悪い時代の過ごし方
和装業界について考えてみました。
和装市場は長期に渡って縮小し続けてきました。
関東大震災まで日本人はほとんど和装をしていましたが、地震の時和装では急いで逃げにくいということが分かり、次いで太平洋戦争。日本人の和装離れが始まりました。
しかし市場の縮小はなだらかに進むわけでなく、ある時ストンと売り上げが落ち込むことがあります。
業界の人に聞けば、戦後もまだ戦前の日本のことを覚えている人がいて、何かの時には高級な和服を買うということがあったそうですが、そういう世代の人がリタイアする時期とバブル経済の崩壊が重なったことで業界は大きな打撃を受けたそうです。
では、そういう時期に店の主はどのように過ごすべきなのでしょうか。会社である以上、赤字経営は良くありません。一般論としてそれは当然のことです。しかし会社は絶対にどんな時でも黒字にしないといけないのでしょうか。
経営者としての私自身が六代目継承後に経験したこととして、2011年の大震災以前にも2001年のBSE(所謂「狂牛病」)問題、2008年のリーマン・ショックがありました。「狂牛病」問題では、ある時突然売り上げが半分に成りましたが、あの時無理やり決算だけ黒字にしようと思えば、大勢の従業員を解雇せざるを得なかったでしょう。
しかし教育を施した人をクビにすれば、それだけ技術が失われ、いっとき事態を凌いだとしても体制を立て直すのは容易でありません。
ですので、しっかり技術を伝承して、納得のゆく品物だけを世に出したいと思うのなら、経営者には赤字を覚悟する時があってしかるべきと私は考えています。
今生き残っている御店さんはそういう状況を必ず凌いで来ており、そういう状況を凌いで来た経営者の方が必ずおいでです。
今ようやく和装業界にも脚光が当たり、市場は底を打って反転しつつあるように見えますが、その日まで忍んで来た人のことを忘れたり、軽く評価してはいけません。一世代丸ごと悪い状況ということもあり得るからです。
ここで浅草は、ずーっと景気が良いと思っている皆さんへ申し上げますが、街にも商いにも「浮き沈み」があります。1970年代には、浅草は寂しい時代を経験しました。
今はいっとき良く見えるだけで、それが頻繁に報道されていますが、いっときのことです。
悪い時代の過ごし方、むしろそれを学んでおくべきだと私は思います。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.097連続更新を達成しました。
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