「ちんや」のすき焼きの割り下についてのご取材がありました。誠にありがとうございました。
その時気づいたのですが、そう言えば、このブログで割り下についてあまり書いたことがなかったような気がします。で、今日は取材にお答えしたことをここに書いてみます。
さて「ちんや」の割り下の材料や工程は、実はごく普通でさほど変わったことはないと思います。
醤油、みりん、水、砂糖を沸騰するまで煮合わせます。(時間は、その日の温度・湿度により調整します)
この割下は業界他店より甘いです。しかし、「甘いけど、あまりクドくないね」と言っていただくことが多いです。
割り下単独で味わうと甘くて飲めないほどですが。
(他店の、飲める割り下は出汁が入っていることが多いですが、「ちんや」のは入っておらず、調味料だけです)
お客様は、この割り下の味を舌で記憶しておられますので、そう簡単には変えられません。
現在のお客様が味を覚えているだけでなく、その方のお子さん・お孫さんも、一緒に食べて、この味に慣れて行き、将来に渡り「ウチの家族が好きな味」になって行きます。
そういう次第で、割り下を変えられないので、割り下に合わせて肉(牛さん)を仕入れます。
(肉に割り下を合わせるわけではないです。肉が変わるたびに割り下を変えていたら忙し過ぎますからね笑)
「ちんや」の割り下に合わせて肉(牛さん)を選ぶ基準が、ちんやの仕入れの基準になっています。
それが以下です。
・黒毛和牛
・メス
・30ヵ月以上肥育
・重量480KG以下
・格付4等級(BMS6)
・サシが細かい
これにより良質の脂が付いた肉が得られます。それを充分熟成させて、旨味(アミノ酸)を濃くします。それで肉の脂・旨味と調味料のバランスがとれているのです。
こうして割り下自体はかなり甘いのですが、肉とバランスすることで、体感としては「甘いがさほどクドくない」という感覚になります。
この「バランス」こそが、すき焼きの「肝」です。そこを微調整するのがすき焼き屋の仕事の本質と思っています。
逆に、例えば「ちんや」の他店の割り下に残念な肉を合わせると、バランスを失って、単に甘辛いだけの食べ物に感じられます。割り下単独で「万能の調味料」になるわけではないのです。
なおまた、鰻屋さんが行っているような「つぎ足し」はしていません。
また割り下自体の熟成も行っていません。出来立ての割り下は「角」がありますから、それが落ち着くまで三日ほどは保存しますが、それ以上のことはしていません。
その三日間のことをテレビの人が、「それッテて「熟成させてるッテことで間違いないですよね?!」とおっしゃることが多いですが、肉の「熟成」とは、起きている現象としては違います。
元々甘いのに、これ以上割り下の個性が全面に出てくると、あまり良くないからですね。
以上割り下について、ご紹介まで。
追伸、10月26日の「あさくさ食たび」に出演させていただくことになりました。「あさくさ食たび」とは、浅草の料理人がオンライン講義で、全国の皆様に「浅草の食の道案内」をするというもの。視聴ご希望の方は、こちらです。
本日もご愛読賜り、誠に在り難うございました。
弊ブログは2010年3月1日に連載スタートし本日は3.874目の投稿でした。引き続きご愛読を。