ドギーバッグ
今日は、いたってカタい、食品衛生の話しです。
3/27の読売新聞15面に『残した料理をドギーバッグに。「持ち帰りOK」の店が増加』という記事が載っていました。食中毒が心配で持ち帰りを断る店が多いですが、最近は環境保護の観点・Mottai-nai精神から、「持ち帰りOK」の店が増えているそうです。「残した料理 お持ち帰り頂けます」と書かれたステッカーを、NPO法人の「ドギーバッグ普及委員会」なる団体が、客の自己責任での持ち帰りに賛同する飲食店に配布しているとのこと。現在は約200の飲食店がステッカーをはっているそうです。
たしか福岡市教育委員会が、小中学校の給食の食べ残しの持ち帰りを、衛生管理の難しさを理由に禁止していることについても、保護者や市議会から異論が出ている、と聞きました。
食品衛生と食品の「持ち帰り」―これは二律背反の、とても難しい問題です。「ドギーバッグ普及委員会」さんは、「安全に持ち帰るための注意点」という基準を示していらして、たしかにその通りやれば、食中毒の危険は回避できそうですが、それを実際に店で実行するのが難しいのです。
例えば、「ちんや」のお座敷で、お客様がお肉をたくさん注文しすぎて、余らせてしまった場合、生の状態でのお持ち帰りは、断固お断りしています。肉というのは、元々は生き物の牛で、それを解体したものですから、100%完全に清潔なものではあり得ません。そういう物であっても、低温で管理しているので、細菌が増殖しないので⇒食中毒を起こさないのです。その冷やしてあった肉を、座敷の中の暖かい空間に出し、長時間放置しますと、肉の上は、細菌軍の天下になります。それでも食べることができるのは、鍋の中で火にかけ、熱でその細菌を殺菌するからです。その現実をご認識ください。
だから、その肉をお持ち帰りになりたい時は、まず鍋の中で火にかけます。殺菌します。でも、持ち帰りできるようにするのは、それだけで完璧ではありません。火を通した肉を、充分に冷ましてから容器に詰める必要があります。火にかけたものの、100%完全に殺菌できていなければ、温かいままドギーバッグに詰めた時に、またそこで菌が再度増殖してしまうのです。それで、冷ます必要がありまして、売られている弁当は皆、この「放冷」という工程を踏んでいます。
「ドギーバッグ普及委員会」さんの「安全に持ち帰るための注意点」にも、この「放冷」のことは載っています。客席には、お客様が外から持ち込んだ、お荷物などがあって、これは衛生的でない(=細菌がついてるかもしれない)ものですから、念をいれて「放冷」もしたいところです。
問題なのは、この「充分に冷ます」間、実際問題、お客様がごゆるりと待っていただけるか、ということです。世の中にはセッカチな人も多いです。食べ終わったら、とっとと帰りたいのでしょう。『なにモタモタしてるんだ!俺の自己責任でいいんだから、早く肉を渡してくれよ!」と怒り出す方もいます。基準を実際に店で実行するのが難しいのです。
このように、充分な食品衛生の知識のない方についても、「自己責任原則」で大丈夫なんでしょうか?食品衛生の、最低限必要な知識を持つには、やはり、丸一日程度の講習を受ける必要がありますから、一般の方には容易でないでしょう。
「ちんや」では、とうてい食べきれなそうな、肉のご注文があった場合、わざとその全部をお出しせずに、「残りは後から持ってきます」と言っておいて、やはり食べられない様子なら、残りの分を出すのをやめることがあります。持ち帰りのことで論争になると面倒だからです。
今回記事になったNPOさんはもちろん違うのですが、「客なのだから、注文したいだけ注文して良いだろう」「持ち帰りたいだけ持ち帰って良いだろう」という「自己責任」なら、私は違和感があります。ですから、「ちんや」では、お客様に対しても、食品衛生の立場から、カタいことを言わせていただく場合もございます。悪しからず、ご了承下さい。
それから、この話しの最後に何か、おかしいオチが付くことを期待されていた方にも、悪しからず。今度また、別の機会に笑わせてさしあげます。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。
*読売新聞の記事は、こちらで読めます。
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