本気の質問項目①

「ちんや」のお客様で、学校の先輩でもある柴田明彦さんが、毎週火曜日に「フジサンケイビジネスアイ」に連載しておられるコラム『本気の仕事講座』の中で私を採り上げて下さいました。

人気のある連載らしく、何人かの方に、

「フジサンケイビジネスアイ」で見かけたよ!と声をかけていただきました。

そして同時に住吉さんのブログの1/20号に載っていた「本気の」質問項目の答え(=掲載された原稿の素)が、紙面には全部載っていませんでしたね。教えて下さい!という声もいただきました。

紙には限りがありますからね、このブログでお答えして参りたいと思います。

長いので二日に渡って公開致します。

・あなたの仕事内容は?

浅草のすき焼き店「ちんや」の六代目の店主(株式会社ちんや代表取締役社長)です。

2001年8月に36歳で就任して、在任すること13年です。

やってきたことについては、弊ブログのプロフィール欄をお読みください。

 

一方、この間に経営に大きな影響を受けた外部の出来事としては、全て悪いことですが、

2001年のBSE問題に端を発した「食の安全・安心」問題、口蹄疫の流行、鳥インフルエンザの流行、リーマン・ショック、東日本大震災がありました。

こうした問題のたびに、大きく売り上げを落とし、店と客の本当の絆とはどういうものか、真剣に考えさせられました。思いおこしますと、悪い出来事の方が経営者としての進歩につながったような気がしていますが、そのことは下に書いて行きます。

 

・あなたは自分の仕事が好きですか。それはなぜでしょうか。

好きです。しかし最初から好きだったわけではなく、仕事そのものを好きな形に変えたり、どうしても好きになれない仕事は止めたりしましたので、それでどうにか好きになれました。

すき焼きは基本的に人を幸せにするものですから、そこはまず前提としてハッピーでしたが、接客業特有・「感情労働」特有のストレスを、最初はやはり感じました。

店ではアルコールも提供しますから、酒抜きなら起こらなくて済むトラブルも起きることがあります。それに対処する仕事を好きになれと言うのは無理と申すものです。

後ろの予約客がもう到着しているのに、先客が泥酔して部屋を空けてくれない場合などは本当に辛いものでした。

そういう状況は自分にもストレスで社員にも当然ストレスですから、時間制限を導入することで解決しました。制限と言っても2時間30分制限ですから、ゆとりが在る制限で、たいていは納得していただけますが、それでも「そういう制限が在るなら、もう行かない!」と言う方も出ました。

しかし、そこでブレてはいけませんしかし、それしか方法は無いのですから、断行あるのみです。社長に成って3年目に制限を導入しました。

時間制限は元々は酔客対策でしたが、良い副産物もありました。一日の全ての仕事が計画的に成ったことです。

正月の超繁忙期など、いったい何組のお客様の相手をしないといけないのか、皆気が遠くなりながら働いたものでしたが、今では一日一部屋が3回転するだけ、と誰もが分かっています。

ですので超繁忙期であっても計画的に・平静な気持ちで仕事に取り組めます。仕事を好きになる為に、これはかなり在り難いことでした。

逆の時間制限もしています。時間が短すぎる予約も受けないのです。旅行業者がしばしばそういう予約を入れようとしますが、理由は多数の施設を周りたいからです。

そういう業務は請けると店を荒らしますし、同じ時間に居合わせる他のお客様の迷惑になる可能性が高いですから、絶対に請けません。

そうしますと「お客様は神様」と考えている業者と電話で口喧嘩に発展することもありますが、そういう喧嘩は江戸の華。

たまにやらないと「最近喧嘩してないなあ~」と物足りない気分になることさえあります。

会員制を敷いてはいないので、以前は反社会勢力の人間が入ってくることもありました。最近は暴追条例の施行で反社客はまず全く来ませんが、私が若い頃は来ていました。

そこで、まず警察の講習会に通って、「暴追の店」のというステッカーを貰って店頭に貼り、その上でヤっちゃんと直接対峙。料理は提供できないから帰って欲しいと告げました。

日本のヤクザはベースが任侠ですから、素人を刺したりしないもので、大人しくしてくれなかったことはありません。

思いまするに、自分でやりたくて取り組んだ仕事が好きなのは当然のことで、「仕事を好き」と言うためには、どうしても好きなれない仕事をしない、ということが大事です。そしてそれは難しいようで、そう難しいことではありません。

必要なのは勇気と決断だけ。飛び降りてみれば易いことと分かります。

 

・仕事に対する姿勢

実は、どうも、仕事として仕事をしている感覚があまりありません。店から報酬を受け取っているから「仕事」ではあるのでしょうが、「浅草のすき焼き屋として生きている」、という感じが実感です。

ですのでオン・オフの切り替えが、私の場合ほぼありません。店の定休日もたいてい業界の用事か、地元の用事をしています。寝ている間も仕事の夢をみます。

全人格的にどっぷり関与していますが、それで充分愉快に生きており、ストレスに感じたりはしません。(肉体的には確実に負荷がかかっていると思いますが、今のところお陰様で完全に健康です。)

 

・あなたのロールモデル(尊敬する人物、成りたい自分モデル)は?

はなはだ僭越ながら明治天皇です。

陛下の生涯を知れば、要職を務め・大事を成すのに必要なものは、へんぺんたる才気ではないことが分かります。

陛下は失礼ながら凡才の御方であられました。

たまたま天皇の子として生まれ、歴代皇室に対する責任を全うするだけでも難事であるのに、陛下の政府は帝国主義の時代にあって欧米列強と対峙し、国内では近代化を進めました。

ドナルド・キーン博士が編集した伝記を拝読しますと、その間の陛下の務めの苛酷さに涙がこぼれるのを禁じ得ません。

しかし結局陛下は、ほとんど全ての国民から、海外からも崇敬を集め、歴史に名を残しました。世界史に冠たる一生と言えると思います。

 

・現代社会で本気を感じること

<この続きは、明日の弊ブログにて>

追伸①

2月10日は火曜日ですが、祝前日ですので休まず営業致します。どうぞ御利用下さいませ。

追伸②

一冊丸ごと「すき焼き大全」とも申すべき本が出ました。

タイトルは『日本のごちそう すき焼き』、平凡社より刊行されました。

この本は、

食文化研究家の向笠千恵子先生が、すき焼きという面白き食べ物について語り尽くした7章と、

全国の、有志のすき焼き店主31人が、自店のすき焼き自慢を3ページずつ書いた部分の二部で構成された本で、

この十年の「すきや連」活動の集大成とも言える本です。私も勿論執筆に加わっています。

是非是非お求めください。

弊店の店頭でも販売しますし、こちらからネットでも購入できます。

是非。

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.811日連続更新を達成しました。

Filed under: すき焼きフル・トーク — F.Sumiyoshi 12:00 AM  Comments (0)