オール群馬de上州牛すき焼きプラン

ツイッターで、また地方のすき焼きを見つけました。

「四万温泉柏屋旅館は群馬県の「すき焼き応援県宣言」を受け、オール群馬de上州牛すき焼きプランを発売」というツイートです。

ツイ主は、

四万温泉柏屋旅館 柏原益夫さん(@ShimaKashiwaya)という方でした。

詳しくお宿のサイトを拝見しますると、

「四万温泉柏屋旅館では、群馬県が上州牛や下仁田ネギ、コンニャクなど、すき焼きの具材になる良質な食材の宝庫であることに着目し、冬の限定プランとして、主要素材に群馬県産食材をほぼ100%使用した【オール群馬de上州牛すき焼きプラン】を2012年から実施しています。」

「3年目の今年は、群馬県が「すき焼き応援県」を宣言したことを受け、よりたくさんのお客さまに群馬の冬の味覚を味わってもらえるよう、集客を行います。」

群馬県が「すき焼き応援県」を宣言したことは、このブログの9/18号に書きましたが、もう追随する人が登場したんですね。

しかも、この県をプレスリリースなさっています。一介の旅館でもどんどんPRする姿勢には感心しますね。

頑張っていただきたいです。

なお食材は群馬県産で、

上州牛、下仁田ネギ、しらたき、豆腐(中之条町産)、醤油(中之条町産)、たまご(中之条町産)、きのこ、などだそうですが、

ここで「上州牛」というのは「上州和牛」とは異なりまして、和牛と他種の掛け合わせ(F1種)です、念のため。

 

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毎度のご愛読に感謝いたします。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

 

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すき焼きで法事

知人のお身内の方に御不幸があって、法事の会食が弊店でありました。

で、その知人から、親戚にすき焼きの話しをして欲しい、と言われて弱ってしまいました。

話すこと自体は嫌いではないんですけどね。

そもそもすき焼きはナマグサだし、昔は仏教の戒律で牛を食べなかったっていうのが、すき焼きの歴史ですからねえ。下手に話すと、そんな店で法事やって良いんですかねえ・・・っていう展開になってしまいます。弱りました。

部屋に行ってみますと、皆さん、黒服。新しい仏様ですからねえ、弱りました。

でも浅草で「すき焼きで法事」が普通のことであるのは事実です。

他の土地の料理屋の人に、このことを話しますと、

ええ?!すき焼きで法事するの?!

と言われますが普通のことですよ、浅草では。

鰻の場合もありますし、天麩羅の場合もありますし、洋食の場合だってあります。

たいてい故人が、その料理を好きだったからです。

今回のケースも実はそうでして、故人が弊店を利用して下さっていて、喜寿のお祝いもして下さる予定でしたが、体調がお悪いとかで中止となり、しばらくして訃報に接したという経緯でした。

浅草という土地は、お寺と繁華街が接して在るので、この辺りにお墓を持っている御家族は、お彼岸にお盆に年始にとお墓に通って来て下さいます。

そして墓参の後は、お孫さんにご褒美として何か食べさせようと、すき焼き屋・鰻屋・天麩羅屋へと向かうのです。

その営みが何世代にも渡って普通に繰り返されているので、

大変だ、法事だ!⇒食べ慣れないけれど精進だ!という展開にならないのです。

法事でも「いつもの店がいいよ!」なのです。

「いつもの」と言っても、毎週通うという頻度の「いつも」ではなく、年に2~3回という頻度の「いつも」なのですが、人の三世代=60年~90年というスパンを前提に考えているので、やはり「いつもの」なのです。

私達は在り難く、その流れの中で商いをさせていただきます・・・

・・・という話しをさせていただきましたが、ご要望の「すき焼きの話し」からはチトずれましたかねえ。

すみませんでした。

 

追伸、

明後日9/23は火曜日ですが祝日ですので臨時営業いたします。どうぞ、ご利用下さいませ。

 

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すき焼き応援県

報道によりますと、

「群馬県は農畜産物を通じて群馬の魅力をPRしようと、生産量が全国一のこんにゃくや、県産の牛肉などの食材を使う料理にちなんで「すき焼き応援県」になると宣言しました。」

「10日、群馬県庁で開かれた会見には、県のマスコットキャラクター「ぐんまちゃん」も駆けつけ、県の担当者が、品質の高さで知られる県産の牛肉「上州和牛」や、生産量が全国一のこんにゃく、それに独特の甘みがあるねぎといった群馬県産の農畜産物を紹介しました。」

「そして、こうした食材が使われる代表的な料理が「すき焼き」であることから、群馬県では「すき焼き応援県」になると宣言しました・・・

弊ブログの読者の皆さんは「応援県」って、何? とお思いですよね?当然の疑問です。

「すき焼き県」でなくて、「すき焼き応援県」と名乗るのには大人の事情がありまして、実は群馬県民自体があまりすき焼きを食べないのです。牛肉消費量の県別ランキングでは群馬は45位なのです。

ちなにみ上位は奈良⇒京都⇒大阪⇒和歌山⇒広島と関西が並んでいます。東日本では12位の山形が最高です。

群馬は自分達が食べておらず、しかし生産頭数は多い県=生産サイドなんです。そういう次第で「すき焼き県」とは名乗れず、まあ、要するに、この「宣言」は県産品セールスの新手の手法と申せましょう。

私はと申しますと、この話しに協力しつつ苦言もする、という立場です。なにしろ県を挙げて「すき焼き!」という話しは今までなかったですし、群馬県の現場や県庁に知人が多いですからね。応援しないといけません。

「苦言」をこの場を借りて申し上げれば、とにかく県民がまず食べましょう!ということです。

食べなきゃ、味なんて分かりませんよ。

報道には「品質の高さで知られる県産の牛肉「上州和牛」」とありますが、申し訳ないですが、日本のトップレベルではないです。東日本で消費量首位の山形の方が、よほど肉の味は良いです。

おそらく群馬は宣言してしまってからレベルを上げるお考えなのでしょう。それも、まあ、一手ではありますね。

頑張って下さい。

 

追伸、

9/23は火曜日ですが祝日ですので臨時営業いたします。どうぞ、ご利用下さいませ。

 

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ぎんさん姉妹

ぎんさん三姉妹が来て下さいました。

長寿で有名だった故・蟹江ぎんさんの娘さんがもう九十歳代に成っていて、しかも肉をたくさん召し上がっていることは、弊ブログの2012年11月10日号に書きましたが、当時面識があったというわけではなく、ネットで発見して書いたのでした。

その皆さんが来て下さいました。嬉しいですね。

今回はテレビ番組の収録で見えました。

TBSテレビの情報番組「いっぷく!」の「敬老の日」特集で、三姉妹の日常や東京観光に密着、また生出演もして長寿の秘訣を視聴者に教えるという趣向です。

収録中は本当においしそうに食べて下さって、在り難いことでした。

肉好きの人においしいと言っていただくのは嬉しいです。

それに、弊店は長寿食としてのすき焼きを目指していますから、そういう意味でもジャストです。在り難いことでした。

どうぞ、これからもお元気で!

 

追伸、

9/23は火曜日ですが祝日ですので臨時営業いたします。どうぞ、ご利用下さいませ。

 

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12月の予約

未だ暑さが残る9月初旬のある日、

店の電話が鳴り、

12月の予約をしたいんですけど・・・

とおっしゃるので、

おっ忘年会かな、いいね!と内心期待しましたら、

家内と二人ですけど・・・だって。

うーん。

お幸せに!

・・・この話しをFBにUPしましたら、夫婦仲がとてもよろしいWTIさんから対抗してコメントが。

俺も予約しようかな12月、家内と二人で。

うーん、どちらかと言うと、忘年会の方を、よろしくお願いします!

追伸、

弊店で収録されたテレビ番組が明日朝放送されます。

TBSテレビ「いっぷく!」

9/15朝8:00~9:55

ご出演は、ぎんさん3姉妹

私の不在中に収録したので、私は出ません。

 

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偽装ハラル

ハラル・フードを巡る状況がトホホなことになっています。

報道によりますと・・・

「この数年でハラルビジネスがカネになるとみて、ハラルマーク発行団体が乱立。かつて1ケタだった団体数が、今や80とも90ともいわれるほどに増大している。イスラムの教えに厳格な団体もあれば、明らかにブームを当て込んで設立されたとみられる団体など、まさに玉石混淆状態なのである。」

「ある認定団体は醤油でも「アルコール分が最終的に1%未満なら問題ない」と言い放つ。日本国内では厳格なハラルを担保するのは困難だし、おもてなしの心があるので大丈夫と、独自に提唱する基準を“ローカルハラル”と呼び、認定を与えているのだ。」

「旅行中ならば、ある程度戒律を逸脱しても、大丈夫だと聞いている。だから厳密なハラルフードでなくてもいいはず」と、決めつける飲食業者もいる。」

はああ?!

先日私の所へ取材に見えた某国営放送の方も、偽装ハラルあるいは「いい加減ハラル」についての懸念を言っておられました。

トホホです。

これまではムスリム世界に真剣な関心を抱いた方々だけが、採算度外視で食事の世話をなさっていたのですが、オリンピックを契機に、完全に流れが変わって来たのを感じます。

飲食業界は、これまでさんざん偽装をやって来たのに凝りませんねえ、イヤ懲りませんねえ。

普通の松阪牛とかの偽装と違って、ハラル偽装をやったら外交問題に成りかねないので危険なことですよ。

この状況の中で、自店がムスリムフレンドリーだと自称することは、かなり危険だと言わざるを得ません。

たとえ善意で、やれることだけでもやろう!おもてなししよう!と思っていても、

「偽装ハラルだ!」「このネタで儲けようとしている!」

と思われてしまう可能性があります。

体制がキチンと出来ていない中で迂闊に歓迎姿勢を打ち出すと、意図に反して批判されそうです。

結局、弊店は「ムスリムフレンドリー」は、キッパリ断念いたしました。

ハラル食の中でも、動物を食べる場合のルールは特に厄介なものがあります。

また、キチンとハラルにするには、やはりハラルの厨房と普通の厨房を別にした方が良いです。同じ所でやると食材が混ざってしまいますからね。それも、実際問題としてなかなか難しいです。

ですので、「ムスリムフレンドリー」は、キッパリ断念いたしましたので、ご報告申し上げます。

 

追伸、

弊店で収録されたTV番組が明日朝放送されます。

『Table of Dreams~夢の食卓~』

第178回 林家たい平 人生と落語と食卓

BSフジ 明日9/13の朝9:30~10:00です!ご覧ください!

 

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毎度のご愛読に感謝いたします。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

 

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卓話

東京浅草中央ロータリークラブさんの、例会の卓話に出講させていただきました。

メンバーは、地元の社長さん方ばかりですので、経営の視点も入った方が良いと思い、こんな↓内容にしてみました。

卓話「すき焼きを商う、食べ物を商う。」

ええ、私が住吉史彦でございます。本当は夜間例会の方が良かったんですけどね(笑い)、早速始めさせていただきたいと思います。

ではイキナリですが、食品科学の面から見た、すき焼きの話しをします。

え? そんなことより、なんで「すき焼き」っていうのかとか、誰がいつ頃始めたのか、とかそういう話しが聞きたいって思っておいでですか?あのですね、浅草のロータリークラブの皆さんは、そんなテレビ並みの知識じゃね、困るんですよ。

語源のこととかは、私には正確には分かりません。諸説在りまして、それを知ったかぶりして話すことも勿論出来ますが、それをやってもウイキぺデイアと同じになりますからね、そっちにご興味のある方はスマホで検索していただくことにしまして、早速嫌でもなんでも食品科学です。

それが本質なので、嫌でもなんでも食品科学なんです。

よろしいですか、最初に断言いたしますが、すき焼きとは動物性の旨味成分すなわちアミノ酸を甘辛く食べる料理です。肉を甘く食べる料理は世界的には珍しいですが、日本で独自に発展した次第です。

食品科学ですから、ここで味のことを考えていただきたいのですが、味は五味と申しまして5つ在ります。甘・塩・旨・酸・苦ですね。すき焼きはこの内の甘・塩・旨です。甘!塩!旨!が、どーんと来ると料理だいうことです。

しかもですね、そのどーんを客の目の前でやります。客席に熱源を置いて加熱しますが、この時鍋の中で起こる反応をアミノカルボニル反応またの名をメイラード反応と申します。あの、すき焼きの最初の、こおばしい香りが出る反応のこと、胃液がものすごく刺激される、あの反応のことですね。この反応を、どうしても私はお客様の目の前で起こしたい、それをやらないでどうする?というのが、私が弁当ビジネスをやらない理由なのですが、その話しは、あんまり突っ込むと人様の悪口になりますから、さて置きまして、甘!塩!旨!の話しに戻りたいと思います。

調味料から来る甘!塩!と肉の旨味がバランスするかどうか、それがすき焼きという料理の、ほぼ全てです。はい、それがほぼ全てです。ここがバランスしなくては、他のどんな努力も無意味な位に、すき焼きにとっては重要なことでして、とにかく肉の旨味が調味料に負けていると、そのすき焼きはただ単に甘辛いだけの食い物に成ってしまいます。

そうならないために、手前どもでは肉を熟成させる、ということをします。だいだい4~5週置きます。そうしますと、放っておくだけで、牛の体内にある酵素の働きで、肉のタンパク質が解体されて、アミノ酸になります。このアミノ酸こそが旨味の正体なんです。

タンパク質とかデンプンのように分子が大きい物質は旨みが無いですから、手間ヒマかけないと旨みが足りなくて美味しくありません。熟成させいてない肉というのは生の米みたいなものなんです。米だって炊飯しないと食べられませんよね。肉も熟成させることで旨みを増やす必要があるんでます。

ここで少し本題から逸れますが、ミスジとかザブトンとか部位が旨いわけではなく、牛が旨いのだ、ということを申し上げておきます。熟成ということを手前どもは牛一頭丸ごとで行います。旨い牛を選んで仕入れて、丸ごと熟成させるから、その牛が旨いのであって、そういうことをしていない牛からミスジとかザブトンとか、特定の部位だけ取り出しても、旨くはないんです。

ですので、おやめいただきたいことは、お姐ちゃんを焼肉屋へ連れて行って、そういう部位に関する知識をひけらかすことです。是非お止めいただきたいと存じます。

貴殿が自分の舌で本当に味わっている大人のグルマンではなく、情報を食っているだけのお子ちゃまだということが露呈するだけです。みっともないですね。ハッキリ申しまして、焼肉屋が単価を上げるのに貢献しているだけの人です。

焼肉屋に行って、もし、店員からそういう部位を勧められたら、そんなことより、この牛の個体識別番号を教えてくれ!と言いましょう。その番号を検索にかければ、肥育期間、熟成期間とか重要な情報が分かって味が推測できるんです。どうせひけらかすなら、そういうひけらかしにしていただいて、ミスジだのザブトンだの夢中になるのは、お止めいただきたいと存じます。

もう一つ余談ですが、この甘!塩!旨!という味の構成はジャンクフードと同じです。大手食品産業とか外食産業なんかは、皆さんをジャンキーにするために、どんな旨味をどんな調味料と組み合わせたら良いのか、盛んに研究していますが、基本構造はこれです。

時間があったら後でお話ししますが、甘!塩!旨!だけで満足してしまって酸・苦を摂らないと人体は変調を来します。最近テレビによく出ておいでの「味博士」こと鈴木隆一先生の、「ぜったい太らない食べ方」という本を読みますと、太るのはカロリーの出入りだけではなくて、味覚がおかしいからだと分かります。

外食の連中は、皆さんの健康なんて考えませんから、甘!塩!旨!だけで押して来ますが、是非嵌らないよう、お気をつけいただきたいと思います。

逆に、まともな料理屋は、そういうことはしませんで、五味を揃えることを考えます。古い鰻屋さんでは、鰻重にとても大きいお新香が付いていますね。これは酸味です。それがとても大きいんです。そして肝吸い、これは苦味です。このように、まともな料理屋は五味を揃えているんです。

すき焼き屋では、苦味として第二の主役である葱を食べさせます。すき焼きは香辛料としての葱を食べる料理でもあるんです。葱には硫化アリルという独特の物質がありまして、強い辛みがあります。ですので生の状態だと香辛料になりますが、加熱すると今度は甘くなって野菜として食べられます。

このように化けて葱はとても重宝ですので、まず「ちんや」では、まず葱を炒めて香りを出し、それから肉を入れ、割下を入れます。そうして苦味成分を摂るわけです。元々明治時代の肉は硬くて臭かったので、臭みを消すために葱を入れていたのですが、今日の観点から見ても理にかなっていると言うことが出来ます。いちいち理屈ですみません。

苦味という意味で、もう一つかわりダネのすき焼きをご紹介しますと、映画監督の小津安二郎が好きだったカレーすき焼きというのがあります。本当に玉丼にカレー粉を入れて食べるんですけど、これがなかなか旨いんです。甘!塩!旨!に苦味を加える、という意味で正しい食べ方だと思っています。

以上ここまでを纏めますと、まず①すき焼きとは動物性の旨味成分すなわちアミノ酸を甘辛く食べる料理です。そして②調味料から来る甘!塩!と肉の旨味がバランスするかどうか、それがすき焼きという料理の、ほぼ全てです。さらに申しますと、五味の補完のため、葱を香辛料として食べる、そういうものでもあると覚えておきましょう。

どうです、つまんなかったですか?

仕方ないんです。本質というのはたいてい、つまんないものです。

チリッチが錦織に勝った理由だって専門的に説明されると面白くはないですね。面白くないからテレビは、小さい頃からの夢だとか、恩師から生徒への想いの強さとか、ドラマ仕立てにしようとしますが、スポーツとしての本質も、味の本質も理屈っぽいもんだと私は思います。

さて、食べ物としてのすき焼きが終わりましたので、今度は商品としてのすき焼きを見てみましょう。すき焼きという商品の特徴は「生活不要品」、つまり在っても無くてもOKな商品だ、ということです。

そう申しますと、そんなことないですよ!すき焼きは立派な食文化ですよ!日本にすき焼きが無くては困ります、という反応がたいてい返ってきますが、それなら税金で補助して貰えるんでしょうかね。貰えませんね。歌舞伎すら松竹さんの民営ですから、すき焼きも民営で頑張る他ないですが、では、さきほど「そんなことないですよ!すき焼きは食文化ですよ!」と言っておいだった人は、果たして頻繁にすき焼きを食べて下さいますでしょうか?

そこが、心もとないんです。口で言うのはタダ。FBで「いいね!」するのもタダですが、我々が成り立つためには、時間を作り、予約を入れて、お金を貯めて、わざわざ浅草へ来て下さる人が大勢いないと困るわけです。

だいたい、今時はすき焼き以外にも美味い食べ物がいくらでもありますね。浅草以外にも遊びに行く所はあります。だから「なんか美味いものを食べたいな」という程度の意識のお客様がいるだけではダメなんです。歌舞伎見物が生きがいという方がいますが、同様にすき焼きが無ければ自分の人生真っ暗、という位に、メンタルに入れ込んで下さる方を獲得することが大事だと思います。

言い換えれば、その方の人生における必需品の中に、すき焼きを入れて貰わないといけない、と思っております。

はあ、すき焼きを必需品にって、そんなことが出来んの?っていうことですけど、出来なくもないんです、すき焼きには。出来る理由は、すき焼きのイメージです。

すき焼きは明治時代と結びついていて、健全な保守のイメージ・成長発展するイメージのものですから、そのイメージが、家族で食事をする時の感情と結びつきます。それがすき焼きの商売の原動力と思っております。

保守と申しましても「憲法96条を改正したい」とか、そういうことじゃあないんです、勿論。具体的には「正月は家族揃って浅草に初詣に行きたいね」「お参りの後は、すき焼きって我が家は毎年決まってるんだ」というような感覚を「保守的」と言ったわけです。

とにかく明治時代という時代は、牛に祟られても、この国を近代化するんだ!と考えた人々の時代ですから、成長を望むご家庭の感情と重なります。そこに弊店が上手く嵌っていくことが、他の何より大事と思っています。

私は、そう確信しまして、この10年ほど御家族づれ、それも二世代・三世代揃って「ちんや」へ来ていただくことに努力を集中して参りました。

まず弊社の経営理念は「心に残る思い出を!」という文言にしました。弊社は「すき焼きを売るのではく思い出を売る」という次第です。勿論パクりの理念ですけどね。

それから例えば、ですが、「記念日割引」という制度を作りまして、その日は割引率が倍になるんですが、お客様が自分の好きな日を登録できる、というのがミソです。

勿論自分の誕生日を登録してもOKなのですが、むしろ多いのは奥様の誕生日とか、結婚記念日とか、お孫さんの誕生日、あるいは先代の命日もあります。不祝儀でも良いんです。会社をやっている人は創業記念日を登録して社員さんを連れて見える、というようなパターンがあります。

この制度によりまして、手前どもはお客様の大切な日を知ることができるのです。傾向を見ておりますと、男性は結婚記念日を登録なさることが多いですが、女性は自分の誕生日です、ゼッタイに。恐ろしいことですね、はい。

え~何でしたっけ?そう、そう、「記念日割引」という制度の話しですが、この制度の良い点は、どういう理由でお客様が見えたのかハッキリすることです。そしておめでたい日であれば、おめでたい趣向でサプライズのサービスが出来ます。

実は『牛っとハート』というネーミングを商標登録しているのですが、なんの名前かと申しますと、ハート型に成型した牛脂の名前です。最初に鍋の底に敷く脂の名前です。結婚記念日に見えた御夫婦には、その脂を使って、すき焼きをお作りするんですが、結構喜んでいただけます。FBやツイッターにUPするのに最適な画像ですから、よくUPしていただいています。

もう一つ紹介しますと、「すき焼き思い出ストーリー」を投稿していただくサイトを開設しました。すき焼きにまつわる思い出を文章して投稿すると、食事券が貰えるというサイトです。既に40作ほどが投稿されていますが、来年は手前どもの創業135年に当たりますので、記念事業として「ストーリー百選」の本を作ろうと思っています。

すき焼き川柳包装紙というのも作っています。毎年すき焼き川柳コンクールというのをやっていますが、その入選作を「ちんや」の包装紙に刷り込むのです。毎年コンクールをやって包装紙を毎年作りかえています。お客様の想いのつまった包装紙を作り、「想いを包もう」というコピーでギフト商品の受注をしています。まあ、いろいろやっています。

そういった努力をしつこく続けて行けば、浅草のすき焼きを、その方の人生における必需品に入れていただくことも可能ではないか、イヤ絶対に可能だと確信しております。

実際の問題としては、お客様にリピートしていただく、それも10年に30回、20年に60回、30年に90回といったペースでリピートをしていただく、ということを目指しております。浅草はそれが可能なんです。

浅草と上野の間には寺町があってお墓がありますね。そこへ正月、春のお彼岸、お盆、秋のお彼岸と多くのご家族が通って来ます。春には墨堤の桜が咲きます。是非ともそういう機会にリピートをしていただきたいと思っています。

30年の間にはお爺さんが亡くなるかもしれません。しかしリピートは終わりません。30年の間に、お孫さんが成長して結婚して⇒そこにお子さんが生まれて、つまりかつてのお父さんがお爺さんの位置に上がりまして、新たな三世代が揃って「ちんや」へ来て下さいます。人間の個体の単位で考えれば、お爺さんは死んじゃったんですから二度とリピートできませんが、家族単位ではリピートできるんです。

生まれたお子さんにモノ心がついたら、今度のお爺さんつまりかつてのお父さんから聞かされるでしょう、オマエの曾爺さんの代から、ウチの家族はこの店に来てるんだぞ!って。それが弊店の理想形であります。

以上<商品としてのすき焼き>という段を纏めますと、すき焼きという商品は売り易くない、しかしすき焼きの思い出という商品は結構、売り易い、そう申し上げておきます。

だいだい、そうでなくては所謂「老舗」の存在意義なんてものはありません。そして、さらにもう少し申せば、家族を統一するのは味覚だと、私は思っています。そうしたご家族の平凡な幸せに貢献すること・平凡な思い出づくりのお手伝いをさせていただく、それが私と「ちんや」の役割・私と「ちんや」のミッションです。

私と「ちんや」のミッションが、そういうことですので、牛の選び方も「ご家族向け」にいうことになります。年配の方でも食べ易い肉でなければならないのです。旨いだけでなく、モタレないことが重要なのです。すき焼き屋という商いに於きましても、望ましい顧客像・望ましい使われ方と、提供する味が合致していることが大事だと考えます。

またまた食品科学に戻って恐縮ですが、最初に申しました通り、肉を長期熟成させますと、分子が小さくなるわけで、旨くなるだけでなくて消化もしやすくなってまいりますから、手前どもの望む客層にぴったりマッチしてまいります。消化力の衰えたお爺ちゃん、ええ、皆さんのことを批判しているわけではないですが(笑い)、や小さいお子さんが食べても「胃モタレ」しない肉、それを提供すること、それが手前どもの絶対の使命ですが、それが熟成によって可能になるのです。

「胃モタレ」にはもう一点、脂肪の融点も関係します。融け方が遅くてはモタレますから、脂肪の融点の低い牛を買い求めます。優れた血統の黒毛和牛の雌で、長期肥育されているものだけを求める理由は此処です。

誠にクールなことにですね、融ける脂を付ける牛の遺伝子型は既に特定されているんです。家畜改良技術研究所という施設が在るんですが、そこは科捜研みたいにDNA鑑定が出来る所で、ここに蓄積されている遺伝子情報こそが、cool wagyuの素です。

そういう優れた血統の、しかも雌だけを長期肥育することで、脂の融け方の良い肉が出来て、それなら、年配の方も召し上がれるのです。ウチのお爺ちゃんは「ちんや」さんの肉だけは食べるのよ!という声を頻繁に聞きますが、私は、余所の店もこの研究所の御指導を仰げば出来る話しだと思っています。

こうして、そのお爺ちゃんがお孫さんを連れて来て下されば、今は小さいお子さんでも、やがて日本の下町の味覚をしっかり覚えてくれることと信じます。日々そう期待しつつ仕事をしています。そして、そういう過程を経て、お客様の舌の上に形成される味覚こそが、手前どもの本当の資産だと考えています。

このように、「ちんや」の特徴は食品科学的に説明できますが、少し難解なので分かっていただけない場合があります。でも、それが理解できないからといって、お客さんってのは分かっちゃいない。所詮素人だ、と言ってはいけないと思います。

何故なら、三世代90年・五世代150年に渡って、食べ続けていただけば、科学的な理屈は分からなくても、結局舌で味を感じ分けていただけるからです。流行りに惑わされる方もおいでですが、必ずいずれ分かって下さると考えています。

今思い出しますのは、先月の木曽路事件です。この事件でとにかく残念だったのは、結局やっぱりブランドで客を吊ろうと考えていたことです。

木曽路さんの公式サイトを見ますると、ブランドのことはさほど強調されておらず、むしろ会社の経営理念とか、どういう店にしたいのかが分かるように出来ていて、なかなか良いプレゼンに思えます。これを信じて食べに行った人は多数いると思います。

しかし、せっかくの経営理念も、あの事件でいっぺんに「絵空事」扱いとなりました。結局やっぱり現実にはブランドで客を吊ろうと考えていたんです。

極め付けだったのはテレビ報道です。とあるキャスターさんがこの事件について、捨て鉢にも、日本人って、肉の違いは分かりませんからねえ!とコメントしたのです。ご自分が焼肉屋を経営なさっているのに!!!

「木曽路」さんも、キャスターさんも、結局、客の舌を信用していなかったのです。残念なことだなあと私は思いました。

一方私ですが、「ちんや」のお客様の舌を私は信じます。「ちんや」のお客様は、科学的な理屈は分からなくても、三世代90年・五世代150年に渡って、食べ続けていただく中で、味を分かって下さっているからです。短期間の内には流行り・廃りが在るかもしれません。ミスジ・ザブトンもそうです。しかし、結局味覚は長いスパンで見ると理にかなった所に落ち着きます。要するに「旨いものは旨い」という所に落ち着きます。

繰り返しになりますが、それが分かるお客様の味覚・お客様の舌こそが、手前どもの本当の資産です。本当の資産とは、金でも土地でも建物でもありませんね。関東大震災・太平洋戦争と二度の災難を乗り越えた浅草の人間は、そのことを自然に知っています。その心を継承し、気持ち良く商いが出来る、そのことを私は大変幸せなことだと思っています。

纏めますと、まず私達は、味の理屈を食品科学的に徹底的に明らかにしないといけません。それは面白くなく結構難解で、特にお客様にとっては難解だと思いますが、たとえそうであっても、30年ー90年ー150年というスパンで考えると必ず支持して下さる方がいらしゃる、そう信じることの出来る商いこそ、これ以上ない幸せな商いだと私は思っています。

そしてまた、そのことを今日皆様にお話しできましたことも、またこの上のない幸せと思っています。

本日このような光栄な機会をお与えくださいましたことにつきまして、会長様・幹事様・プログラム委員様、そしてまたご臨席の全ての皆に心より感謝申し上げまして、終わりにしたいと存じます。

本日は誠に誠にありがとうございました。

 

お聞きいただいた皆さん、ありがとうございました!

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.656日連続更新を達成しました。

毎度のご愛読に感謝いたします。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

 

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衛生講習会

衛生講習会を開催し、「ちんや」全社員に受講して貰いました。

講習の際には、なるべく事例を挙げていただくよう、講師の先生にお願いしています。

所謂「他山の石」ですね。聴く者の身が引き締まるからです。

さて今回の事例は・・・

今年7月の、静岡県でのO157事件です。

O157とは腸管出血性大腸菌のこと。大腸菌ですが、普通の大腸菌とは痛さ・怖さが違います。この事例でも508人が発症し、内5人が重症に成ってしまいました。

さて事件の舞台は、祭りの露店。

と聞いただけでイヤな感じがしますでしょう。

「購入したキュウリは、花火大会会場の社内で市販ミネラルウオーターで洗浄(?)した後、ポリバケツで常温(!)保管。その後、ポリバケツ中で、市販ミネラルウオーター、浅漬けの素、袋入り氷と一緒に1~2時間漬け込み。次に手作業で(!)割り箸をキュウリに差し、氷を敷き詰めた木製のザルの上に陳列し販売。」

水で洗浄、が実は曲者なんです。

水が綺麗かどうか、水を入れた容器が綺麗かどうか、良く確認しないで洗浄すると、菌が拡散してしまって、キュウリ全体に行き渡り、多数の患者を出してしまうんです。

洗っているように見えて汚していたんですね。

皆さんも、お気をつけを。

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.655日連続更新を達成しました。

毎度のご愛読に感謝いたします。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

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家畜改良技術研究所②

家畜改良事業団の家畜改良技術研究所を訪問しました。

そのことは弊ブログの9/6号に書きましたが、今回は続篇です。コ難しいですが、我慢して下さいね。

<脂肪の質について①>

融点がひたすら低ければ良い、というものではない。

脂が早く融け過ぎると食感は損なわれる可能性がある。

脂の「粘り」が在った方が食感は良いが、「粘り」つまり、融けた状態のものと融けていない状態のものが同時に在る状態にするには、融点が違う脂が混在している方が良い。

融ける脂、たとえばオレイン酸を極限まで増やすのは、いかがなものか。

<脂肪の質について②>

リノール酸やリノレン酸は良く融ける脂だが、味を損ねる可能性がある。

脂と糖が一緒に加熱された時に起こるメイラード反応=すき焼きが始まる時に出る、あの香りが出て来る反応を、リノール酸やリノレン酸は阻害し、良くない味の物質=アルデヒドを造ってしまう。

<牛の体の中の糖質~グリコーゲンについて>

牛の体内のグリコーゲンは量は多くはないが、加熱した時の香気に大いに関係しているらしい。

メスはオスよりグリコーゲンを多く持っている。(「ちんや」はメスのみ)

しかし産地から、と畜場へ運ぶ間に、牛に大きいストレスをかけると、このグリコーゲンが消費されてしまい、香気が出にくくなってしまう。

よって牛を運ぶドライバーは充分に注意しないといけない。

<熟成を進める酵素について>

肉を熟成させていると、牛の体内の酵素の働きによって、タンパク質がアミノ酸に分解され、旨みが増してくる。

その酵素は1種類ではなく、種類によって作用する速度が違う。

その種類の構成比率が牛の個体によって違う。

それで牛によって、はやめに3週位で旨みが増してくる個体と、しばらくしてから4-5週位かかる個体が在る。

その酵素の構成比率を決めるのは遺伝子型であるが、今のところ、その遺伝子型は特定されていない。

よって、今のところ、やはり牛は4週位熟成させた方が良い。

分っかるかなあ?

分っかんねえだろうなあ。

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後悔さきにたたず

久しぶりに、「すき焼き思い出ストーリー」のサイトに新着投稿がありました。

ニックネーム「親父」さんからの「後悔さきにたたず」という御投稿です。ご覧ください。

「子供の頃親は共働きで田舎で育ったためか肉はほんの少しで焼き豆腐や白滝をおいしく食べた思いがあります、みんなで食卓を囲むのは月に一二度のため全員揃ったときに初めてすき焼きがたべられました。」

「親が亡くなりもう23年目です先日法要を行ったばかりですが、親孝行らしきことを行わなかったため元気ならばすき焼きを食べさせてあげたい気持ちでいっぱいです。」

ご投稿ありがとうございました!

その他のストーリーは、こちらです。40作ほどストーリーがございます。

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