伊勢廣のおもてなし
『伊勢廣のおもてなし』という御本が出ました。
自費出版のようなタイトルですが、さにあらず。おだ・ひろひささんという、食通の建築家が連日連夜焼き鳥の「伊勢廣」さんに通って書き上げた御本が、これです。大変参考になる御本です。
さて「伊勢廣」の初代・星野白久さんが、京橋に店を構えたのは1921年(大正10年)のことですが、その時の、初代の考え方は、今は伝えらえていないようです。
白久さんは、大正初期から日本橋蛎殻町で営業していた鳥屋「伊勢廣」の従業員で、店主の姪っ子と結婚して暖簾分けをしてもらったそうです。親戚に暖簾分けで店を与える、という戦前には多かったパターンです。
白久さんが自分の意思を鮮明にしたのは、戦後1947年(昭和27年)のことでした。二代目・善次郎さんの記憶によれば、戦中・戦後の10年ほどはほとんど営業できず、やっと店を再開するに当たり、
「最上の品物、鶏は言うに及ばず、塩・醤油・味醂などの調味料から野菜や酒のおいても最高の品物を業者の「言い値」で私どもは求めました」
うーん、世間は飢えているというのに大変な決意です。
そして、当代(=三代目)雅信さんは「あたりまえのことを丁寧に」
1初代が考案したフルコースが90余年を経てなお、かたちを変えずに愛されている事実を謙虚に受けとめて、美味しく、楽しい食事をお客様に提供する。
2目先にとらわれず、水面下のバタ足を休めず、焼き鳥専門店としての立ち位置を守る。
3お客様に「安心して」ご来店いただく。
4取引先に「安心して」取引してもらう。
5従業員に「安心して」働いてもらう。
と言っておられます。
さて、皆さんは、この初代と三代目の経営理念をどう読みましたでしょうか?
初代の「最上」と、三代目の「安心」
一見別のことがらのように見えます。
しかし、私の料理屋としての体感から申しますと、この二つ~「最上」と「安心」はつながります。
建前として、「安心」は最低限度のものとして、政府が国民に保証するべきものかもしれません。
しかし、実際は政府の諸々の規制をかいくぐって、業者は様々のコストダウンを試みます。鶏肥育の世界でも同様で、ホルモン剤や抗生物質が発展して来ました。
しかし「伊勢廣」さんは、「最上」を求めた結果「安心」を実現しました。今日でも、ホルモン剤などを使わない、放し飼いの鶏舎から鶏を仕入れているそうです。
しかも、相変わらず、生産者の「言い値」で。食材の安全性のみならず、業者さんの「安心」が大きく採り上げられているところがポイントだと私は考えます。
21世紀も、もう16年。いいかげん、「安心」は最低限度のものという建前に固執するには止めにして、本当に「安心」を実現するには、どうしたら良いのか、多くの人が考えてはどうだろうかと思います。チト話しの風呂敷が拡がりましたけどね。
なお、「伊勢廣」二代目の星野善次郎さんは、この御本の刊行直後に他界されました。心よりご冥福をお祈り致します。
出版社: 彩流社 (2016/8/23刊行)
ISBN-10: 4779170729
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978-4-7949-6920-0 C0095
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株式会社晶文社 刊行
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