福澤諭吉の衛生感覚
先日墨堤で開催された「第84回早慶レガッタ」では、我が義塾が4連覇を果たしました。
早稲田艇がコース外を進行したため失格!という、かつて聞いたことの無い事態でして、なんとも複雑な4連覇でしたが、何故コースを外れたのか、今日のところはさて置きまして、ところで同窓生諸君、
福澤諭吉先生の、食品衛生に関する感覚が、実はかなりワイルドだったことをご存じでしょうか。
先生は緒方洪庵の塾で学んでいた頃から肉食の経験があり、後には『肉食之説』という、肉食を推奨する文を書きましたが、その推奨の仕方がワイルドなのです。
当時肉と言えば「けがれたもの」という感覚です。その肉食を推奨するのですから、肉が特段けがれていないと主張しなければなりません。そこで先生は、
牛肉牛乳に臭気あるといはんか。
松魚(かつお)の塩辛くさからざるにあらず、
くさやの干物最も甚し。
先祖伝来の糠味噌へ螂蛆うじと一緒にかきまぜたる茄子大根の新漬はいかん。
皆是人の耳目鼻口に慣るると慣れざるとに由て然るのみ。慣れたる物を善と言ひ、慣れざる物を悪しと言ふ・・・
「しおから」と「くさや」は臭いを放つ醗酵食品の代表です。糠味噌もやはり醗酵食品で、その中にウジ虫が落ちた場合、微生物が分泌する酵素によって分解されてしまいます。
発酵食品の中は善玉菌が支配していて、悪玉菌が繁殖するのを許しません。それが「醗酵」なのか「腐敗」なのかは、その菌を人が好むか(善)好まないか(悪)の違いなのであって、菌がはびこっていることは同じです。
そういう状態の食品を古来日本人は好んできました。
一方の肉ですが、冷蔵庫のない時代ですから、肉の表面は、置いておけば腐敗が進みます。加えて、牛の屠殺の時に放血が不充分だったでしょうから、臭いはあったでしょう、かなり。
しかし繰り返しますが、腐敗も醗酵も起きていることは同じです。
旧弊の人々が嫌う目新しき物と似たようなものが、古来から在る物の中にも在るぞ、という論法は先生の得意とするところです。
醗酵食品にもこの論法を適用して、肉を嫌う者は、
畢竟人の天性を知らず人身の窮理をわきまへざる無学文盲の空論なり(!)
と断じています。
ウジ虫が落ちても糠味噌は平気で食えるぞ。みんな食って来たじゃないか!と言うのですから、相い変わらずイケズ・キャラ全開ですな、先生。
だいたい、先生は中津藩の下級武士でした。泰平の世に大人しく藩の御用を務めていれば、おそらく、白米、味噌汁、漬物、魚の干物などを常食して一生を終えたことでしょう。
それが何を血迷ったか、先生は緒方塾に入り、その頃には、彫りを入れた町のゴロツキと緒方塾の書生しか常連がいないような、アウトローな牛鍋屋に行くようになってしまいました。
思いまするに、世の中を変えるには、
白米、味噌汁、漬物、干物ではダメなんじゃないでしょうか?
ワイルドに行きましょう、同窓生諸君。
追伸
『日本のごちそう すき焼き』は、平凡社より刊行されました。
この本は、
食文化研究家の向笠千恵子先生が、すき焼きという面白き食べ物について語り尽くした7章と、
全国の、有志のすき焼き店主31人が、自店のすき焼き自慢を3ページずつ書いた部分の二部で構成された本で、
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本日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。御蔭様にて1.887日連続更新を達成しました。
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