100年経営アカデミー⑬
100年経営研究機構さん、ハリウッド大学院大学さんが主催する、
「100年経営アカデミー」で、ゲスト講師として講演をさせていただきました。
「100年経営アカデミー」は“100年経営を科学する”をテーマに、長寿企業から長く続く経営の秘訣を体系的に学び、経営の中で実践していくことを目的とした、日本で初の講座です。
6/11から講演全文を公開しています。長いので16回に分けて少しずつUPしております。
<「100年経営アカデミー」住吉史彦講演(2017.6.10)>
この「木の発想」は、勿論浅草独自のものでも江戸独自のものでもなく、日本全体にありますね。なにしろ、この国は伊勢神宮を二十年に一度建て替える国です。
京都だって、昭和の戦争では焼けていないものの、幕末の戦いや応仁の乱では焼けていて、平安時代の建物は残っていません。しかし平安時代のイメージの街です。そういう国にこの発想はしっかりと根づき、それを基盤に日本の老舗は存続してきたのだろうと思われます。
戦争以前から地震・津波・噴火・台風と何でもござれの災害大国である日本が同時に世界一の老舗大国でもあるというパラドクスがハッキリと存在していて、本当に考えさせられます。そして浅草はその中でも典型的な例・典型的な土地柄だと言ったら良いのかもしれません。
ソフトウエア優先の発想=木の発想が元々ある所へ、関東大震災と昭和の戦争を経験し、特に街の中心である浅草寺と神輿が焼ける体験をしたことが、浅草を浅草たらしめたと私は考えています。
その後も和装業界、花柳界といった個別の業界でも浮き沈みがありました。神輿の業界のように高度成長した後に、祭りが省みられなくなって危機がやって来た業界もありましたし、どじょう屋さんは、1960年代からどじょう資源の枯渇に悩まされました。
ここで、どじょう屋さんのついて考えてみますと、そもそも商いというものは、原材料が豊富に獲れるから、という所からスタートする場合があります。かつてどじょうは日本中の田んぼにたくさん棲んでいましたので、どじょう料理屋さんは、気軽に安く栄養を摂るための便利な店=ファーストフード感覚の店でした。
代々の中で一番ご苦労なさったという先代の渡辺繁三さんはご著書の中で自分が店を継いだ頃の客層について「気が荒くって、職人肌のお客が多かったように思います。」と書いています。戦前は朝7時から営業していて「朝は天秤かついだ人、薬売り、金魚売り、苗売り、それと近在の農家が市場に荷を運んだ帰りに寄って下さる・・・」という感じです。
しかし1960年代から農薬の影響で仕入れ難の時代になりました。どじょうが田んぼにいなくなったのです。結局、幾多の困難を乗り越えて、どじょうをわざわざ養殖し、お店もわざわざ文化体験として行くような店に仕立て直さねばなりませんでした。
今では「駒形どぜう」さんと言えば「江戸文化を食べる店」です。また当代の渡辺孝之さんと言えば江戸文化の伝道師です。「江戸文化道場」の継続的な開催が評価されて、2001年には「企業メセナアワード地域文化賞」を受賞されています。
もし1960年代にどじょうを諦めていたら、こうは成らなかったと思います。
このように簡素な物を文化にまで仕立て上げて、しかし過度に高級にはしない、それも「お客さまを巻き込んで面白可笑しく」という所に、私は浅草っ子の真骨頂を見る思いがします。
「駒形」さんのキャッチコピーの「お値打ち」とは、単に料理と価格の間の「コスパ」のことを言っているのではなく、江戸文化を満喫できるという価値をも含めた「値」だと考えないといけません。そういう感覚を持てる店を創り上げる為に渡辺さんが積み上げてきた努力の量は、本にあります通り、圧倒的と言う他ないものです。
「駒形」さんが企業メセナアワードが獲った時、同時に「メセナ大賞」を獲った会社の資本金は584億円強でした。対するに㈱駒形どぜうさんは 2.000万円。そう、文化を創り成すのに資本は2.000万円で充分なのです。この両社が今でも並んで掲載されていることが私は痛快でなりません。
このようにして、この本の皆さんは・・・
<今日の分は終わり。続きは明日の弊ブログにて>
追伸1
6/1発売の「婦人画報」7月号(創刊記念号)に載せていただきました。ありがとうございます。
今回の特集は、なんでも婦人画報社さんが「総力をあげた特集」だそうですが、題して、
「世界が恋するWASHOKU」。
旨味とか醗酵とかを採り上げた後、しんがりがWAGYUです。
追伸2
拙著は好評(?)販売中です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
題名:『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』
浅草の九人の旦那衆と私が、九軒のバーで語り合った対談集でして、「浅草ならではの商人論」を目指しています。
東京23区の、全ての区立図書館に収蔵されています。
四六判240頁
価格:本体1600円+税
978-4-7949-6920-0 C0095
2016年2月25日発売
株式会社晶文社 刊行
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.672日連続更新を達成しました。