浅草オペラ

日刊ゲンダイさんが「浅草通になれる本特集」の中で拙著『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』を採り上げて下さいました。喜んで拝見しましたら、拙著と並んで小針侑起著『あゝ浅草オペラ: 写真でたどる魅惑の「インチキ」歌劇』という御本が紹介されていました。

私も、かつてクラシック音楽の端っこを齧った者ですから、読まない手はないと思い、購入しますと・・・

まず小針さんという方、存じ上げない方だなあと思いましたら、お若い方ですね。ご専門は、浅草オペラ史研究、近代芸能史研究(映画、演劇、音楽)とあります。所謂音楽評論畑の方ではないようで、今回そこが良かったと思いました。

さて、「浅草オペラ」について書かれた普通の本を読みますると、たいてい、どの歌手が、どの劇場で、どの演目を上演したかが列挙されていて、まとめの言葉として「日本国内におけるオペラ、および西洋音楽の大衆化に大きな役割を果たした。」などと書かれています。真面目です。

その一方で「浅草オペラ」には、熱狂的な若いファン「ペラゴロ」(オペラ+ゴロツキ)がいたことも知られています。その行動はゴロツキと言われるほど過激で真面目さは微塵もなくて、なぜそんなに熱狂的なファンがついたのか、上演されたオペラの演目を知っても、全然理解できません。しかし今回の御本を読むと、その経緯がすごく良く分かるのです。

今回良く分かったことは、

浅草のオペラを「浅草オペラ」たらしめるのに非常に大きな役割を果たしたのが、ゴシップ・ジャーナリズムだったということです。「浅草オペラ」の女優は、当時台頭してきたゴシップ・ジャーナリズムの、とても重要なネタだったのです。

そもそも「浅草オペラ」は、廃止になった帝国劇場洋劇部の残党が民間で活動を始めたものです。だから帝劇など行ったことのない庶民にとっては、「高嶺の花」だった人が猥雑な浅草の小屋に移って来たという話しだけで興味津々でした。

加えて、本格的なバレエの装束が当時の庶民には見慣れぬ新奇なものでした。例えば、妖精の踊りをやる場合、帝劇の広い空間で、立派な神代のセットを背景に踊れば妖精に見えますが、浅草の小屋の至近距離でそれを観た場合、胸元に光る汗まで見えてしまうわけで、妖精には見えず、女の肉体にしか見えません。これが安く観られるのですから刺激的でした。

こうして、「浅草オペラ」の女優はゴシップ・ジャーナリズムのネタになり、それに扇動された若者が浅草へ殺到したという次第です。

そういう状況ですから、音楽に真面目な女優さんは浅草を去って行き、やがて芸事はさて置いて、人気獲得競争に身を投じる女優=「発展女優」が登場します。

「ペラゴロ」が高じてくると、自分がスポンサーに成って女優の名を刷った幟を製作するという習慣が出来ますが、その幟の本数が人気のバロメーターですから、「発展女優」の中には1本でも多く獲得するため、「ペラゴロ」との食事につきあい、酒につきあい、場合によってはその後も・・・という噂が流れて、これがまた刺激的に報道されます。

小針さんは、当時のこうした加熱報道の資料を実にたくさん引用して、「浅草オペラ」の実像を読ませて行きます。女優を語る形容詞として「淫蕩」「淫堕」といった言葉が並び、音楽の内容はそっちのけだったことが分かります。とほほです。

こうした「浅草オペラ」を大正12年(1923年)関東大震災が襲い大打撃を与えますが、実は、それ以前から飽きられ始めていました。最初は刺激的でも、見慣れてしまえば、さほど刺激的ではなくなるからです。

熱狂的な人気があったのに震災後再建できなかったのは、震災以前から内容面で衰退に向かっていたからなのでした。ここは大きな教訓です。

浅草は、震災・戦災・1970年代の衰退と、20世紀に3度の危機を経験しますが、生き延びるかどうかの境目は、こういう所に在ったのかな、と私は愚考します。

なお、そんな「浅草オペラ」でしたが、今日の観点から見て、注目すべき演目も上演していました。それは「お伽歌劇」ですが、その話しまで書くと長くなるので、続きは明日の弊ブログで。

追伸①

CSフジテレビONEの

『寺門ジモンの肉専門チャンネル』に出演させていただきます。

芸能界一肉に詳しい男」寺門ジモンさんが送る肉料理に特化した待望の肉専門番組が、これです。出られて光栄です。

放送は、11/26(土) 15:50~16:20です。

 

追伸②

拙著は好評(?)販売中です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

題名:『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』

浅草の九人の旦那衆と私が、九軒のバーで語り合った対談集でして、「浅草ならではの商人論」を目指しています。

東京23区の、全ての区立図書館に収蔵されています。

四六判240頁

価格:本体1600円+税

978-4-7949-6920-0 C0095

2016年2月25日発売

株式会社晶文社 刊行

本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて2.464連続更新を達成しました。

Filed under: 浅草インサイダー情報 — F.Sumiyoshi 12:00 AM
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