韓国の大学の学生さんから「東都のれん会」広報委員会にインタビューの申し込みがありました。
なんでも日本の老舗について研究なさっているとか。
なんと、奇特な若者達ではないですか!
しかも、事前に送られてきた質問内容を読んだら、核心を突いたものばかり。私は驚嘆したと言っても良いでしょう。
以下は、質問と回答です。韓国側の事情も知れて面白いので、お読みください。
なお、これは私が個人的に用意した回答であって、会の公式見解というわけはないですので、念ため。
Q. お店の伝統を受け継いでいこうとする職人たちのもっとも苦労する点のひとつとしてあげられるのが金銭面の問題であると考えられます。日本では、国や自治体レベルで、老舗を維持しようとする行政的な動きはありますか。
A.ごく少数の例外を除いて、そういう事例はありません。中小企業支援政策というものはありますが、それは競争力の弱い企業を支援するもので、老舗にしぼって支援するものではありません。老舗店の側もこれまで政府からの支援を期待して来ませんでした。
しかし今世紀に入って「観光立国」が国是として採用されてから、政府の中にも老舗に目を向ける動きが出てきつつあります。現在は転換期です。
Q. 韓国では、売上を多く出している店でも、その継承仮定で分裂が生じてしまい、うまく老舗が引き継がれないという事案が発生しています。仮に日本でそういった事案がある場合、どういった解決法が考えられますか。
A.日本でも、そうした問題を早く有効に解決する方法はありません。分裂した諸店の中で、お客様(=消費者)からの支持を獲得した店が最終的に生き残ります。複数が生き残って「共存共栄」の状況に成ることもあります。
Q. 韓国では、子が家業を引き継がずに老舗が門を閉じてしまうという事案が発生。そういった家族間継承について、日本ではどういうイメージがあるか。また外部者継承についてどうお考えでしょうか。
A.家族間継承に関する見方は日本人の中でも分裂しています。素晴らしいものだと捉える人も在り、忌まわしいものだと捉える人もいます。会社が大きければ後者の見方、小さければ前者、業歴が長ければ前者が多いです。外部者継承は、元々関西圏ではよく採用されていて、まったくないわけではありません。
Q. 日本において、有名一流大学を出たにも関わらず老舗を引き継ぐというニュースが韓国でしばしば報道される。韓国においては、それは個人の「成功」とイメージされないので驚かれる。日本における個人の「成功」とは何を意味するのか。何を意味してきたのか。
A.何が成功かを他人や社会に決めて欲しいと思わない人も多くいます。自分の成し遂げたいことを成し遂げたら、それを「成功」と思えば良い、それだけです。
日本でも以前は商業に従事することが卑しいこととされてきましたが、1868年に明治維新という革命があり、ほとんどの武士がクビになった後意識に変化がありました。クビになった武士たちが民間に入っていって、武士の価値観を持ったまま、(=「士魂商才」「論語とそろばん」で)民間産業に従事するようになり、営利会社に従事する人生が卑下されなくなりました。「一身独立して一国独立す」と言って、それが国益にかなうことだとも言われました。
Q. 日本社会では、「店を引き継ぐ」という行為が、お金を稼ぐこと以上のどんな意味をもっているのか。
A.その二つは「手段と結果」の関係です。お金を稼がなければ店を維持し・引き継いで行くことはできません。ですので稼ぎますが、稼ぐこと自体が自己目的ではありません。
稼ぐこと自体が目的であるような人生は、価値が無く馬鹿げています。それはマフィアの人生であり、ヤクザ者の人生です。
Q. 韓国では、有名店の名前を盗用した店が、オリジナルの有名店を押しのけてしまうという事案が発生。日本でこのような自体が発生した場合どう対処されるのか。どう解決しようとするのか。
A.当然商標権裁判を起こすことができます。日本の司法は基本的に信頼できます。また「東都のれん会」のような権威のある団体に入ることで、自店の正統性を補完することもできます。また江戸時代の寺子屋教育の影響により、社会全般の傾向として「信」の価値観が重んじられており、名前の簒奪者は批判を浴びます。
Q. 韓国では、メニューをあまりにも大衆化させてしまって、本来のその店の伝統・特色が失われてしまうという事案が発生。日本にも同じような問題に悩まされる店舗があると認識。現代の消費者のニーズに合わせながら、また店本来の伝統を失わないために、どういった努力がされているのか。
A.日本では成功している事例もあります。元々の店と「セカンドラインの店」を明確に区分し、それぞれが適切なマーケテイングを行えば成功する場合もあります。
Q. 日本において「老舗」とはどういう意味合いをもつのか。単に、経営年数が長いところか。あるいは、それ相応の威厳と信用を有している店舗か
A.もちろん後者です。
Q. そういう威厳や信用を勝ち取るためになされる努力はどういったものか。
A.日々の品質管理、お客様(=消費者)との約束事の履行、それを気の遠くなるほどの年月に渡って続けること、それしかありません。
(質問はまだまだ在りますので、続きは明日の弊ブログにて。)
追伸
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