「あとご飯」論争

 このブログの4/20の号にも書きましたが、カリスマ靴職人・末光宏さんを講師として「ちんや」に迎えて、靴の勉強会を開催し、その後で末光さんを囲んで、すき焼き懇親会をしました。桜鍋「中江」のN社長、「駒形どぜう」の若旦那W君、料亭「きよし」(墨田区向嶋)のA子女史などが参加してくれました。

  なごやかに靴談義をしつつ、鍋を食べ進めていく内、「ではそろそろご飯を」ということになりましたが、桜鍋「中江」のN社長だけは、出されたご飯に手をつけません。「?」と思ってみていると、「住吉さん、タマゴもらえませんか?」とN社長。

「え?すき焼き終わったのに、まだタマゴ要るんですか?」「ええ、だって「あとご飯」やりたくなっちゃったもんですから。」とN社長ニヤリ。

 「あとご飯」とは、「中江」さんのホームページによると、以下の通りです。⇒「鍋の残り汁に玉子を入れ、ふんわりと仕上げ、その玉子をご飯にのせて玉子丼のように食べるのが「あとご飯」です。肉や野菜のうまみたっぷりの玉子は、桜なべを食べた後にしか味わえない格別な味です。「中江で一番美味しいのは、あとご飯」という評判も立つほど・・・(後略)」

  なるほど、「中江」名物の「あとご飯」を「ちんや」でも試そうという作戦でしたか。

「ちんや」では、ご飯は、自家製の牛佃煮とみそ椀と共に召し上がっていただくことにしているのですが、そう言えば、「ちんや」でも「あとご飯」を試みるお客様がたまにおいでです。「中江」さんの影響でしょう。

 私としては、ずっとすき焼きを食べ続けた後は、何か食い味の違うものの方がよかろう、と思って、ご飯は上記の方式にしていますが、お客様が、「同じ食い味でも良いから是非」というのなら、それはそれで、その方の味覚ですので、まあ、やっていただけば結構、と思っています。

  そう話すと、今度は「駒形どぜう」君が、「ウチにも、そういうお客様がたまにおいでですね。でも、ウチの鍋は、「ちんや」さんより、ずっと小さいから焦げ付きやすくて往生するんです。今日のNさんみたいに、そろそろ鍋に入れて、丁寧に溶いてくれれば良いんですけど、タマゴを勢いよくドバっと入れて、噴きこぼす方がいらして、あれは困りますね。」

  その程度のこと気にするんなんて、天下の名店が、ナニ小さいこと言ってんの? とお思いの方には、私よりキョーレツなダメ出しをさせていただきます。どぜう屋さんは、永年使い続けてきた、鍋をそれはそれは大事にしています。「蒸気機関車の動態保存」とか聞きますが、鍋屋の鍋も、言ってみれば、「動態保存」のようなものです。丁寧に洗って、焦げや汚れをとり除き、錆びないように処置します。この時焦げが完全にとれていないマズいのです。

  皆さま、どぜう屋さんで「あとご飯」をする時は、何卒、鍋にご高配を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。

  「あとご飯」の正しい作り方は、こちらです。「中江」の女将さん(=N社長令夫人)が肖像権フリーの顔出しで教えてくれます。皆さん、このページを印出してから、どぜう屋へ向かいましょう(?)

  ちなみに私は、どぜう屋で鍋が終わった後、残った割り下でネギを煮て、それをご飯に載せて食べるのが好きです。ただし、代金フリーのネギを利用するわけなので、分量は遠慮して・・・注文します。

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

南部ってどのあたりですか?

 このブログの4/7の号で、「ちんや」には「お客様に聞かれて困った質問」収集委員という委員がいると書きましたが、その委員の連中が収集した「困った質問」が提出されてきました。

 「ちんや」さんの、すき焼きの鍋は、どこで買えるんですか?

 こういう御質問は結構多いようです。で、答えですが、ザンネンながら、買える店はありません。「ちんや」向けの特別仕様の鍋ですので、よそにはないのです。現在使っているのは、昭和50年に現在の店舗を建てた時に、岩手県の、南部鉄器のメーカーさんに発注したものがほとんどで、それ以降は新規発注せずに、その当時のものを大切に使っています。

 と教えたら、収集委員は「?」という様子。「岩手県の南部ってどのあたりですか?」

 うーん、そうか、「南部」を教える必要があったか。南部というのは、南の部分じゃないんだなあ。

 収集委員は皆、最近入社したメンバーなのです。ゆとり教育では、南部氏が岩手県を永いこと治めてきたことを教えてないのかしら? 困るなあ。伝統工芸の存続にもさし障りますよね・・・

 ところで、ひょっとして、気づいた人もおいでかもしれませんが、この「困った質問」はブログのネタの宝庫なのです。

「やっぱりそうか、住吉、情報の社内共有化とか言っちゃって、実はブログのネタ集めしてたのか!」

 ひひひひ。

 全国のブロガーの皆さん、この方法をマネっ子する時は、ウチに挨拶しに来てくださいね。ついでに、すき焼きも食べてくれると嬉しいなあ。

  本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

「すき焼きのタレ」

 先日、こんな電話がかかってきました。「取材の電話なんですけど、すき焼きのタレについてお話しをうかがいたいと思いまして・・・」

 ? すき焼きの、タ・レ?

  ここでいきなり、受け売りいたしますが、全国調理士養成施設協会が編集した「改訂 調理用語辞典」によりますと、垂れ(タレ)とは、

「主に醤油や味噌に味醂、砂糖などを合わせ、煮詰めてやや濃度をつけたものだが、用途によりいろいろな種類がある。かば焼きや照り焼きなどのように材料につけて焼いたり、鍋料理や鉄板焼などに添えたりする(後略)」です。

  そうです。「鍋料理に添えたりする」するのが垂れでして、しゃぶしゃぶの垂れを垂れとよぶのは、正解ですが、すき焼きの鍋の中に入っている液体は、垂れではないのです。少なくとも、「ちんや」では。

  では、その液体を何と呼ぶか、ですが、「割下」と言います。 

 わ・り・し・た です!

 ここでまた、受け売りいたしますが、割下とは、

「割り下地のこと。鍋料理に用いる味を調えた煮汁のこと。だしに醤油、みりん、その他の調味料を混ぜ合わせて煮立てた汁。(後略)」=つまり、あの鍋の中の液体のことです。

  ちなみに、私は毎朝出社すると、割下に迎えられます。私・住吉史彦は、(一応、)すき焼き屋の主なので、割下の味を見るのが日課なのです。朝一で、その日に使う割下が、口径5cmほどの小さな透明の猪口に入れられて、私の帳場の前に置かれていますので、それをペロペロとなめつつ、メールやブログのチェックをします。実は今現在も、そういう状況です。

  ところが、です。「焼肉のタレ」で有名な、大手食品メーカーのEバラ社さんが、「すき焼きのタレ」という製品(瓶詰め)を売り出したので、「ちんや」でもお客様が「お姐さん、すき焼きのタレちょうだい!」などと嘆かわしいことをおっしゃるようになってしまいました。

  そこで、「ちんや」にご来店の際、「住吉さんのブログを読んで習ったんだけど、すき焼きの鍋の中に入っている液体は、垂れでなくて、割下なんだよね!」と言った方に特典をつけます。

 <特典=「ちんや」の仲居が、冷ややかな表情で「常識ですね」とお返しすること。>

 ひひひひ。あ、しまった! また、ひひひひを使ってしまった。他のキャラも育てて使わねば!

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

Filed under: すき焼きフル・トーク,ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 9:41 AM  Comments (0)

似て、非なる物ーサイコロステーキ

 4/8の産経新聞が以下のように配信しました。「ペッパーランチ、事業継続に疑義。増資不調で有報に追加記載」=(前略)ステーキチェーン「ペッパーランチ」で昨年8月に相次いで食中毒が発生し売り上げが大幅に減少。フランチャイズチェーン店に営業補償金を支払った結果、今後の資金繰りに懸念があり・・・(後略)

  この食中毒は、「成型肉」の「サイコロステーキ」(あえて「」付き)による食中毒事件でした。「成型肉」は肉の世界では、わりとよく知られた、フェイク的な商品です。これは挽肉を結着剤で固め、四角くしたものです。そういうふうに作ったものだ、ということをハッキリ表示した上で売るのなら、まあ、OKですが、それを「サイコロステーキ」と称して売るのは、どうなんだろう? と私は言いたいところです。「サイコロ」という言葉や「ステーキ」という言葉の定義が微妙なことを利用しているわけです。

 「ペッパーランチ」さんは、その「サイコロステーキ」を、なんと、客が自分で加熱する方法で提供しました。「ステーキ」ならレアという食べ方が可能ですから、「サイコロステーキ」という名前の肉を、レアで食べようとする客が出てきても当然です。店の人間が焼くのなら、その「サイコロステーキ」が成型肉であることを知っていますから、レアはやめておくでしょうが、客は良くわかっていませんでした。それで、「成型肉」のレアを決行した客が出てしまったわけです。

  普通のステーキ肉なら、表面が細菌に汚染されていても、内部までは菌が入り込んでいません。だから、表面を加熱すればその菌を殺菌できるわけで、それでレアでも食べられるのですが、「ペッパーランチ」さんの「サイコロステーキ」は上記のように、元は挽肉、つまりは練り物ですから、練る最中に、中心部に菌がもぐり込んでしまったら、レアでは完全に殺菌できません。そういう次第で食中毒(あた)ったと、所轄保健所も断定した模様です。

  宝飾品の方面では、フェイク商品というものがあって、本物でないことをハッキリ表示して売られています。ところが、食べ物の方面の、フェイク的商品は、ハッキリ表示されていないことがよくあります。

  私も「成型肉」は食べたことがありますが、上手に結着させて、肉のごとき食感を創り出しています。安さを実現しているわけですから、見ようによっては、値下げ努力にも見えます。しかし、「成型肉」であることをキッチリ表示せず、表示をあいまいにして売るなら、それはフェイクです、私的には。

 この際、申し上げます。

フェイクと値下げ努力は、似ていて、非なる物です。

  皆さまあ、お気をつけあそばせえ。痛いらしいですのよ、0-157は。(食中毒になられた、被害者の方に配慮して、今日は「ひひひひ」をさせて封印いただきました。)

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

Filed under: すき焼きフル・トーク,ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 10:01 AM  Comments (0)

人出と人手

 先日、業界のパーテイーで同席した、浅草の料理屋のY社長が、「最近浅草の人出の落差が極端ですよね、多い日と少ない日で。商売やりにくいですよね。」とボヤいていました。

 この「商売やりにくい」について解説しますと、料理屋の仕事のほとんどは、人間がやる仕事ですから、人出が多い日には、大勢の人手を(しかも猫の手でなくてチャンと仕事をしてくれる人手を)揃えておかないといけません。ところが、人出がとても少ない日も多いわけですから、人出が多い日にあわせて人手を雇っていると、少ない日に余ってしまうのです。これは経営的に当然マズい事態です。

 この不景気ですから、人手を余らせない方向で、塩梅していくと、人出が極端に多い日には、手不足でパンクしてしまいかねず、料理やサービスの品質が心配になってしまいます。この状態が「やりにくい」の本質です。品質について、真面目な人ほど「やりにくい」と感じると思います。

  4/3(土)のように、天気が良くて暖かくて、桜が満開で、東京スカイツリーが東京タワーを超えた直後で、なおかつ「きもの園遊会」もやっていると、浅草にもの凄い人出があります。でも、それは、「天気が良くて暖かくて」というのが大前提ですから、この文を書いている、4/5のように、月曜日で、雨が降って寒いと、とたんに花見の人出はなくなります。わが店の連中にとっては絶好のお昼寝タイムとなります。困ったものです。

  つまり、平日で天気が悪くて、イベントもない日であってもそれなりに、店にお客様があるようにしないといけないのであって、私も長いこと「ちんや」がそうなることを願いつつ仕事をしてきたのですが、非力なため、さほど上手くできていないのが現実です。Yさんに「こうすれば、上手くいくよ!」とアドバイスできないことをイカンに思いました。

  だから、今後はこのブログで紹介する内容も、「雨が降っても楽しめる浅草」や、「平日の夜にも浅草に、こんなに面白いことがある」ということを書いていかないといけませんね。最近、満開の桜とかスカイツリーのことばかり書いてきたのを、チョッと反省しています。両方とも、天気が良くて暖かくないと楽しめないレジャーですし、そういうネタはマスコミがさんざん報道していますから、ブログは違った視点が必要ですよね。

  桜にしても、満開の時ばかりが素晴らしいわけではありません。私などは、毎年4月10日過ぎに、散る桜を見にいくのを楽しみにしています。桜はまだ終わりじゃ、ありませんよ。

  そういうことを書いていこうと思います。はだ寒い雨の降る、ヒマな月曜に思いました。

 「けっ、住吉、ブログ始めて一ヶ月もたってから、そんなこと言いはじめたのか。小さいヤツだと思ってたよ、最初から。」

  けけっ、悪うござんした。何しろ、こちとら名前が住吉プチ彦っていうくらいですからね。けけけっ!

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

住吉史彦のマニフェスト

 先週、2年前の中国製冷凍毒ギョーザ事件の犯人が逮捕されたそうです。そのことを伝える新聞記事には、中国人の犯人の給料のことも書いてありましたが、そこを読んで驚いた人も多いと思います。犯人の月給は13.000円だったそうです。月給です。日給じゃなくて。しかも、日に13時間働かされるそうです。

  そんなに安い給料で、搾取的に働かされている人間が作った食べ物を、私は食べたいと思いません。コーヒー店の一部には、「フェア・トレード」の原則で、労働者を搾取的に待遇している農園でとれたコーヒーは、味が良くても取り扱わない、というところがあります。今回問題になった、ギョーザ・メーカーについても、そういう発想で、点検してみる余地はなかったのでしょうか。「作業工程を監視カメラで監視しているので、安全だ」という論法でしたが、カメラで監視しないといけないほど、恨まれないようにするのが、先ではなかったのでしょうか? 

  私は、現代の政治というものに興味をほとんど持っていない人間ですが、ここでいきなり政治的発言をしてしまいたい、と思います。

  食べ物と医薬品、つまり人間の口に入るものを、完全な自由貿易の下に置くことには賛成できません。安すぎる食品の輸入は、問題があり過ぎます。

  不肖・住吉史彦は経済学を学んだことのある人間ですので、自由貿易が経済に富と成長をもたらすことを識っています。たしかに今回も、問題になったギョーザ・メーカーのおかげで、日本人は安いギョーザを食べることができていました。便利なことは便利です。

  しかし、そのようにして経済の全部が成長する必要があるのでしょうか?食べ物だけは、経済成長の埒外に置いておいても良いのでは、と私なんかは思います。それに、ここまでして、便利にギョーザを食べる必要が本当にありましょうか?

  「何言ってんの? 不景気なんだから、少しでも生活費を切り詰めたいんだよ! 安いギョーザは必要だよ!」とおっしゃる方には、次のように申し上げたいと思います。そういう御考えが、そのままデフレ圧力になって、日本の農家の方や、食品産業の方を苦しめ、やがてデフレがデフレをよんで、結局あなたがお勤めの会社にも、災いを及ぼしますよ! と。

  本日今ここに、『搾取的農場・搾取的工場で作られた、食べ物の自由貿易反対党』の立党を、勝手に宣言し、私が総裁兼幹事長兼政調会長に、勝手に就任します・・・

 なんちゃって、嘘ぴょーん! 実は、この話しはエイプリル・フールでした!

 「え? 住吉、今日は4/1じゃないぞ! バッチリ立党宣言したんだし、俺は共感したから、入党させろよ!」

  ありゃあ、日付間違えましたか。まずいなあ、それは。このブログの中でしか活動する気ありませんから、党員は一人で充分ですよ。街宣とかする予定もありませんし。うーん、ご入党の件はチョッと考えさせてください。

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目総裁の、住吉史彦でした。

Filed under: ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 10:26 AM  Comments (0)

ドギーバッグ

今日は、いたってカタい、食品衛生の話しです。

 3/27の読売新聞15面に『残した料理をドギーバッグに。「持ち帰りOK」の店が増加』という記事が載っていました。食中毒が心配で持ち帰りを断る店が多いですが、最近は環境保護の観点・Mottai-nai精神から、「持ち帰りOK」の店が増えているそうです。「残した料理 お持ち帰り頂けます」と書かれたステッカーを、NPO法人の「ドギーバッグ普及委員会」なる団体が、客の自己責任での持ち帰りに賛同する飲食店に配布しているとのこと。現在は約200の飲食店がステッカーをはっているそうです。

 たしか福岡市教育委員会が、小中学校の給食の食べ残しの持ち帰りを、衛生管理の難しさを理由に禁止していることについても、保護者や市議会から異論が出ている、と聞きました。

 食品衛生と食品の「持ち帰り」―これは二律背反の、とても難しい問題です。「ドギーバッグ普及委員会」さんは、「安全に持ち帰るための注意点」という基準を示していらして、たしかにその通りやれば、食中毒の危険は回避できそうですが、それを実際に店で実行するのが難しいのです。

 例えば、「ちんや」のお座敷で、お客様がお肉をたくさん注文しすぎて、余らせてしまった場合、生の状態でのお持ち帰りは、断固お断りしています。肉というのは、元々は生き物の牛で、それを解体したものですから、100%完全に清潔なものではあり得ません。そういう物であっても、低温で管理しているので、細菌が増殖しないので⇒食中毒を起こさないのです。その冷やしてあった肉を、座敷の中の暖かい空間に出し、長時間放置しますと、肉の上は、細菌軍の天下になります。それでも食べることができるのは、鍋の中で火にかけ、熱でその細菌を殺菌するからです。その現実をご認識ください。

 だから、その肉をお持ち帰りになりたい時は、まず鍋の中で火にかけます。殺菌します。でも、持ち帰りできるようにするのは、それだけで完璧ではありません。火を通した肉を、充分に冷ましてから容器に詰める必要があります。火にかけたものの、100%完全に殺菌できていなければ、温かいままドギーバッグに詰めた時に、またそこで菌が再度増殖してしまうのです。それで、冷ます必要がありまして、売られている弁当は皆、この「放冷」という工程を踏んでいます。

 「ドギーバッグ普及委員会」さんの「安全に持ち帰るための注意点」にも、この「放冷」のことは載っています。客席には、お客様が外から持ち込んだ、お荷物などがあって、これは衛生的でない(=細菌がついてるかもしれない)ものですから、念をいれて「放冷」もしたいところです。

 問題なのは、この「充分に冷ます」間、実際問題、お客様がごゆるりと待っていただけるか、ということです。世の中にはセッカチな人も多いです。食べ終わったら、とっとと帰りたいのでしょう。『なにモタモタしてるんだ!俺の自己責任でいいんだから、早く肉を渡してくれよ!」と怒り出す方もいます。基準を実際に店で実行するのが難しいのです。

 このように、充分な食品衛生の知識のない方についても、「自己責任原則」で大丈夫なんでしょうか?食品衛生の、最低限必要な知識を持つには、やはり、丸一日程度の講習を受ける必要がありますから、一般の方には容易でないでしょう。

 「ちんや」では、とうてい食べきれなそうな、肉のご注文があった場合、わざとその全部をお出しせずに、「残りは後から持ってきます」と言っておいて、やはり食べられない様子なら、残りの分を出すのをやめることがあります。持ち帰りのことで論争になると面倒だからです。 

 今回記事になったNPOさんはもちろん違うのですが、「客なのだから、注文したいだけ注文して良いだろう」「持ち帰りたいだけ持ち帰って良いだろう」という「自己責任」なら、私は違和感があります。ですから、「ちんや」では、お客様に対しても、食品衛生の立場から、カタいことを言わせていただく場合もございます。悪しからず、ご了承下さい。

 それから、この話しの最後に何か、おかしいオチが付くことを期待されていた方にも、悪しからず。今度また、別の機会に笑わせてさしあげます。

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

*読売新聞の記事は、こちらで読めます。

Filed under: すき焼きフル・トーク,ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 11:29 AM  Comments (0)

クロマグロの寿司は食文化?

クロマグロの国際取引全面禁止案が大差で否決されたそうです。私は、マグロをジュゴンやパンダと同列に扱う考えは、「そもそも無理があるよなー」と思っていたので、否決そのものに違和感はありません。

 でも逆に「ちょっと違和感あるぞ」と思うのは、「マグロを食べることは日本の食文化だから、外からつべこべ言わせてはいかん!」という主張です。日本人は世界のマグロの8割を食べているそうですが、そのスゴく回数の多い、食の現場が全部「食文化」と言えるような風情なのか、と聞きたい気がします。何をもって「文化」と言うのか、ということは様々な御議論がありましょうが、私個人の感覚では、心を込めて提供されて⇒食されていないものを「文化」と言うのは違和感があります。

 浅草にも24時間やっている、チェーン展開の、寿司屋さんがあって、真夜中の2時でも3時でも寿司が食えます。そこで始発電車までの時間調整をしているような、酔っぱらいが寿司を食っているのを見かけますが、それは果たして「文化」でしょうか?意識朦朧とした酔っぱらい相手に、心なんぞ込めて寿司をにぎれましょうか?

 もちろん、それができる職人さんもいるでしょう。しかし仮ににぎる側が心を込めたとしても、食す側が心を込めて食わねば、やはり文化とは言いがたい、そう言いたい気持ちです。そうまでして、日本人は便利に寿司を食う必要があるのでしょうか?そして、それを「文化」と言い張って平気なのでしょうか?疑問です。

 ここまで読んで、おいおい住吉、今日はなんでまた、「食文化」の論陣なんて張ってるんだ?ウンザリしたぞ!という方もおいででしょうが、説明させて下さい。それはというのも、このブログ自体の副題に「スキヤキ文化を広めんと奮闘しています!」と入れてしまったからなのです。

 いろんな方から「すき焼きは、日本の食文化だよねえ」などと言っていただきますが、寿司同様に、心の入っていない仕事を「ちんや」がしてしまったら、すき焼きも「食文化」を自称してはいられない、と思います。

 自戒の気持ちを入れて、あえて、「スキヤキ文化」と入れました。そうでない仕事を見つけた節は、どうぞご叱責下さい。

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございます。浅草「ちんや」六代目、住吉史彦でした。

Filed under: ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 11:47 AM  Comments (0)

意地悪な案だなあ

 今日午後、通り会(正式には「浅草雷門通り商店街振興組合」)の理事会があったので、出席しました。

 地下鉄の駅の構内に、通りの電飾広告を出して集客しよう、という案が計画されていて、その件が今日の理事会にかかりました。通りの地図と個店の情報(電話番号、定休日、営業時間など)を大きく掲示しよう、という計画です。

 天麩羅屋「A」のW社長が万事手配してくださっていて、すぐにも実行できそうな準備状況なのですが、ひとつ問題がありまして、それは、通り会に入って下さらない店の扱いです。

  未加入店は、会費を払ってくださらないわけなので、会費を払っている店と同等というわけにいきません。理事長とWさんの案では、地図上に店名が載るものの、個店の詳しい情報は載せないようにする、という案でした。

そこで私が、会費未納店は店名を載せず、業態だけを載せる案、つまり「牛丼店」とか、「美容院」とか、「ブランドもの安売り店」などと表記する案を出しましたが、「住吉君らしい、意地悪な案だなあ」「喧嘩売ってると思われちゃうよ」ということで否決されました。

皆さん、大人だなあ。それにつけても、街づくりは難しい・・・

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

*浅草の通り一覧は、こちらのサイトで確認できます。

Filed under: ぼやき部屋,浅草インサイダー情報 — F.Sumiyoshi 5:06 PM  Comments (0)

人間ドッグ

今日は、火曜日の定休日を使って、人間ドッグを受けました。結婚する前の年から毎年、ヨメと二人で受けていますので、もはや年中行事と化しています。

 採尿⇒採血⇒バリウム⇒発泡剤⇒下剤と毎年のことながら、気の重い行軍です。

 で、結果ですが、ザンネンながら?どこも、悪いところがありません。太く短く生きたいんですけどねえ・・・

 浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

Filed under: ぼやき部屋 — F.Sumiyoshi 2:01 PM  Comments (0)