老舗の生き抜き方⑦

 福島県酒造組合さんが運営する学校「県清酒アカデミー」で1時間ほどの講演をすることになりました。

 震災以来応援している「福島の酒」ですし、聞き手は醸造を志している若い方ばかりだそうですので、一生懸命お話ししてきたいと思っています。

 その原稿が準備できましたので、弊ブログでも公開して行きたいと思います。長いので8回に分けてUPしています。

 御題は、老舗の生き抜き方というものをお話しせよ、ということしたので、そういう方面の話しをさせていただきます。

 本来自分で「老舗」と自称するのは僭越な話しではあるのですが、他に適当な日本語がありませんので、使うことにいたしまして、つまりは浅草の、すき焼き屋ですとか、天麩羅屋ですとか、鰻屋ですとか、蕎麦屋ですとか、そういう仕事を永年して来た店が、時代の変化や危機をどのように乗り切ってきたか、をお話ししてみたいと思います。

 本日は、その第7回です。おつきあいいただけましたら、幸いです。

<以下講話本文>

(店にとっての、本当の財産とは)

 さて、チトぼやきが入ってきてしまったので、話しをブランド・ロイヤリテイーの話しに戻します。

 そうした御客様との絆は、日頃どうしたら出来ていくのでしょう。さきほど御客様の人生の喜びや場合によっては悲しみに、その店が関わった時に、初めてつながりができます、と申しました。

 一つ事例をあげます。実は、私の知人に、とある酒蔵の若旦那さんがいまして、その彼が今年全国新酒鑑評会で金賞を獲りました。今まで普通酒中心の蔵だったのですが、山田錦の生産者の方との出会いがあって、今年ついに金賞に入りました。

 そのお祝いの会が先週手前どもの店でありました。そういう、人生に何度とない目出度い瞬間にお使い下さるわけですから、きっと彼は手前どもの店に対してロイヤリテイーを感じて下さり、今後も何かの機会で使っていただけると思うのですが、問題は、そういうお目出度さに、手前どものスタッフが、心底共感して、その場に臨んでくれるか、です。そこが鍵だと思っています。

 つまり問題は蔵元の息子でもない人が、金賞受賞の気持ちなんてわかるか、という点ですね、要するに。どうでしょう。結論から申しますと、分からないといけませんし、分かります。私の経営の方面の師匠の二条彪先生は「経営者は小説を読め」とおっしゃいます。人の気持ちをわかれるようになるためです。まさに、その通りでありまして、人間は想像ということができるのです。

 私個人は、この教えを少し変形して、芝居のようなものかな、と思っています。1958年に、さきほどご紹介した淡島堂が役割を終え、浅草寺本堂落慶を迎えた日の、浅草の人の喜びを、私は想像することが出来ます。だから弊店のスタッフも、俳優さんのように、自分が金賞を獲った場面を想像することが出来るはずです。是非そうして欲しい、と思っています。

 話しは多少逸れますが、ちょっと思い出していただきたいのですが、地震の後に、家族の絆・友人の絆・地域社会の絆というものが語られることが多いと思いますが、店と客の絆は、ほとんど語られませんね。皆さんも御商売の方ですが、残念じゃありませんか?

 だいたい「地域社会の絆」とか申しますが、その主役は、街の酒屋さんや、米屋さん、肉屋さんや、八百屋さん、魚屋さん、それから味噌屋さん、豆腐屋さんですよね。商売をする中で、住民の顔と名前を覚え、性格や家庭状況を覚えている人が地域の主役です。

 でも、商売している=営利企業=儲けているという、枠組みの中に居るので、絆話しには成りにくいんだと思います。

 これは実に残念な話しでして、実際問題、〇〇屋の皆さんは、知り合い相手の商売ですから、大して儲けてはおらず、所謂「三方良し」の関係の御店ばかりと思います。ですので、店と客の間にも、損得だけで無い一段上の、信頼関係を作ることは、必ず出来る話しだと思って続けています。

 そう考えて、さきほど紹介しました「すき焼き思い出ストーリー」とか「すき焼き川柳onツイッター」とか「記念日割引」とか、ネットを使って、いろいろやって参ったのですが、地震の後に、店と客の絆のことが、ほとんど語られないのを視まして、これは残念だ、もう一段頑張ろう!と思って始めましたのが、この「1千人の笑顔計画」であります。画面をご覧下さい。 

 このプロジェクトは、ややこしい所は一つもありません。まず「ちんや」で、東北の牛を食べていただき、食後に飛びっきりの笑顔を撮影させていただき、その笑顔画像を「ちんや」のサイトにUPします。また、その御客様が「ちんや」においでの間にプリントアウトも致しまして、その紙焼き写真を、次回持って来ていただくと、そのままクーポンに成って優待がある、という簡単なシステムです。現在の参加者の数は262人でして、それを1千人まで続けよう、という試みです。

 この企画は勿論、大震災という事態を受けまして、東北で牛を飼っている人達のためにやっているわけですが、それだけではありません。先ほど来申しておりますように、手前ども「ちんや」と御客様の間にも、損得勘定だけでない、もう一段の関係を作って行きたい、そういう願いも込めて推進しています。

 ポイントは写真のクーポンです。このクーポンは、我々サイドからしますと、優待させられて嬉しいクーポンです。普通のクーポンは優待させられて腹立たしいですから、違います。嬉しいという感情が産まれるところが、かなり違うと思います。

 こうした企画の中で、ネットは当然使いますが、今の世の中に「追いついて行く」「対応する」だけでは寂しいですね。「未来の歴史を作る」~今やっているのは、そういう作業なんだ、という認識を持つことが大事だと思います。

 25年後とか50年後から今を見れば、今は歴史ですね。そういう見方をしたときに、今やるべきこととは何なんだ?それを実行したい!私は、そう思わずにおれません。

 想像力があれば、たぶん出来ることです。50年後の自社を想像してみてみましょう。そして、2062年から見て、あの2011年に、あの2012年に、ああいうことをやっておいて良かった、後からそう言ってもらえるかどうか、それを今日の仕事の基準にするべきだ、そう思い詰めています。

 「時代に対応するには、時代に対応してるだけではNG」なんです。本日は、そう指摘させていただきます。

 さて、私どもの話しばかりいたしましたが、御酒に関しても、事例をあげてみましょう。かなりイヤな事例かもしれませんが、一つあげてみます。

<この話しは、長いので8回に分けてUPします。本日は、その第7回でした。>

追伸①

 藤井恵子さん著の単行本『浅草 老舗旦那のランチ』に載せていただきました。
 不肖・住吉史彦が、「浅草演芸ホール」の席亭さんや、「音のヨーロー堂」の四代目とランチをしながら、浅草について対談する、という趣向です。

 他にも20人ほどの、浅草の旦那さんたちがリレー対談で形式で登場します。

 是非ご購読を! 平成24年6月3日、小学館発行。
 ご購入はこちらです。 (できればレビューも書いて下さいね!)

追伸②

 「日本国復興元年~1千人の笑顔計画」を実行中です。

 この「計画」では、まず「ちんや」で東北・北関東の牛を食べていただきます。そして食後の飛びっきりの笑顔を撮影させていただきます。

 その笑顔画像をこちらのサイトにUPして、北の産地の方に見ていただきます。

 現在の笑顔数は270人です。笑顔数が1千人に達するまで継続してまいります。

 参加者の方には、特典も! 

 皆様も、是非御参加下さい!

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて862日連続更新を達成しました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

 Twitterもやってます。こちらでつぶやいています。

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