職場訪問

とある中学校の生徒さんが「職場訪問」に見えました。

肉を切る作業を体験していただき、自分の切った肉をすき焼きにして、食べてもらいました。

今回「へえ!」と思ったのは、事前に「質問用紙」が送られてきたことです。さて、その「質問用紙」には7つの質問が書いてありましたが、

 1この店のオススメの肉はなんですか。また一番おいしい部位はどこですか?

A「適サシ肉」をお勧めしています。くわしくは別の資料を読んで下さい。それが美味しくて、また同時に胃にモタレないからです。この店は年配のお客様がお孫さんと一緒に見えることが多いので、胃モタレしないことが、とても大切です。まず、どういうお客様が見えるかを考えて、それから肉を仕入れるのです。

なお、この「適サシ肉」という言葉は、この店が独自に考えて、他の店には使わせない言葉で、そういう言葉を「商標」(しょうひょう)と言います。

A高級と言われる部位はフィレ、サーロイン、リブロースです。でも「一番おいしい」を決めるのは難しいと思います。それぞれの部位に、それぞれ適した食べ方があるからです。

例えばフィレは一番高級で値段が高いですが、すき焼きにはフィレよりリブロースが合うと言われています。味の世界はスポーツと違い「一番」が決まらないのが面白いところです。

それから「一番おいしい部位はどこですか?」という質問は、あまり良い質問ではありませんね。美味しさは部位で決まるのではないからです。部位以前に、その牛さんが美味しくなるように育てられたかどうかが一番問題なんです。美味しくなるように育てられていなければ、フィレだけ取り出して食べても美味しくありませんから、気をつけて下さい。

 2この店の歴史をおしえて下さい。

3ちんやという名の由来はなんですか。

A江戸時代、この店は諸大名や豪商に狆(ちん)などのペットを納め、獣医も兼ねていたところから「狆屋」と呼ばれておりました。明治13年(1880年)に商売を変えて、料理屋になりました。明治維新で世の中が変わり、狆が不人気になって、あまり売れなくなったからです。料理屋を選んでのは、明治維新で人の往来が自由になり、浅草寺にお参りに来る人が増えるだろうと予想したからです。世の中のことを予想して、商売を新たに始める精神を「ベンチャー精神」と言います。その後明治36年にすき焼の専門店になりました。

 

4大切なことはなんですか?

Aお客様に信用していただくことです。信用していただければ、繰り返し食べに来てもらえるからです。それを「リピート来店」と言います。信用していただくには、いつ来ても、必ず同じ味で美味しいことが絶対に必要です。

大勢のお客様が、その店の味を覚えて、そこに行けば必ず美味しいと知っている状態になることを、その店の「ブランドが確立した」と言います。「ちんや」は今年「適サシ肉」だけを売ると宣言しましたが、宣言した目的はブランドを確立させるためです。これによって「適サシ肉」を食べたければ、「ちんや」に行けば良いと大勢の方がハッキリ分かるようになりました。

 

5仕事をやっていて、どんな時が一番うれしいと感じますか?

A親子孫と、お客様が何世代にもわたって、「ちんや」を利用して下さることです。五代にわたって見えている実例がありまして、『すき焼き思い出ストーリーの本』という本に、そのご家族の話しが載っています。その本は、お客様に、すき焼きにまつわる思い出を投稿して下さい!と呼びかけて集めた文集です。

お孫さんは、最初お爺さんに連れられて「ちんや」に来て、味を覚えます。そして自分が学校を卒業して、就職したら、今度は自分でお金を払って来てくれるようになります。そういうお客様がいる店のことを「老舗」(しにせ)と言います。

おじさん(私)は店主としては六代目ですが、自分が六代目であることより、五代目のお客様がいることの方が嬉しいです。

 

 6食べられなくなった肉はどうするんですか

A食べられなくなるまで放置することは、ほとんどありません。すき焼きに出来なくなった場合でも、ハンバーグにしたり、佃煮にしたりします。社員で食べることもあります。ここの社員は食べるのも勉強なのです。

 

7仕事をやっていて有名人が来ることはありますか。

Aはい、あります。でも、いつ誰が来たよ!と他の人に話すことは絶対にできません。それを「守秘義務」(しゅひぎむ)と言います。皆さんも、自分が行った店の人が、きのうあなたが来たとうわさを流したらイヤですよね。それと同じことです。スマホで盗撮してネットにあげるのも絶対にダメです。その店の信用が失われるからで、そういうことを規則で禁止している店が多いです。その規則に違反してしまった人は「クビ」(=退職させられること)にされてもしかたがありません。皆さんも就職したら気をつけないといけません。学生の場合、退学にはならないかもしれませんが、先生から叱られますし、人から信用されなくなりますから、今から気をつけましょう。

テレビで放送される場合は、人に話しても大丈夫です。でも放送されるより前に話してしまうと番組が面白くなくなってしまうので、テレビ局の人に叱られます。それを「ネタバレ」(「ネタ(種)がバレる」を縮めた言葉)と言います。(終わり)

追伸1

雑誌「dancyu」2017年8月号の「美味東京」特集に、「ちんや亭」の「適サシ肉」の「ちょい食べ」が採り上げられました。ありがとうございます。

<「適サシ肉宣言」関連の、これまでのメデイア掲載は以下↓の通りでした>

「文春オンライン」2月8日より掲載中

日本テレビ「スッキリ!!」2月9日放送済み

TBSテレビ「白熱ライブビビット」2月10日放送済み

テレビ朝日「スーパーJチャンネル」2月10日16時50分放送済み

東京新聞(特報面)2月12日掲載済み

TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」2月12日10時放送済み

HBC 北海道放送「今日ドキッ!」2月15日15時44分放送済み

「肉メディア.com」(インターネット)2月15日掲載済み、文:松浦達也様

TBSラジオ「森本毅郎スタンバイ!」2月16日7時35分放送済み

産経新聞(生活面)2月21日掲載済み

日刊ゲンダイ2月24日掲載済み

「おとなの週末」(雑誌、講談社)2017年3月号掲載済み

FMえどがわ(84.3MHz)3月2日放送済み

読売テレビ「そこまで言って委員会」3月12日放送済み

テレビ朝日「週刊ニュースリーダー」3月25日朝6時放送済み

TBSテレビ「ぴったんこカン☆カン」3月31日19時56分放送済み

「ワインホワット!?」(ワイン専門誌)2017年5月号掲載済み

NHKテレビ「所さん!大変ですよ」4月13日20時15分放送

ブーストマガジン(インターネット)5月12日(前編)、19日(後編)掲載中

テレビ東京「和風総本家」5月18日放送済み

「婦人画報」(雑誌)2017年7月号「世界が恋するWASHOKU」特集

「健康保険」(健康保険組合連合会発行)2017年6月号、文:山本謙治様

「dancyu」2017年8月号、「美味東京」特集

追伸2

拙著は好評(?)販売中です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

題名:『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』

浅草の九人の旦那衆と私が、九軒のバーで語り合った対談集でして、「浅草ならではの商人論」を目指しています。

東京23区の、全ての区立図書館に収蔵されています。

四六判240頁

価格:本体1600円+税

978-4-7949-6920-0 C0095

2016年2月25日発売

株式会社晶文社 刊行

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.688日連続更新を達成しました。

 

Filed under: 今日のお客様 — F.Sumiyoshi 12:00 AM
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