肉屋豹変す

今日は脂の熟成の話しです。

え? 脂に熟成ってあるの?

と思った方は正しいです。肉の熟成と言うのは通常、肉のタンパク質つまり赤身が、牛さんの体内の酵素によってアミノ酸に分解されることを申します。ここで生じるアミノ酸こそが旨味の本体です。

それと同時併行して、脂肪も脂肪酸とグリセリンに分かれるのですが、それを「熟成」と称して良いかどうかは、業界で統一的用語になってはおりません。私も、肉の熟成とは赤身の話しですよ!とずっと言ってきました。

だから、本日ここで多少の軌道修正をさせていただくことをお赦しいただきたいと思います。

そう、「肉屋豹変す」と昔から言うではありませんか(笑い)

さて、そもそも脂肪(トリアシルグリセロール)と申します物は3つの脂肪酸と、1つのグリセロールが結合して出来ています。そして、ウイキをコピペしますが、

「生物の油脂には大量のトリアシルグリセロールが含まれている。これは脂肪酸とグリセロールのエステルであり、加水分解により脂肪酸とグリセロールを生じる」のです。

なんと、加水分解するだけで、グリセロールが出来るのです。だから水分のある環境下で、置いておくだけで、脂肪が脂肪酸とグリセロールに分かれるのは、別に不思議なことではないのです。

このグリセロールは甘味料です。それも砂糖のような直線的な甘みではなく、穏やかな甘みを感じさせる物質です。

そのグリセロールが、熟成させた「ちんや」の肉には在るのです。

実は「ちんや」の肉は「脂が甘い」それも「くどくない甘さ」と言っていただくことが多いです。割下の中に、関東で最大量の砂糖を入れていますので、「くどい甘さ」と言われるかと思いきや、「くどくない」と言われるのです。

砂糖由来の甘さとは別の甘さ(グリセロール)を、お客様や取材の方が感じ分けていると考えないと説明がつかない現象だと私は思っています。

ここは結構重要な点なのですが、この脂に由来する甘味つまり砂糖由来でない甘味が、すき焼きにはとても重要だと私は考えます。だから、すき焼きには全くの赤身肉がベストだとは思えず、結局「適サシ肉宣言」になるわけです。はい、結局、そこに行くんです。悪しからず。

ついでに申しますと、甘さの件だけではなく、物理的にも脂が変わって、やわらかく成っていると私は考えています。

皆さん、すき焼きの肉を蕎麦のようにズルズル飲み込んでいる人を見かけませんか?あれは、脂を噛み切れないからですよね。それで、勢い、丸ごと飲み込むしかなくなるのです。

「ちんや」の肉で、ああいうことはありません。それは、熟成させた肉を薄切りすれば、脂肪が分解されているので、噛み切れるからだと考えています。

熟成と言うとこれまでタンパクの話しばかりでしたが、脂肪の熟成(分解)過程にも注目して行きたいと最近私は考えているのです。

具体的には、脂をポイと捨ててしまうのは、モッタイナイ。

サシの少ない赤身肉を食べる前に、脂のシートを被せておいて、その中にあるグリセロールと絡ませたらどうだろう?というようなことが考えられるのです。

特許庁さん、特許もらえませんかね、このアイデイア?

追伸1

雑誌「dancyu」2017年8月号の「美味東京」特集に、「ちんや亭」の「適サシ肉」の「ちょい食べ」が採り上げられました。

ありがとうございます。

 

追伸2

拙著は好評(?)販売中です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

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浅草の九人の旦那衆と私が、九軒のバーで語り合った対談集でして、「浅草ならではの商人論」を目指しています。

東京23区の、全ての区立図書館に収蔵されています。

四六判240頁

価格:本体1600円+税

978-4-7949-6920-0 C0095

2016年2月25日発売

株式会社晶文社 刊行

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.706日連続更新を達成しました。

 

Filed under: すき焼きフル・トーク — F.Sumiyoshi 12:00 AM  Comments (0)