第3回⑥
国際観光日本レストラン協会の「第3回青年後継者の集い」が開催され、不肖の私がセミナー講師を務めさせていただきました。
「適サシ肉」の話しを聞きたいということでしたので、以下のような内容になりました。長いので、4/21から8回に分けて公開しています。さて、
<以下本文>
次に、私の2001年から2017年、つまり店を継いでから、適サシ肉に至るまでの年月の話しをしてみたいとおもいます。
学生時代はそのまんまバブル時代という温い環境に育ち、8年間のサラリーマン生活を体験し、6年間父の下で修行した後、私が社長に成ったのは、2001年8月、36歳の時でした。自分の将来・自分の人生について危機感などというものは勿論持ち合わせていませんでした。
その私が就任翌月に遭遇したのがBSE問題でした。所謂「狂牛病」ですね。忘れもしない、2001年9月10日(=NYのテロの前日)に BSE の疑いがある牛が発見されたと農水省が発表したのです。「牛を食ったら死ぬかも・・・」という話しですから、大変です。売上は半分になって、3年間は回復しませんでした。
日本で最後にBSEの牛が確認されたのは2009年1月で、それ以降は発見されていませんから、完全にBSE問題が終結したのは2009年だと言って良いでしょう。
2001-2009は、景気が悪かったこともあり、牛の業界にとっては、本当に苦しい日々でした。
牛の業界の苦難は、それだけではありませんでした。2010年には宮崎県で口蹄疫が流行し 30万頭弱の牛が殺処分となりました。2011年の東日本大震災では、原発から飛散した放射性物質が付着した餌を食べた牛が体内被曝して、その肉が流通してしまいました。観光客の激減や飲食自粛もあり、これまた本当に苦しい日々でした。
このように牛の業界が深いダメージを蒙った結果、打開策として、各県は牛の「ブランド化」を進め始めます。1980年代から、アメリカの牛と競争する為、日本の畜産業界は肉にサシを入れる努力を続けて来ましたが、この頃から、その傾向がエスカレートするようになったと記憶しています。
この時に「ブランド化=サシを入れること」と考えるのは単純過ぎやしないか?ひたすらサシが多い肉は本当にお客様に喜んでいただけるのか?脂肪の質も考慮しないといけないのではないか?といった問題提起が行われていれば、今日のような事態に至らずに済んだと思うのですが、なぜだか、問題提起は行われませんでした。業界に重くのし掛かった危機感が異論を封じ込めたのかもしれません。
同じ頃DNA鑑定やビタミンコントロールの技術が登場したことで、サシは行き過ぎてしまいました。やがて、お客様から嫌われる水準にまで過剰なサシが肉に入るようになったのです。
ここでまた話しは逸れますが、この残念なブランド化あるいは、残念なマーケテイングは「失敗学」の研究対象に成るのでは?そう私は考えています。
そもそもですが、ブランドの基礎はお客様への「お約束」であり、その裏返しとしての、お客様からの信用・信頼である筈です。私が今回宣言したのは「適サシ肉だけを売ります」「過剰なサシを売りません」という「お約束」であって、それを私は「ちんや」というブランドの基盤にしたいと願っています。
しかし、××牛の産地の人達や県庁の人達は違いました。消費者向けには、青い空や生産者の純朴な笑顔を使ったCMを打っておいて、実際には脂の多い肉を売り込もうとしていました。あるいはロゴを創ったり・ゆるキャラを創ったりして、実際には脂の多い肉を売り込もうとしていました。
そのブランド化に無理はなかったのでしょうか?そのマーケテイングに無理はなかったのでしょうか?私は、かなりの無理筋だったと思います。
その無理筋の作戦を、こんなにも長期間、皆がなぜ平押しに押し続けてしまったのか?「失敗学」の教材として良いのではないでしょうか?
思えばですね、話しが膨らむのが私の悪い癖ですが、昭和の戦争がなぜ起きたかを考えますると、関東大震災に辿り着きます。震災で被災した企業を救済する為に発行した「震災手形」が不良債権化したことが昭和の恐慌の原因で、そこから日本は大陸進出へ突き進んでしまいました。
サシの過剰化の「そもそも」も辿っていけば、この17年間に業界が被ったダメージに行き着きます。昭和の戦争を、サシの過剰化を、なぜ誰も止められなかったのか、私が学者ならやってみたい研究テーマだと思いますし、皆さんが自分のお店のブランドを育てて行く時には、決して、絶対にマネてはならない事例だと思います。
さて話しを戻しますが、同じ頃つまり2000年代の初頭、私は・・・
<続きは明日の弊ブログで>
追伸
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本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.614日連続更新を達成しました。
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