「狆屋」の後継者

 「ちんや」の玄関の、下足番の席にはビーフ・ジャーキーがストックしてあります。人間用ではなく、犬用のビーフ・ジャーキーです。可愛いワンコが散歩で周って来て、「ちんや」の前を通りかかると、下足番のオジサンは、外へ飛び出していって、ワンコにジャーキーを与えています。

  「狆屋」の後継者たる、「ちんや」だから、必須の業務として餌付けを遂行している、わけでは勿論なく、単に彼が犬好きなのです。

 餌付けの最中に、偶然「ちんや」へ入ろうとした、お客様が可愛いワンコに気がつき、一緒になって、そのまわりを囲み、餌付けに飛び入り参加、なんて言うこともたまにあります。

  そのように餌付けをしているワンコの中に、柴犬の夫婦がいました。そして、この春、その夫婦の間に、それはそれは可愛い子犬が5匹生まれ、飼い主の方は、夫婦の柴に加えて、子犬をカートに乗せて周ってくるようになりました。

 やがて、3ヶ月くらいが経過し、子犬たちには里親が決まり、カートの中の子犬の数はだんだんと減っていきました。

  そんなある日、下足のオジサンは、いつもの飼い主さんが、ワンコを連れずにやって来て、「ちんや」の中へ入ろうとするので、驚きました。

 どうしたんですか? と尋ねると、

 イヤ、今日は、すき焼き食べに来たんだよ。入っても良いんでしょ?

 ええ、ええ、それは、いらっしゃませ、どうぞ、お入り下さい!

  というわけで、飼い主さんと一緒に入店された、もう一人の方は、子犬を引き取った、里親さんのようでした。係になった、仲居の話しによると、最初から最後まで、犬の話しで盛り上がっていたとか。なんとも、微笑ましいですね。

 これも、ワンコの取り持つ御縁と言うのか、有り難い話しです。

 今度から、正式に「ワンコ受付」を造って、組織的・徹底的に餌付けするか!

 なんたって、われらは「狆屋」の後継者だし、売上につながりそうだし。

 ひひひひ。

 本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。

*「狆屋」については、いったんこちらを開け、表紙>ちんやへのご案内>沿革の順で開けて下さい。

Filed under: 今日のお客様,憧れの明治時代 — F.Sumiyoshi 10:17 AM
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