です。もちろん包丁や俎板も専用です。

②その部屋に汚れた食材や、器具、汚れた人間を入れてはいけません。つまり、どういうことかと言うと、トリミング室の手前に、もう1室を設けて、そこで中へ入るもの全てを洗浄しないといけません。

③スタッフの健康管理を徹底しないといけません。0-111は不思議な菌で劇症を引き起こす菌でありながら、腹の中に保菌していても発症しない人がたくさんいるのです。その割合は、なんと約3分の1。そういう発症しない保菌者がトリミングに従事したらキケンですので、スタッフは「毎日検便」がマストと成ります。

④肉の定期的な拭き取り検査もマストと成ります。「毎日拭き取り」が必要でしょうね。

 以上を読んだだけで、小さくはない設備投資プラス日頃のコストがかかります。

 安く、あたかも「お通し」のように「とりあえずビールとユッケ!」を出すことなど無理であることは明らかです。

 思い起こせば、20年前は「とりあえずビールとユッケ!」なんてことはありませんでした。是非是非、ご注意下さい。

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて465連続更新を達成しました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

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Filed under: すき焼きフル・トーク — F.Sumiyoshi 12:01 AM  Comments (0)