老舗の生き抜き方③

 福島県酒造組合さんが運営する学校「県清酒アカデミー」で1時間ほどの講演をすることになりました。

 震災以来応援している「福島の酒」ですし、聞き手は醸造を志している若い方ばかりだそうですので、一生懸命お話ししてきたいと思っています。

 その原稿が準備できましたので、弊ブログでも公開して行きたいと思います。長いので8回に分けてUPしています。

 御題は、老舗の生き抜き方というものをお話しせよ、ということしたので、そういう方面の話しをさせていただきます。

 本来自分で「老舗」と自称するのは僭越な話しではあるのですが、他に適当な日本語がありませんので、使うことにいたしまして、つまりは浅草の、すき焼き屋ですとか、天麩羅屋ですとか、鰻屋ですとか、蕎麦屋ですとか、そういう仕事を永年して来た店が、時代の変化や危機をどのように乗り切ってきたか、をお話ししてみたいと思います。

 本日は、その第3回です。おつきあいいただけましたら、幸いです。

<以下講話本文>

(関東大震災・東京大空襲と浅草)

 そこへ1923年、関東大震災が起こります。

 大火災が発生しまして、特に浅草を含む東京東部は壊滅・ほぼ丸焼けの有り様と成りました。帝都随一の展望台だった「十二階」もあえなく倒壊しました。そして、その震災後の復興キャッチフレーズが、あの有名な

「君よ、散財にためらうことなかれ。君の十銭で浅草が建つ。」です。

そんな看板が立てられたといいます。つまりは経済を止めてしまったら第二の被災になってしまうから、厳しい中でも少額でも消費して、豚カツとかシナ蕎麦とかにお金を使って再建しよう、ということです。

 十銭消費のおかげで、この時は意外な速さで、復興が進められ、昭和も二ケタに入りますと、高見順の小説「如何なる星の下に」に描かれたような興業街が復活します。しかし、もう時代は「国家総動員の時代」ですね。浅草はこの頃、時代にあわせられない人達~たとえば永井荷風や高見順に愛されるようになります。

 反体制と言うと言い過ぎかもしれませんが、そういうイメージの、小さい心の逃げ場として、もうしばらく繁栄を続けていきますが、もう戦争です。

 歴史とは皮肉なもので、総動員されたくない人々が集っていた浅草が、1945年の大空襲で完全に壊滅します。去年の津波の映像も酷かったですが、あれに匹敵する酷さで、全てが焼き尽くされたのが浅草でした。関東大震災でも壊滅しましたので、二度目です。

 ここでレジュメの下に載せた写真を説明をしますね。これは浅草寺の本堂です。現在の本堂では、勿論ないです。戦災から1958年(=昭和33年)まで使われていた仮本堂です。今は「淡島堂」と呼ばれていて浅草寺の境内にありますが、こんな小さな建物です。入口なんか、人間が3~4人しか通れないです。

 こんな小さな建物が13年間も本堂だったのです。二度目の被災ということで、ダメージが大きく、13年も再建できなかったのです。

 13年もかかりましたから、その間に亡くなられた方も少なくなかったと思います。

 今度の震災があって、私は、朝のニュース番組で三陸の御寺や御やしろが壊れているのを見て、その後たまたま「淡島堂」の横を通りかかりました。ああ、今回被災した御寺が再建されるのに何年かかるだろう、それを見ずに死んでしまう人もいるだろう。昭和本堂の完成を見ることのできなかった浅草の人達の悔しい気持ちと同じだなあ、と思いました。

 あの建物を見ていて、心底からそういう感情を持ったのは、私にとっては、これが初めてでした。以上がこの写真の説明です。

 さて、このように浅​草は1923年と1945年の二度丸焼けになっているわ​けで、実は20世紀前半の、最大の被災地とすら言えます。こ​の時代、浅草の家で、身内に一人も死人が出なかった家は​珍しかったのです。それでも所謂「老舗」企業は継続して来たわけで、それは人々​が、丸焼けの状態からの復興を果たして来たからです。

 こうした被災の経験から学ぶことが出来るのは、「本当の資産と​は、金でも建物でもない」ということです。それは、第一​には働く者の心と智恵であり、また第二には店の再開を望​んで下さる御客様とつながりです。だって、そもそも金は天下のまわりもの、ですし、建物だって爆撃されれば、跡形無くなってしまいますからね。

 特に重要なのは2番目の、御客様とのつながりだと思います・・・

<この話しは、長いので8回に分けてUPします。本日は、その第3回でした。>

追伸①

 藤井恵子さん著の単行本『浅草 老舗旦那のランチ』に載せていただきました。
 不肖・住吉史彦が、「浅草演芸ホール」の席亭さんや、「音のヨーロー堂」の四代目とランチをしながら、浅草について対談する、という趣向です。

 他にも20人ほどの、浅草の旦那さんたちがリレー対談で形式で登場します。

 是非ご購読を! 平成24年6月3日、小学館発行。
 ご購入はこちらです。 (できればレビューも書いて下さいね!)

追伸②

 「日本国復興元年~1千人の笑顔計画」を実行中です。

 この「計画」では、まず「ちんや」で東北・北関東の牛を食べていただきます。そして食後の飛びっきりの笑顔を撮影させていただきます。

 その笑顔画像をこちらのサイトにUPして、北の産地の方に見ていただきます。

 現在の笑顔数は262人です。笑顔数が1千人に達するまで継続してまいります。

 参加者の方には、特典も! 

 皆様も、是非御参加下さい!

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて858日連続更新を達成しました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

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