15秒 プラス26 年 プラス132年
「ちんや」のスタッフつまり職人連は、当然肉を扱う技能を持っているのですが、それを人に上手く説明することが苦手です。
良い牛脂と、そうでない牛脂が間違いなくあって、本人達はそれを識別できているのですが、
部外者が、どこがどう違うのか尋ねると、
いや、それはですね、良い脂っていうのは、良い脂ですよ、とか答えてしまいます。
ほとんど禅問答ですね。それじゃあ、わからない、と言うと今度は、
そうですねえ、良い脂っていうのは、脂の質が良いんですよ、とか答えてしまいます。
ますます分かりませんね。で、余計分からなくなったと言うと、
食べれば分かりますよ!!
となってしまいますが、食べる前に、お客様に分からせないと買って貰えませんから、この問答では×なのは、明らかです。
で、この話しを少し科学的に説明しますと、
牛脂に含まれる脂肪酸の構成比を、職人連は指で触るだけで、時間にして数秒で知ることが出来るのです。
化学式は割愛しますが、脂肪酸には融点の高い種類と低い種類がありまして、その両方が牛脂に含まれています。中には常温で溶け出す脂肪酸もあります。
その内、融点がより低い方が、食べた時に、口の中でマイルドな感じを与えます。溶けた脂肪酸が調味料と肉の赤身の部分を包み込んで、婚前一体イヤ渾然一体となった、それは素晴らしい味覚を作りだします。
特に調味料が強い、すき焼きの場合に、この働きが重要です。
「ちんや」の肉を食べた方の、FBでのコメントとして、
と、溶ける~
という表現がありましたが、この現象を言っているのです。
勿論、脂肪酸の構成比は科学的に調べられますが、その分析には時間がかかります。
その分析が出来る迄売り買いしないなんて、市場の現場でそんな悠長なことでは困ります。しかし有り難いことに、練度の高い職人には、それが数秒で出来るのです。指で触るだけで。
そうです、これだけ科学的になった世の中でも、人間の方が速いのです。
この話しを書いていて、濱田庄司の名言を思い出しました。
濱田庄司とは勿論、民芸陶器の人間国宝のことですが、濱田が大皿に釉薬を柄杓で流し掛けする作業は素早く、15秒位で済ませてしまうことが多かったようです。それで見学した人が、あまり速過ぎて物足りない!と言うと、
これは 15 秒プラス 60 年です。
と言って聞かせたそうです。
名言ですね。
「ちんや」の精肉部長・橋本も15 秒で脂の質を知ることができます。
15秒ですが、それプラス、この店に在籍した26 年、さらに修練の場である「ちんや」が、この街に在り続けた時間の、プラス132年。
それだけの時間が、15 秒で脂の質を知る、ということを可能にしたのです。
上手い表現方法を思いつきました。
15秒 プラス26 年 プラス132年
その内、このコピーを店先に掲げたいと思っています。
追伸
4/20に開催した「ニッポン全国彪友会~台東万博!」を主催しました。この日の画像は、こちらをご覧ください。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて790日連続更新を達成しました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。
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