懸念材料

 「ちんや」さんの客層は、どんな状況ですか?」と良く聞かれます。グルメサイトの連中がしばしば、そういうことを聞いてきます。

 客層ってなんぞや?と思って聞き返すと、何のことはない、要は客の年齢が若いか年寄りか、ということを知りたいようです。

「ちんや」は年配のお客様が多いですから、そのことを伝えると、とたんにあの連中、したり顔で説教してきます、

「最近は老舗さんでも若い客層を取り込もうとしている御店が多いですよ。年配のお客様ばかりというのは、「ちんや」様の永続的繁栄という観点では、懸念材料ですね!」

 この発想に、実は以前、私も店の連中も囚われていました。お年寄りばっかりでは、先行きが暗い、という考え方をしていました。

 でも、それって本当にそうでしょうか?

 お年寄りというのは、人生経験が長く、それに比例して、お金を支払った経験が豊富です。「へなちょこな店では金を使わない」という判断が出来る方々です。だから、お年寄りに支持されている、ということは喜ぶべきことであって、「先行きが暗い」というのは違うと思います。

 例えば、下足番を配置して御靴をお預かりすることにより、懐かしい、日本のレトロな風情を楽しみながら食事ができます。また靴を脱ぐことによって、よりリラックスして食事ができます。

 だから、そのことに価値を感じている、年配の方は下足番の人件費を含んだ飲食代金を請求しても払って下さいます。有り難い話しです。

 そもそも、言わせていただきますが、歴史のある飲食店で食事を楽しむ、ということは文化っぽい行為です。ある程度の、視野の広さが無いと、充分に楽しめないものです。それは、そう簡単には分からないものだと思います。

 もちろん、若い方でも勉強熱心で社会経験の豊富な方もおいでではありますから、そういう方は歓迎します。「客層」という言葉を使いたいなら、文化っぽい行為としての食事が出来る「客層」と、それが出来ない「客層」に分けたら良いのです。若いか・年寄りかではなくて、です。

 ネット・ビジネス世界には、数字でしか物事を把握しない御仁がいますので、そうした手合いとは決して交際しないことにしています。毒されて、以前の「お年寄りばっかりでは、先行きが暗い」という考え方に戻りたくないからです。

 それに言うことを聞いて、若者に媚びた宣伝をしてもムダでしょう、多分。

 ところで年配のお客様が、「ちんや」を好まれる理由は、もう一つあります。

 熟成させた赤身肉があるからです。

 赤身肉は、単価が低いので、丁寧に熟成させる店が少ないのですが、それでは胃もたれする肉になってしまいます。

 熟成させることにより、タンパク質がアミノ酸に変わり、消化しやすくなります。胃もたれしないのです。そして、同時に旨くなります。

 だから長寿を願う、年配のお客様が「ちんや」を好まれるのは、しごく当然です。

「ちんや」様の永続的繁栄という観点では、懸念材料ですね!」

 なんてことを、おっしゃっている皆さんも、年をとりますよね、漏れなく。

 自分が年寄りになって、どうしても「ちんや」の肉を食べたくなって、思わず「ちんや」に入ってしまった時にも、やはり「懸念材料」って言うんでしょうかね。

 そうです、その時は自分が食べに来ていること自体が「懸念材料」に成るわけです。

 ひひひひ。私はそれでも歓迎しますよ、けねんざいりょう様!

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて334日連続更新を達成しました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

 「ちんや」創業130年記念サイトは、こちらです。「すき焼き思い出ストーリー」の投稿を募集しています。

 Twitterもやってます。こちらでつぶやいています。

Filed under: すき焼きフル・トーク,ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 12:01 AM  Comments (0)