牛の宮廷
私が「すきや連」や「料飲三田会」でお世話になっている大先輩で、「銀座4丁目スエヒロ」社長の、Uさんから新聞記事のコピーが送られてきました。読んで勉強せい、ということなので急いで拝見しました。
朝日新聞10/8号の、科学面のコピーなのでしょうか、「いきものがたりー霜降り偏重で多様性低下、ウシ 同じ親で似る遺伝子」という、結構分量のある記事です。この記事の中に、Uさんが長年に渡り力を入れて販売してきた「熊本あか牛」のことが載っていました。
「熊本あか牛」は、肉に霜降りが入らないので、Uさんが手がけはじめた頃は、価値の低いウシとみなされて、御苦労があったようですが、近年ではファンが増えてきました。はじめ理解されないものでも、信念をもって、継続して取り扱う先輩の姿には頭が下がります。
さて、この記事で、もう一つ私が気になったのは、「多様性低下」についてです。この件は業界外の方にも知っていただいた方が良いと思うので、ここに書いてみたいと思います。
最近「生物の多様性低下」とかいう言葉を目にしますが、この記事で言っているのは、牛の、しかも黒毛和牛の中での、「多様性低下」のことです。今、畜産の業界で言われていることは・・・
・脂肪交雑能力の高い一部の種牛に利用が集中していることから、近交係数の上昇による生産性の低下が危惧される状況にある。
・これまで黒毛和種の集団を構成してきた多数の系統が既に衰退し、遺伝的多様性の消失が懸念される状況となっている。
・遺伝的多様性を維持して近交退化による集団の衰退を防がなくてはならない。
・形質の改良と多様性の維持を目指した選抜を行い、また 地域に付属する貴重な優良和牛の系統の再構築に係る調査及び分析を行う必要がある。
なんのこっちゃ、という方のために平たく説明しますと、今、黒毛和牛は、昔のお公卿さんのような状態になりかかっているのです。
ブランド化のため、優秀な(=つまり高く売れる)牛ばかりを選抜して育て、逆に優秀でない牛の飼育は止めてきた結果、180万頭いる黒毛和牛の、遺伝子系統がなんとわずか30〜40系統に狭まってきているそうなのです。
記事によると、2000年に日本全国で登録されたメス牛64.000頭の内16.000頭が、ある有名な種牛の子孫、ということがあったそうです。種牛というのは、宮崎の口蹄疫問題の時にも注目されましたが、選抜に選抜を重ね、さらに選抜したエリート牛のことです。
そういう牛ばかりを日本中で育ててきた結果、四人に一人が親戚、という状態になってしまいました。当然近親交配が進行しています。
お公卿さんと一部の大名家が近親婚を繰り返した結果、江戸時代末期には、遺伝的に問題のある殿様が次々に生まれてしまったそうですが、現代の、牛の宮廷もマズいことになりかかっているそうです。
明治維新をおこさないといけません。
「ちんや」はブランド牛ばかりでなく、地方の、例えば島育ちの牛などを買うようにしています。そういう牛は競りに出てくる絶対数が少ないのが問題ですが、気にかけていきたいと思っています。
それにしても牛の買い方も、ややこしくなったもんです。牛を買うのに、
旧来ノ陋習ヲ破リ、天地ノ公道ニ基ヅクベシ、とはねえ。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。
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