ちんや流個体識別
このブログの4/27号に農水省安全管理課の「表示・規格指導官」様がノーアポでご来訪。立ち入り査察があったことを書きましたが、これについてブログ読者の方から「なんの検査か、良くわからない」という声が届きました。
もともと一般の方には、なじみの薄い話しであるのに加え、途中からブログを時代劇仕立てにして、茶化してしまったので、わからなかったかもしれません。
で、あらためて、何のために、牛に個体識別番号をつけているか、の説明です。それは、もし仮に日本人の誰かが、BSEに罹った場合、どの店で売られた牛か、どの生産者が育てた牛か、当局が追跡して原因追求をしたいのです。追跡能力のことをヨコ文字で、トレーサビリテイーと言うそうです。
今は全ての牛について、BSEの全頭検査をしていますので、BSEに罹ることは有り得ないですが、念のためのシステムとして、こういうものがあるのです。まあ、当局の原因追求を助けることにはなると思います。ですから、仕入れの帳簿がキチンとしているかが主に検査されます。
と、いうわけで、肉を売る場合には、店のどこかに、個体識別番号を表示する必要があるのですが、普通のお客様にとって、番号(=数字)そのものは、ほぼ興味の対象外でしょう。そこで、このブログの3/28号に書きました通り、「ちんや」では、昨年の12/10から、個体識別番号の「全組表示」を実施しています。
番号を、どこか店内の一箇所に集中して表示しておくのでなく、お客様各組ごとに、番号と産地と、それだけでなく、「ちんや」の仕入方針(考え方)も記載した書面をお渡し申しています。お客様から聞かれてから、調べてお答えするのでなく、こちらから積極的に書類を作って、肉と一緒に御席へお持ちすることにしています。
番号の表示自体は、法律上の義務なのでやめらません。そこで、どうせ表示するなら、その書類上に、お客様が興味を持っていただける情報(=「ちんや」の仕入方針)も入れ込もうじゃないか、そういう作戦です。
少し長くなりますが、その仕入れ方針を以下に転載します。
■黒毛和種(=黒毛和牛)の、雌牛(メス)のみを選んで使用しています。
黒毛和種の、メス牛の肉には「和牛香」と言う、甘い独特の風味があり、また「ちんや」の甘めの割下に良くあうので、使用しています。交雑種(=和牛とホルスタインなどの乳牛をかけあわせた牛。店頭では、「国産牛」と表示されている。)は使用いたしません。また牡牛(オス)の去勢牛も使用いたしません。
■充分な肥育期間を経た牛を選びます。また、と殺後の熟成期間も充分とります。
肥育期間の短い牛は旨味が浅いですので、30ヶ月程度肥育された牛を選んでいます。熟成期間は約1ヶ月間。なるべく骨付きの状態で熟成させます。熟成させることにより、肉のやわらかさと旨味がさらに増していきます。
■ドリップ(血液のしずく)の流出を最小限に抑えています。
牛肉を成型・カット・盛り付けする時に、ドリップが流れ出る場合がありますが、それは全てが旨味ですので、最小限にするべく、カット方法や肉の保管方法を工夫しています。また、肉が「ちんや」へ納入される以前の段階においても、市場関係者・卸売関係者と連携して、最良の保管方法を採用しています。
この書類はお持ち帰りいただくようにしています。日付が記入されていますので、ご来店の記念になると、こちらは思っているのですが、どうも観察していると、お持ち帰りになる人は多くないようです。
自分が食った牛の番号というのは、やはりどうも、殺生した記録のようで、手元に置きたくはないかもしれませんね、仏教徒としては。
そういえば、2月にお坊さん達のご宴会があった時も、牛の番号の書類を差し上げたっけ。悪いことしたかなあ。
本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。浅草「ちんや」六代目の、住吉史彦でした。
No comments yet.