ベアトリツェがベアトリ姉ちゃんになるまで
今年は「浅草オペラ」100年の年ということで、
『浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代』(森話社)を読みました。
「浅草オペラ」は、日本音楽史における「あだ花」と位置づけられることが普通です。「浅草オペラ」には当時、若い聴衆の度を超した応援合戦とか、女優のスキャンダルとか、嘆かわしい話題が多かったからですね。
しかし、本格的な西洋のオペラを日本人が上手く受容しなかった後、浅草の大衆が、かなり改変された形とは言え、熱狂的にオペラを受け入れたのは、紛れもない事実で、私にはそれが、西洋料理が「洋食」になった経緯にかぶって見えます。かなり興味深いです。
その意味で、面白かった章は、
「浅草の翻訳歌劇の歌詞──ベアトリツェがベアトリ姉ちゃんになるまで」という章でした。
「ベアトリ姉ちゃん」というのは、今ではあまり上演されないスッペのオペレッタ『ボッカチオ』の中の一曲です。元々の訳詞は原典に忠実でしたが、そこには音楽上のまとまりと噛み合わない箇所が結構あり、歌いづらく・聞き取りづらかったので、上演を重ねる内に改変され、歌い易く・聞き取り易く、そして原典の意味からは遠くなって行きます。その過程を追ったのが、この論考です。
ベアトリツェという登場人物の名すら、ベアトリ姉ちゃんに変えられてしまいました。
オッフェンバックのオペレッタ『ジェロルスタン大公妃殿下』ではタイトル自体が変わって『ブン大将』に成ってしまいました。
この話しは日本海海戦を思い起こさせます。海戦を控えて東郷提督の日本海軍は当然射撃訓練をします。ロシア戦艦の艦影を入手して、その画像を砲兵に記憶させようとするのですが、ロシア戦艦の名は
「シソイ・ヴェリキー」
「アドミラル・ナヒーモフ」
「ドミトリー・ドンスコイ」などと舌を噛みそうな名前ばかり。
そこで!「ドミトリー・ドンスコイ」は、なんと、「蚤取り権助」に改めて覚えさせました、とさ。
なじみ易さは必要ですよ、まじで。
さて、話しを戻しますが、
『浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代』(森話社)
クラシック音楽にはゼンゼン興味がないと言う、浅草の皆さんに、この本をお勧めします。学者さんが書いた本ですが、読みづらくはないです。
追伸
ネットTV番組『Story 〜長寿企業の知恵〜』に出演させていただきました。こちらのURLで視聴可能です。どうぞ、ご覧くださいませ。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.768日連続更新を達成しました。
すき焼き「ちんや」六代目の住吉史彦でした。