100年経営アカデミー⑩
100年経営研究機構さん、ハリウッド大学院大学さんが主催する、
「100年経営アカデミー」で、ゲスト講師として講演をさせていただきました。
「100年経営アカデミー」は“100年経営を科学する”をテーマに、長寿企業から長く続く経営の秘訣を体系的に学び、経営の中で実践していくことを目的とした、日本で初の講座です。
6/11から講演全文を公開しています。長いので16回に分けて少しずつUPしております。
<「100年経営アカデミー」住吉史彦講演(2017.6.10)>
サシを短期肥育で入れることは、サシ(脂肪)の質の劣化を招きます。質の劣化とは「霜降り」を食べるとモタレて気持ち悪くなってしまうことです。
実はサシについては、量が増えたこと以上に質が劣化したことが問題なのですが、それを説明したりメカニズムを解明したりするには、小難しい食品化学を持ち出さないといけないので、詳しいことは、「後で時間があったら」ということに致します。とにかく、お客様が「霜降り離れ」を起すほどに現代日本の牛肉の質は劣化しました。
若い方なら、なんとか、そういう脂も消化できるかもしれません。しかし手前どもは、お客様に、ご家族づれで、リピートしていただく、それも10年に30回、20年に60回、30年に90回といったペースでリピートをしていただく、ということを目指しておりますから、当然お爺様、お婆様が見えます。肉がモタレては絶対にダメです。
で、「適サシ肉」宣言だったのですが、その頃同時にここで観た通り肉の業界は、危機に対処する方法が適切でなかったために、さらなる危機を自ら招き寄せてしまいました。そういう失敗事例を研究することは、とても大事で、成功した人の話しなんかより余程大事だよねと私は思っています。
そして、ついでに申しますと、「伝統と革新」の「革新」って、店主が主体的に決められることではないような気がしています。それは客あるいは世間が決めるのだと思います。世間が、過剰な霜降りはもうたくさんだ!と考えているのなら、店主は、その頭の中を忖度して行動する他選択肢はないと思います。
2月8日の「適サシ」ブレーク以降、私は道端で大勢の人に声をかけられました。「適サシ宣言、良かったです! 私も以前から、絶対そうだと思ってたんです!」「俺も同じこと思ってたんだけど、自分の年のせいだと思ってたんだよね。でも、違ったんだね。肉が原因だって分かって良かったよ!」皆さん、目を輝かせてそう言いました。
そう、皆さん、内心、今の霜降りは行き過ぎて美味しくないと思っていたのに、言えなくて黙っていたのです。自分が少数派ではなく、多数派だと分かったことが嬉しくて仕方なくて私に声をかけてきたのです。
逆に申しますと、自分が少数だと思っている間は口に出さなかったのですから、結局、その心の内は、店主が忖度する他ないわけです。日本的ですけどね。
さて、一気に「適サシ宣言」まで話してしまいまして、私が宣言に踏み切ったキッカケを話し忘れました。「霜降り」というビッグワードを廃止することに決めたものの、実行できかねていた私に決断を促したのは、自分が出した2冊の本でした。
1冊は先ほど申しました『すき焼き思い出ストーリーの本』です。様々な約70本のストーリーを全部読み終えた時、私は気づきました、牛の産地が出てこない。等級も出てこない。そうか、それらは売り手側の都合だったんだ!
また「思い出ストーリー」の段階で、接待需要を捨てていたので、より決断し易くなりました。それが一つ目のキッカケです。
もう1冊が、『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』(2016年㈱晶文社刊行)です。戦争で丸焼けになり、その後1970年代に「イケていない街」と言われて没落した浅草で、生き残って来た先輩方の人生に迫った本でしたが、これらの対談で分かったことは、被災したりピンチを経験した時に小手先の対処をせず、商いの本質に迫って行った人だけが生き残っている、ということでした。
どんな寿司が美味しいのか、どんなおでんが美味しいのか、どんな洋食が美味しいのか、料亭とは、どうあるべきか、商いの本質に迫って行った人だけが生き残っていたのです。私も決断をしなければいけない局面で、浅草の先輩方に習うことにしました。これが「適サシ」決断までの流れです。
次に、ここから浅草の先輩方の話しをしようと思います。
<今日の分は終わり。続きは明日の弊ブログにて>
追伸1
6/1発売の「婦人画報」7月号(創刊記念号)に載せていただきました。ありがとうございます。
今回の特集は、なんでも婦人画報社さんが「総力をあげた特集」だそうですが、題して、
「世界が恋するWASHOKU」。
旨味とか醗酵とかを採り上げた後、しんがりがWAGYUです。
追伸2
拙著は好評(?)販売中です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
題名:『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』
浅草の九人の旦那衆と私が、九軒のバーで語り合った対談集でして、「浅草ならではの商人論」を目指しています。
東京23区の、全ての区立図書館に収蔵されています。
四六判240頁
価格:本体1600円+税
978-4-7949-6920-0 C0095
2016年2月25日発売
株式会社晶文社 刊行
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.669日連続更新を達成しました。
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