第3回④

国際観光日本レストラン協会の「第3回青年後継者の集い」が開催され、不肖の私がセミナー講師を務めさせていただきました。

「適サシ肉」の話しを聞きたいということでしたので、以下のような内容になりました。長いので、4/21から8回に分けて公開しています。さて、

<以下本文>

今回の宣言では、脂肪の等級だけではなく、脂肪の質も重要であることもあらためて表明させていただきました。

ここからコ難しくなりますが、脂肪の質は、脂肪の融点が何℃であるか、と非常に関係があります。融点が高いと消化するのが大変、つまりモタレるからです。

そして脂肪の融点は、牛の肥育月齢が長くなると低くなる傾向があります。なぜなら、脂肪に含まれる不飽和脂肪酸の割合が月齢とともに多くなるためです。不飽和脂肪酸は、代表はオレイン酸ですが、結合がゆるく、その結果融点が低い、つまり良く融ける脂なので、それが多いと脂全体も融けるのです。

次に融ける脂が増えるメカニズムをひも解きますと、不飽和脂肪酸をつくる酵素=脂肪酸不飽和化酵素、名前は覚えなくてOKですが、ステアロイルCoAデサチュラーゼ(=略してSCD)という酵素が関与していることが分かっています。

で、そのSCDの作用を、牛の成長ホルモンが抑制するのです。ここも繰り返します・・・体が成長している間13カ月齢程度は、SCDが抑制されていて、成長が止まる頃になると、成長ホルモンの分泌が低下し、そこからSCDが活発になり、不飽和脂肪酸、つまり良く融ける脂が増えると考えられているのです。 

成長ホルモンが働いてSCDが抑制されている状態の牛は、言ってみれば、高校の相撲部の部活男子のようなものです。成長ホルモンが出続けていてSCDが働かない間は、飽和脂肪酸たとえばステアリン酸が多く、ステアリン酸の融点は69.9℃と高いので融けが悪くて、食べるとモタレます。70℃では人の体温より高いですからね、モタレます。

現役「部活男子」はモタレるんです。しかし、年齢を経てSCDが活発に働いて不飽和脂肪酸、たとえばオレイン酸が付いてくれば、オレイン酸の融点は16.3℃と低いので融けが良くて、食べ易いです。SCDが働き始めた状態は、例えて申しますと、「三十路のステキな女性」です。成長ホルモンが減ってきて、お肌ピチピチではないものの、小娘だった頃よりずっと魅力的な方のことです。

同じ月齢でもメスの方がオスより不飽和脂肪酸(オレイン酸)が多いのです。実際「ちんや」でお出ししている肉の脂は室温で融け始めます。「熟女の脂は良く融ける」って「日刊ゲンダイ」の方に言いましたら、すぐに食いついて書いてくれました。日刊ゲンダイ、関西の方は知らないかなあ。あ、牛の話しですからね。セクハラには当たりませんよ。

えー、なんでしたっけ。そう、このように25か月の去勢オスと、32カ月のメスでは、同じ黒毛和牛でも、脂の質という観点では、相撲部男子と三十路女子くらいの違いがあるのです。その二者を等級だけで比較しても、ダメなことは、すぐお分かりいただけると思います。脂肪の質も考慮しないといけないのです。だから、今回の私の「適サシ宣言」は、その脂肪の質も視野に入れたものにしたのです。正しくご理解いただけたら嬉しいです。

この様に美味しさを語る時、どうしても避けて通れないのが、生化学です。

アミノ酸とか脂肪酸とか乳酸とかコハク酸とかリンゴ酸とか鈴木さんとか佐藤さんとか・・・耳慣れない単語を言わないといけません。

ところが、そういう単語を私が発し出すと、とたんにADさんの顔が曇ります。「その話しには、たぶん、視聴者が、ついて来れないと思うんですよ・・・」例えば、脂肪の量については格付けの等級の話しをすれば、まあ、だいたいOKなのですが、それすらテレビは不正確です。

本来それに加えて、脂肪の質を語らねば「片手落ち」でして、脂肪の質を語るには、脂肪酸とかグリセロールとかの単語を言わないといけません。しかし、たいていは、そこはカットとなります。トホホです。

だいたいですね、義務教育で、さんざん理科を習わされているのに、なんで視聴者は「ついて来れない」んでしょうか?冥王星より木星の方が大きくて、冥王星は「準惑星」で木星は「惑星」だとか、ほとんどの人が知っているのに、なんで水や脂肪については、あんまりご存知ないんでしょうか?変ですよね。

水は毎日飲むのに。実に変ですよね。NASAに就職するわけでもないのに、天文に詳しいって変です。男が星座に関する知識を活かせるのは、カノジョを夜景の素晴らしい所へ連れ出してプロポーズする時ぐらいなもんです。つまり一生に一回。私は義務教育で、もっと水とかタンパク質とか脂質とかについて学んだ方が良いと思うんです。「食育」で田植えをするのも結構ですが、田圃の水についても知って欲しいです。

何故なら、水の硬度と和食の出汁の旨さには、強い関係性があるからです。江戸料理で日高昆布を使うのは、関東の水の硬度が5.5mg/Lだから。京料理で利尻昆布を使うのは、京都の水の硬度が4mg/Lだから。それをご存知であれば、硬度が304のエビアンや315のヴィッテルで昆布出汁を引こうと企てる人が登場する筈はないのです。

理科の先生方は、この件を、いかがお考えになるのでしょうか?聞いてみたいです。賢い視聴者を増やすために、冥王星のことより、食べ物のことを教えて欲しいと思います。

さて、かなり話しが逸れましたが、ともあれ

<続きは明日の弊ブログで>

追伸

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978-4-7949-6920-0 C0095

2016年2月25日発売

株式会社晶文社 刊行

 

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.612日連続更新を達成しました。

Filed under: すき焼きフル・トーク,飲食業界交遊録 — F.Sumiyoshi 12:00 AM
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