酒の四季
肉には目立った四季がありません。ですので、すき焼き屋は四季を感じにくいですね、他の料理屋に比べて。
それでは寂しいので、ザクの野菜に変化を付けて「変わりザク」ということでオプション販売しています。
そんな折、日本酒業界の方と話していたら、
酒にも四季がありますよ!
ということでした。
春の「原酒ロック」
夏の「生貯蔵」
秋の「ひやおろし」
冬の「しぼりたて」
というのが、その御提案です。
そこで季節の御酒と「変わりザク」をセットにしたメニューを作ろうかと思い、思案中です。
で、その御提案について、です。この御提案は大変結構ではあるのですが、造り手さんが考えたので、飲み手の季節感とは、微妙にズレる部分があると思います。
そもそも日本酒は、いつ頃醸造しているか、ですが、現代化していない伝統的な造り方をする蔵の場合、だいたい11月〜翌2月です。「寒づくり」と言いますね。だから毎年暮れには、最初の「しぼりたて」が出てくるわけです。
まず、ここが飲み手の季節感とズレるところです。
造り手さんは、ここでフレッシュな酒を飲ませたい所でしょうが、世間は真冬ですので、むしろ燗酒を飲みたいですね。燗酒には、フレッシュな酒でなくて落ち着いた酒の方が良いですので、すれ違いが起きてしまいますね。
「寒づくり」は2月まで、蔵によっては3月まで続きます。年内より年明けの方が寒いので、吟醸酒とか、よりお値段の高い酒を、年明けに造る傾向があるようです。
ここで出来た、吟醸酒の「しぼりたて」を春先に飲むのは良いと思います。芽吹きの季節に合います、フレッシュですので。
だから御提案の、春の「原酒ロック」は悪くはないのですが、ロックにするかどうかは、意見が分かれるでしょうね。
「しぼりたて」は加水せず、つまり原酒の状態で飲むと最高に美味いですが、度数は18〜19度と高いです。だから酒に弱い方には辛い度数です。
それでロックにしようと提案なさっているわけですが、呑み助はこれを認めないでしょうね。悪酔いを心配するのなら、チェイサーをつけておき、酒は酒のままで行きたい、という人が多いかもしれません。
夏場は日本酒党受難の季節です。
この時期は、どうしても人間の体は水分を欲しますので、サラサラと飲める、ビールのように度数が低くで、発泡性の酒が好まれます。「生貯蔵」は、日本酒の中では清涼感がありますが、ビールにかなうわけもなく難しい所でしょう。
秋の「ひやおろし」、は良いと思います。
「ひやおろし」とは、寒づくりした酒を、夏の間寝かせておいて落ち着かせたものです。これを涼しい季節になってきたら卸す、ということですね。
秋にそういう酒質のものを飲むのは良いことで、「ひや」という名前ですが燗をつけても旨いです。そうすれば秋の気分を満喫できると思います。
ただ、ここで問題なのは気候の温暖化です。
9月に入ったら、すぐ「ひやおろし」を解禁する蔵元さんが多いですが、今の東京の9月1日は、まったく夏です。お彼岸中でもまだポカポカしていて、10月に入って、ようやく秋らしくなりますね。ここがズレるところです。
9月1日では、まだ気温が30℃なので、酒を近々いやキンキンに冷やしたくなりますが、そういう飲み方は、せっかく落ち着かせた「ひやおろし」の酒質に適している、とは言い難いのです。
せっかく「ひやおろし」という過程を加えるわけですので、その御酒の魅力を最大限に引き出すような、御提案にした方が良いと思います。
できれば10月、早くてもお彼岸まで待って解禁するのが良いと思っています。
と、いうわけで、季節の御酒と「変わりザク」をセットにしたメニューを作ろうかと思い、思案中しています。
追伸
毎日新聞社発行の毎日ムック『100年の味 店100選』に載せていただきました。有難いですね。2012年1月12日発行予定とか。是非お求め下さい。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて681日連続更新を達成しました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。
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