2015年10月25日
ワンフレーズ・ポリティクス
味を正確に理解するのは、結構、難しいものです。ある程度のレベルの科学的知識が必要です。
例えば肉の旨味を理解するには、肉のタンパク質が熟成によってアミノ酸へと分解されていく過程を理解する必要がありますし、また脂肪がどのような脂肪酸によって構成されているのか、その脂肪酸の融点が何度なのかも知る必要もあります。
しかしですよ、そんなことを知らなくても、昔から旨い肉は旨いものですよね。
以前は、アミノ酸も脂肪酸もご存知なくても肉を目利き出来る職人さんがいましたし、消費者も自分の舌で旨い肉を選別していました。
その日本人の「舌の力」が衰えて来たと最近私は痛感しています。
代わって人々が言い始めたのが産地名です。あちらのマグロに、こちらのサバ。
舌で味わうことが出来なくなり、しかし代わりに高等な化け学で味を理解することも出来ず、人々は簡略な情報だけで味を判断するようになりました。「味のワンフレーズ・ポリティクス」と申せましょう。
ワンフレーズは全盛を極めていますが、私は勿論気にいりません。丁寧な仕事にワンフレーズが勝つような国にはしたくないですよね。
追伸
慶應義塾の機関誌『三田評論』の10月号に出演させていただきました。
『三田評論』には毎月「三人閑談」といって、三人の卒業生が対談するコーナーがあるのですが、今月のテーマが「和牛を食す」で、そこに入れていただいた次第です。
『三田評論』は基本的には定期購読者のみが読む本ですが、紀伊國屋書店の新宿本店で小売りしているそうですから、ご興味のある方はどうぞお求めください。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.066日連続更新を達成しました。