海を渡ったスキヤキ
かなり、面白かったです、この本。
『海を渡ったスキヤキ アメリカを虜にした和食』(グレン・サリバン著)
すき焼きに限った本ではなく様々な和食が採り上げられているのですが、後半の盛り上がる部分は、すき焼きの件です。
まずは明治時代の話し。
この頃日本は未だ貧しく、一方アメリカ経済は黎明期でしたので、多くの日系移民が労働者としてアメリカへ渡ります。多くはひどい待遇で、特に鉄道建設の現場はド田舎だったので、食料が調達できません。
そこで移民達はなんと、近所の野山に出かけて獣を打って来ます。
で、すき焼き。この本では「すき焼き」と表現されていますが、これに匹敵するのは日本の江戸時代の「ももんじや」の料理と言えるでしょう。
野獣の臭みを抜く方法が「穴に埋めて置く」などリアルです。
移民達は、ロクな食事を与えられないので自分で料理が出来るになり、その中からアメリカで料理店を開業する者が現れます。1909年の統計では381軒もの日本人オーナーの飲食店があったとか。日本人による和食店より日本人による洋食店の評判が良かったというから面白いです。
しかし、そうした店も移民排斥法、そして太平洋戦争で壊滅的ダメージを受けます。
戦後、まったく違う形でスキヤキ・ブームが起きます。
GHQの日本統治に参加した米兵は駐在中たびたび開催していたすき焼きパーテイーをしていました。長期に渡る滞在ですから、気分を盛り上げる為にパーテイーをするのですが、盛り上がるのはすき焼きだ!と、すき焼きがハレの食べ物だということがアメリカ人にも分かったのですねえ。
彼らは帰国後もしばしばすき焼きパーテイーを開催→それが1960年頃には一大ブームとなり、スキヤキと言えば日本風全般を意味するところまで行きます。
坂本九ちゃんのヒット曲『上を向いて歩こう』がアメリカで『スキヤキ』と呼ばれたのは、日本の歌という位の意味で、内容とすき焼きが関係無くてもおかまい無しだったのです。
・・・このように、「アメリカを虜にした和食」と言っても、2020オリンピックに引っかけて和食を売り出そうという話しではありません。波乱の日米関係史の中でアメリカで生き残ってきた、和食の話しです。だから面白いと言えます。
著者がハワイ出身なだけに、ハワイに土着した和食の件も面白いです。
出版社: 中央公論新社
ISBN-10: 4120052508
ISBN-13: 978-4120052507
発売日: 2019/11/19
本日もご愛読賜り、誠に在り難うございました。
弊ブログは2010年3月1日に連載スタートし、本日は3.604本目の投稿でした。本年3月1日まで無事連載が続けば10周年になる予定です。引き続きご愛読を。
No comments yet.