いらっしゃいませ!
「いらっしゃいませ!」の意味を考えたことはありますか?
まず最後の「ませ」を考えてみましょう。
この「ませ」は、助動詞「ます」の命令形「ませ」ですね。だから「いらっしゃいませ!」は人に命令している言葉です。
では、その前の「いらっしゃい」を考えてみましょう。
これは、「いらっしゃる」の連用形ですね。「いらっしゃる」は、不規則な変化をする言葉で、連用形の時に「り」の r が落ちて、「い」になります。それで「いらっしゃい」なのです。
つまり「いらっしゃいませ!」とは「さあ、おこしになってください」の意味です。
でも、客がもう来ているのに「来い」と命令するのは変ですよね。
店の外に店員が立って、
「いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!」と呼び込みをする場合は、「おこしになってください」の意味ですから、言葉の意味通りの使い方ですが、普通我々は、そうではなく、既に見えたお客様に対する挨拶の意味で使っています。変ですね。
その変な感じは、「いらっしゃいませ!」を英語に置き換えてみると、よくわかります。
接客英語辞典などには、
May I help you ? とか、
Hello とか訳してあります。ゼンゼン意味が違いますね。
では、なぜ既に見えたお客様に対して、「おこしになってください」と言うのでしょう?
あくまで想像ですが、その昔、客は店に着いても、すぐ店に入らなかったのかもしれません。
お頼み申ーーす! とか客が言ったのを受けて、
店員が、「いらっしゃいませ!」つまり、「さあ、どうぞ、店の中へ来てください」と言って、それから店の中へ入ったのではないでしょうか。
歌舞伎を見ていますと、昔の店の入口には、誰もいないことが良くあります。現代の店は、たいてい入口にレセプターという第一次応対の係員がいますが、歌舞伎の場合、店員は奥にしかいないので、客は奥へ向かって大声で「お頼み申ーーす!」と叫び、その声を聞いて、奥から丁稚さんが出て来るのです。
丁稚さんが子供である場合も多く、その場合は奥から表へ甲高い声で、
おはーーーーーい!などと返事をして、それからやがて表に出てきます。客は、その丁稚さんに下足を預けないと中へ入れないのです。
だから丁稚さんは、下足を預かりながら、客に「さあ、どうぞ、店の中へ来てください」と言ったわけです。
要するに、「ちんや」の下足番が「いらっしゃいませ!」と言うのは理にかなっていますが、もう個室の中に入ってしまったお客様に対して、仲居が「いらっしゃいませ!」と言うのは、やはり変なのです。
では、なんて言ったら良いのでしょう。
その適当な言葉が無いから困るのです。
いっそのこと、
May I help you ? で行こうかな。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて636日連続更新を達成しました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。
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