台東区の歌
年始5日台東区役所の賀詞交換会がありましたので、出席してきました。
が、5日は未だ松の内で店が忙しく、ビールや軽食も用意されているのですが、私は楽しんでしまうというわけには行かず、皆さんに挨拶だけをして退散しました。
さて、この会で毎年気になることが一つあります。冒頭「君が代」に続いて「台東区の歌」を全員で斉唱するのですが、参加者がほとんど歌えないのです。長野県の県歌を、県民は全員歌えるそうですが、台東区民は歌えません。歌っている人も、なんだか気乗りしない感じで歌っていて、溌剌と歌っている人はほとんどいません。チト残念な雰囲気なのです。
この曲について、作詞家や作曲家について知れば、もう少し熱心に歌うはずだと思うのですが、私の知る限り、社会人が学ぶ機会はありません。
ですので、この際、ここでご紹介したいと思う次第ですが、まず作詞家は、
土岐善麿(ぜんまろ)。歌人で国文学者。西浅草の寺の子として生まれ、新聞記者を経て、早稲田大学教授、国語審議会会長。お能の新作を書いたこともあるとか。
全国の非常に多数の学校の校歌を作詞していて、台東区立浅草小学校の校歌もこの方の詞です。私も歌いました。だから作詞がこの方というのは至極順当な人選と思います。
一方、大変興味深いのは作曲の渡辺浦人(うらと)。
日本支配下のソウルで教員の子として生まれ、やがて東京に移って、東京音楽学校でヴァイオリンを学んだいうことですから、一応上野に縁がありますね。
代表作は映画音楽「赤胴鈴之助」、テレビ音楽「おそ松くん」ですが、戦前はバリバリのクラシックの作曲家で、オーケストラ用に「すめろぎの御旗の下に」、交響組曲「大和心」、交響詩「闘魂」などを書いていました。賞を獲ったり、演奏機会に恵まれたりしていたそうで、その為戦後に戦争協力者とみなされてしまいました。
で、戦後は映画・テレビの音楽や校歌を書いたり、音楽教育に力を注いだそうで、指揮者の山本直純さんを育てた人でもあるそうな。
さてさて、その二人を組ませて昭和39年(1964年)(=オリンピックの年)に「台東区の歌」は出来ました。
その時の経緯を知っている方が未だお元気なら、是非今の内にインタビューしておいて、是非この曲と渡辺浦人に焦点を当てたレクチャー・コンサートを開いて欲しいなあ、最後は客席参加で大合唱とか出来たら良いな!と思うのですが、区役所さん、いかがでしょうか?
そうそう、ついでに申せば、庁内の所管が総務課総務係というのは感心しません。文化振興課に移して、文化財として大事にしたらどうかと思います。
おっと余計な提案はこの位にして、内容に戻りますが、一番の詞が、
♪鐘は上野か さくらに蓮に 文化の花も さき競う♪
♪大慈大悲の ひかりをうけて 月も清かれ 隅田の流れよ♪
と仏教ネタ満載なので、どうも皆さんが景気良く歌えないのかもしれません。
しかし3番の最後の詞つまり結論部分は、
♪進むちからよ 新しく♪
ですし、楽譜の最初に
「Allegretto 元気に明るく」と指定されているので、元気に明るく演奏するのが作者の希望だったと思います。
にも関わらず、原譜に書かれている「Allegretto 元気に明るく」が台東区役所の公式サイトで脱落しているのは手落ちと思いますよ。修整していただきたいと思います。
それにしても、ですよ、我が義塾の同窓生の皆さん、♪進むちからよ 新しく♪って、どこかで聞いたことありませんか?
♪勝利に進む我が力常に新し♪(慶應義塾の応援歌「若き血」、昭和2年)
から「勝利に」「我が」「常に」を取って、順番を入れ替えると、
♪進むちからよ 新しく♪と成ります。
実は土岐善麿の校歌は信時潔が作曲を手がけたものが大変多いとかで、その信時の代表作は何でしたか?
「慶應義塾塾歌」(昭和15年)ですよね。(「海ゆかば」も有名ですが、今日はその件はさて置きます。)
それに善麿さんは早稲田ですから早慶戦で「若き血」をさんざん聞かされていた筈です。
え? 歌人が早慶戦なんか観に行ったのか って?
行ったと思いますよ、善麿さんはアクテイブな人ですから。新聞社の部長だった1917年(大正6年)に東京~京都間の「東海道駅伝」を企画して大成功をおさめたそうで、ちなみにこれが「駅伝」の起源です。
ですので善麿さんが「若き血」をパクって、いや、インスパイアされて♪進むちからよ 新しく♪と言った可能性が考えられるわけです。
実際、2番の♪つきぬいのちに 若やぎて♪に続けて♪勝利に進む我が力♪と(半音上げてですが)歌っても感覚的に全く違和感ありません。
このように色々申してきましたが、この歌は、是非応援歌のように、元気に明るくに歌うのが正しい、イメージは「若き血」というのが本稿の結論です。
区民の皆さん、是非楽譜をこちらから、入手なさってみて下さい。
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