本気の質問項目②

「ちんや」のお客様で、学校の先輩でもある柴田明彦さんが、毎週火曜日に「フジサンケイビジネスアイ」に連載しておられるコラム『本気の仕事講座』の中で私を採り上げて下さいました。

人気のある連載らしく、何人かの方に、

「フジサンケイビジネスアイ」で見かけたよ!と声をかけていただきました。

そして同時に住吉さんのブログの1/20号に載っていた「本気の」質問項目の答え(=掲載されたゲ原稿の素)が、紙面には全部載っていませんでしたね。教えて下さい!という声もいただきました。

紙には限りがありますからね、このブログでお答えして参りたいと思います。

<長いので、昨日から二日に渡って公開しています。今日は、その第二回です>

・現代社会で本気を感じること

大震災の後、津波で流された会社を再建した社長さん達の姿には強い印象を受けました。

そして弊店も、歴史の中では関東大震災・太平洋戦争と二度丸焼けを経験したことを思い出しました。

こうした危機の際に、会社を継続するために必要なのは、金でも土地でも建物でもなく、ノウハウを持った社員と、お客様からの信用であることが分かります。

それこそが本当の会社の資産であり、本当の資産はバランス・シートに載っていないのです。だから柴田さんの、このコラムの主題が「本気」すなわち本当の「気」であることに、今は大変共感できます。

 

・あなたにとって本気の定義とは何でしょうか。

上に書きましたように、会社の本当の資産は、ノウハウを持った社員と、お客様からの信用ですから、それを損ねる結果に結びつく「仕事」は全て本当ではあり得ません。

この発想に立てば、ブラック企業や偽装表示が論外であるのは当然で、現代日本にそういう会社がたくさん在ることに、私は言い知れぬ気味悪さを感じますが、それはさて置き、

今私は経営者なので、自分の意に沿わぬ仕事を社内で引き請けさせられることがありません。

代を継いだばかりの時は気にいらない仕事もありましたが、上に書きましたように、そういうのは止めてしまったので、今は愉快に仕事しています。

ただしです、怖い感じ・暗い感じの本気は本気であっても、私はあんまり好きではありません。遊び・無駄は必要です。

やる側もそれを受ける側もジョークだと認識していれば、邪道もOKと思っています。老舗=怖いにはしたくありませんね。

 

・自分自身が本気度を炸裂させた事例、体験。

肉体的にハードワークするという意味では、やはり正月の営業です。浅草の超繁忙期ですから、私が丸々一日玄関に居っぱなしに居て、全てのお客様の出入りを把握します。

3分も席を外すと状況が変わるので、食事も弁当を玄関脇の小部屋に持ち込んで済ませます。体はキツいですが、上に書いた時間制限のおかげで、以前のような混乱が生じることはなくなりました。超繁忙期であっても銀行の窓口のように営業を進行させます。

料理内容に気を遣うのは、やはり料理業界の会合ですね、普通の方には申し訳ないですけど。

その話しは、今回のコラムの主題からは外れるかもしれませんが、技術的に進歩する為には、業界の会合を積極的に引き請けるのは良いことです。

偉い方の密談が弊店である場合、隣に話しの内容が聞こえないようにとか、そういう気は遣いますが、これも今回の主題の本気とは少し意味合いが違うような気がします。

社会貢献させて頂いているのは、「1千人の笑顔計画」でしょうか。東北産の牛肉を召し上がった方の笑顔画像を弊社サイトにUPしています。

http://www.sukiomo.com/smile/

私の場合、「炸裂」してしまうのは、結局こちらが本当の仕事と考えていることをさせて貰えない場合に多いような気がします。

上に書いた「時間の短すぎる予約」が良い例です。料理屋の業界では予約を断る・入店を断る・注文を断るって、結構な難事なのです。

BtoBの世界とそこが少し違います。

 

・失敗体験⇒そこから学んだこと

思いつきをどんどん実行していますので、失敗と言えば失敗ばかりです。

しかし失敗は成功の素であって、数を打たないと成功例も出て来ません。何もしないのが最も良くないと考えています。

ただ、思いつきの方向は当然変わってきています。

私が若い内は、未だネットが未発達の頃でもあったので、雑誌広告・交通広告とかクーポン券とかに強い関心を持っていましたが、ああしたものは店と客の絆を強化するものには成り得ず、上手く行ったとしても一過性の効果しかありませんでした。

クーポンを利用する客も受け取る店も「損得ずく」でどうしても冷えた空気が生まれます。

今は考え方がだいぶ変わりましたので、販促面ではお客様の記念日を店に登録していただくことに注力しています。

その日に来店されれば割引きをするので、割引という現象面では以前のクーポンとあまり変わらないかもしれませんが、生じる空気は全く違います。

記念日割引は割引きさせられた店側も嬉しく思う割引です。結婚記念日にご夫婦で来店して下さったりすると、こちらも「どうぞお幸せに!」という気持ちに成ります。そういう現場空間を作っていくことこそ、すき焼き屋においては本当の仕事だと今は思い定めています。

 

・次世代へのメッセージをお願いします。

以下、伝統産業の後継経営者に特化したメッセージですが、お赦し下さい。

引き継いだ事業を冷静に吟味して、自分の信念・信条・直感に合う事業であれば、無用  に「改革」すべきではありません。細部を洗練させるべきです。

「改革したい」「改革者としてメデイアで話題に成ってみたい」「先代より出来ることを見せつけたい」という欲求に支配されてはなりません。若い内に出しゃばればデメリットの方が大きいでしょう。貴男の資質のことは、一人の女性が分かってくれれば、それでOKと思うべきでしょう。

一方、新しい科学的知見や社会の動向には注意を払い、事業に採り入れていかねばなりません。私の場合は食品科学・畜産学で、色々論じたいところですが、それを言い始めると長大に成りますから、今日はやめておきます。とにかく新技術に逆らうことは誰も出来ません。

「時流に逆らう男」は格好良くドラマの主役としては丁度良いですが、非実際的です。

「抵抗の為の抵抗」は「改革の為の改革」と同様に愚かなことと思います。

新知識を採り入れるプロセスを通じて、会社は間違いなく「貴男の会社」に成って行きますし、貴男が作る製品は歴代で最も優れた製品に成って行きます。

そうそう力まなくとも、当代の味が歴代で最も美味い、ということに自然と成って行くと思います。

 

・座右の銘

「商いは、楽しく・古風に・斬新に」(自作です)

<終わり>

追伸

一冊丸ごと「すき焼き大全」とも申すべき本が出ました。

タイトルは『日本のごちそう すき焼き』、平凡社より刊行されました。

この本は、

食文化研究家の向笠千恵子先生が、すき焼きという面白き食べ物について語り尽くした7章と、

全国の、有志のすき焼き店主31人が、自店のすき焼き自慢を3ページずつ書いた部分の二部で構成された本で、

この十年の「すきや連」活動の集大成とも言える本です。私も勿論執筆に加わっています。

是非是非お求めください。

弊店の店頭でも販売しますし、こちらからネットでも購入できます。

是非。

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.812日連続更新を達成しました。

Filed under: すき焼きフル・トーク — F.Sumiyoshi 12:00 AM  Comments (0)