イグノーベル賞
我が義塾の雑誌『三田評論』を読んでいて、快哉を叫びたくなる文章に遭遇することは、正直申しますと、頻繁にはありません。でも12月号にはありました。
筆者の方を個人的に存じ上げている、というわけではないのですが、読んで愉快だったので、ここにご紹介します。
さて、その文は「イグノーベル賞、縁と運の賜」という題で、2013年のイグノーベル賞「医学賞」を受賞した新見正則先生の一文です。
「心臓移植をしたマウスにオペラの『椿姫』を聴かせたところ、モーツァルトなどの音楽を聴かせたマウスよりも拒絶反応が抑えられ生存期間が延びた」という研究で、メデイアでもだいぶ紹介されていましたから、ご存知の方も多いと思います。
この研究をした新見先生はレッキとした、義塾医学部卒の外科医で、心臓移植後の拒絶反応を研究する内「環境因子がなにか免疫に影響を与えている」さらには「病は気から」と信じるに至った、というのです。
そもそも、違う環境に置かれたマウスを比較することができたのは偶然だったそうです。研究室が狭かったから、同一条件のマウスのケージを別の場所に置くしかなかったという偶然が第一。
次なる偶然は、最初の実験用の音楽として最高の演奏の『椿姫』を選んでしまった、という偶然です。
先生が使った『椿姫』は、巨匠ショルティ指揮のロイヤル・コヴェントガーデン・オペラ、ヴィオレッタ役はゲオルギューという伝説の名演です。この最初に使ったCDが結局一番心臓に効いたのだそうです。
そうそう、だから私は肥育中の牛さんにも音楽とか潮騒の音とかを聴かせるべきだと、以前から言っているんです。
『椿姫』を聴かせた牛とモーツァルトを聴かせた牛の肉質を比較したら、それこそイグノーベル畜産学賞ものだと思うんですけど、それはまあ、さて置きまして、
何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能が先生にはおありだったわけで、それを先生は、
「まあ、運と縁を自分にいかす能力ということだ」と言い換えています。
「確かに僕は今まで運と縁に恵まれて生きてきている。いつも誰かが助けてくれる。いつも誰かにお世話になっている。悪いことがあっても、それがいつの間にか良いことになっている。本当に人の縁に恵まれた人生だ。」
「本当に素晴らしい章をいただいた。皆さんに感謝だ。この栄光は僕だけのものではなく、僕と関わってき皆さんのものだ。」
他人の受賞などというものは、たいていは妬ましいだけのものですが、この受賞は、人事ながら愉快でした。
ユーモアがあって、運と縁を大事にする方が表彰されるのは嬉しいものです。
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