世襲②
<この話しはやや長いので、昨日のこのブログから続いています>
さてさて、このブログも今日で五周年なので、日頃の請け売りばかりでなくて、少しはシリアスなことも書かねばなりません。
今日は世襲という、ちょいとシリアスでナーバスなことについて書いてみたいと思います。
なにしろ「ナッツ・リターン」騒動で世襲組は、短慮で傲慢と思われて旗色が悪いですからね。
現在親の店を継ぐか迷っている若者の中には、「ナッツ」を視て、親とは別の世界に行かねば!と思い詰めている人がいるのではないかと思います。そうするべきなのか、ここで考えてみましょう。
例えば、私は外の世界で勝負するべきだったのか?
自分で言うのもなんですが、こう見えても、そこそこの能力はございます。
では外に出てしまえば良かったかと申しますと、結論はノーで、今はそのことに確信がありますが、若い時はやはり外に興味を持ちましたし、社長を世襲してからも、選抜されていない後ろめたさを感じたこともあります。世襲組は皆そうでしょう。
そんな人生を生きてきた私が今言いたいことは、
世襲かどうか=選抜されているかどうかだけで社長を観るのは止めようよ!ということです。
一般的には、
世襲社長=ワンマン
雇われ社長=バランス型
という先入観がありますが、それは先入観と申すものです。選抜されたという自信を背景に強引な経営をする雇われ社長も少なくありません。
在任中の短期間の利益額しか眼中にないように見える方もおいでですよね。
だから、世の中の役に立っているか、で社長を観て欲しいと私は思います。
私は以前にこのブログに、
「世襲の経営者であっても人生は選択できます。自己矛盾のようですが選択できます。何を選択できるのでしょう?世襲のメリットを自己の為に活かす世襲と、世襲のメリットを世の為に活かす世襲の選択です。」
と書いたことがありますが、良い会社経営がなされているのであれば、そこの社長が世襲かどうかなんて、あんまり関係無いでしょう!というのが、今の私の考え方です。
では、良い経営がなされているのか、私はどこで判断しているのか、ですが、
その店で「客の四代目」「五代目」「六代目」が誕生しているかどうかで判断しています。
念のため申しますが、「客」というものは一代限りではありません。
ある方(お爺さん・お婆さんのお客様)の個体が亡くなっても、味覚はお子さんに継承されるのです。
去年のある日、私は一組の若いカップルを玄関から個室へ案内しようとしました。そのエレベーターの中で、カレシがカノジョに話しかけていたことは・・・
この店はねえ、死んだ爺さんに連れて来られた店なんだ!
嬉しい話しですね。
「死んだ爺さんと来た」店に連れてくる女性なのだから、おそらく本命のカノジョなのでしょう。
上手く行けば「ゴールイン」して、お子さんが出来、いつかそのお子さんと一緒に来て下さるかも。
その子が来れば、「ちんや」の客としては「死んだ爺さん」から数えて四代目になります。このように「客」という立場は継承=世襲されるのです。
お爺さん・お婆さんを「将来性が無い顧客層」とみなして冷遇すれば、こうは行きませんが、お爺さん・お婆さんを大切にすれば、「客」という立場は継承=世襲されます。
こうして世襲される味覚こそが、店の本当の資産です。
上に書きました通り、世襲組である私は自分がこの店の六代目だということを、自慢に思ってはいませんが、この店で「客の四代目」「五代目」「六代目」が誕生するなら、それは誇るべきことです。
いや、この世でこれ以上に誇らしいことは無いと思います。
「主の六代目より客の六代目」です。
それが出来ているのなら、その世襲は悪くなかったと言えるのであって、世間からとやかく言われることはありません。
世間には、最初から「ボンボン」を見下して来る人もいたりますが、つき合わなければ良いのです。「ナッツ」も気にすることはありません。
・・・というような考えを持ち始めた頃、私は向島で飲んでいてお姐さんに言われました、
「住吉さんって、てっきり創業社長かと思ったら、六代目だったんですね!」
彼女は地方から東京へ出て来て、何も知らないままに向島芸者に成り、ヤマ勘を頼りに座敷に出ていたわけですが、そんな人だからこそ、先入観とは違った印象を持ったのでしょう。
だから、現在親の店を継ぐか迷っている若い人達に申し上げたい・・・
店を継ごうぜ!
その店に在るものは何でしょう?
何十年もの間多くの人に愛されて来た仕事です。
心から誇りに思える仕事です。
もちろん苦労や苦心はイヤというほどありますが、そこに仕事があるから、
店を継ごうぜ!
ブログ五周年の日に、そう申し上げておきます。心から。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
2010年3月1日よりスタートした弊ブログも、これにて満五年連続更新です。日頃のご愛読に心より御礼申し上げます。
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