韓国の老舗②
韓国の大学の学生さんから「東都のれん会」広報委員会にインタビューの申し込みがありました。
なんでも日本の老舗について研究なさっているとか。
なんと、奇特な若者達ではないですか!
しかも、事前に送られてきた質問内容を読んだら、核心を突いたものばかり。私は驚嘆したと言っても良いでしょう。
以下は、質問と回答で、今日は二日目です。韓国側の事情も知れて面白いので、お読みください。
なお、これは私が個人的に用意した回答であって、会の公式見解というわけはないですので、念ため。
Q. 老舗も「移転」をすることがありますか。そうだとしたら、その後も「老舗」と呼ばれますか。韓国では、「移転」をすると、その店の外観・内観が変わり、それまでに客が消費してきたものの一部が変わってしまうと考え、以前とは違う店になるという認識がある。もし、移転をしてもそれが老舗として維持されるなら、その理由はなんなのか。
A.老舗の本質は、ハードウエアではなく、ソフトウエア(品質と信用)なので、まったく問題ありません。実際、東京のほとんどの老舗店は1923年の大地震と1945年の大空襲で焼けており、外観・内観は以前と大きく異なっています。
そもそも日本は天災大国、火災大国で、戦乱も多かったので、被災と復興を繰り返す経験の中で、老舗に本当に必要なものは、決してハードウエアではなく、ソフトウエアであると多数の日本人が知っています。
Q. 維持されないとしたら、その理由はなんなのか。
A.品質と信用を最優先していないからでしょう。そもそも、そういう店は「老舗」ではありません。
Q. 日本においては、老舗に対して「誠意を込めた提供品」などの「良きイメージ」がると認識している。老舗を経営しているものとしてではなく、1人の消費者として、そういった老舗に対する「良いイメージ」がどうやって形成されると考えるか。また、そういった信頼ベースの「良いイメージ」はどうやって獲得されるものなのか。
A.老舗店が、日々の品質管理、お客様との約束事の履行、それを気の遠くなるほどの年月に渡って続けていて、消費者もそれを認識していること。
Q. 日本で、お店が100年以上維持される理由として、「職人の努力と社会的条件」、「政府の支援」、「消費者の認識」など、どういった要因が重要であると考えられるか。
A.第一は「消費者の認識」と「社会的条件」。「職人の努力」も重要ですが、永い歴史の中には、それが出来ない場合もあります。その時代を支えてくれたのは、お客様(=消費者です)。「政府の支援」は全く寄与していません。
Q. 韓国において、メディアによる一時的老舗ブームが発生。それを原因に、味とサービスを維持できないという副作用が観測された。日本では、そういった副作用を経験した店があるのか、また、どう解決されたのか。
A.日本でも少数ですが、在ります。周囲のアドバイス・批判が行き過ぎを抑制します。
Q. 新しく、「老舗」という基準を通過する店が出ているのか。
A.少数ですが、あります。
Q. その理由はなんだと思いますか。
A.創業者の経営理念が老舗的で、それが継承される場合もあります。
Q. 現在、新しく開業されるお店のうち、「老舗」を目指す店舗はどのくらいあると考えるか。新しい「老舗」が形成されることが期待できるのか。
A.うーん、それは正確には分かりません。
Q. 大企業の参入により、同分野の商品を扱う老舗が退かれるという事案はあるか。どういう解決策があるか。
A.そういう事案も勿論日本でもありますが、最終的には老舗小資本側の勝利に終わります。大企業は多額の資本を集めて事業をしていますから、出資者に配当を出さねばならず、どうしても品質や信用より利益を優先する傾向にあります。それがお客様から支持されないのです。またそれぞれの経営者の事業継続意欲を比較した場合、老舗小資本側が強固で、大資本側が弱い傾向があります。
Q. 日本の若い世代は、老舗に対して、「古い」「退屈」「洗練されていない」などのイメージをもっているか。そうである場合、老舗はどういう対処をしているか
A.日本の若い世代の、老舗に対するイメージは分裂しています。たしかに「古い」「退屈」・・・と思っている人もいますが、すべての人ではありませんし、逆に老舗は「懐かしい」と感じる若い人も多いです。お爺さん、お婆さんとその店に行って、食事したことがあるからですね。
老舗の歴史は、お客様の歴史でもあります。お客様が着実に家族の歴史を重ねて行く間、たいていは老舗店を利用下さいますし、若い方(お子さん・お孫さん)も一緒にその味を体験して下さいます。それで懐かしいのです。
そもそも老舗は、主と従業員だけが創るものではなく、お客様と、その背後にある社会が創るものです。
日本社会が健全である限り、ことさら若い人の動向に気を揉む必要はないと私は考えます。
(終わり)
追伸
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株式会社晶文社 刊行
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.359連続更新を達成しました。
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